インドネシアでは、刑法改正によりLGBTが法的に認められていません。しかし、庶民の間では宗教的規範と社会活動を分けて考える良心的な感覚が根付いています。また、宗教的価値観の下で、モスクや教会のネットワークを通じて困った人々への支援活動が積極的に行われています。
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インドネシアはなぜ発展するのか?政治・経済・社会を支える構造と成長戦略
スカルノ大統領時代は共産主義政策が推進され、西側諸国からの投資が減少しました。スハルト大統領は西側諸国との関係を強化し、工業化を進めましたが、石油依存から脱却できませんでした。1998年のアジア通貨危機後、インドネシアは民主主義国家と…
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この記事でわかること
- インドネシアでは刑法改正によりLGBTが法的に認められていません。
- イスラム強硬派はアホック知事の政策に反発しています。
- インドネシアの多くのムスリムは政治と宗教を分けて考えています。
- 刑法改正案は婚外性交渉を禁止し、LGBT差別を助長する懸念があります。
- 宗教的価値観が社会活動に影響を与える一方、支援活動も活発です。
イスラム強硬派が不満とするところ
2016年9月にアホック知事がPulau Seribuで行ったスピーチの中でイスラムを侮辱したという反発が起きましたが、それ以前からもイスラム強硬派の中にはアホック知事へのフラストレーションが溜まっていました。DOSA-DOSA AHOK(アホック州知事の罪の数々)というリストがSNSで出回っていました。
2016年11月の某日、Jum'atan(イスラムの金曜礼拝)後に、デモ隊がホテルインドネシア前広場に集まってくると聞いていたので、早めにオフィスを出てアパートに戻るためにPlaza Indonesia側の通りに出たところ、団体さん既に到着済みでした。
当時のデモを機会にイスラム強硬派は何が不満なのかを少し知っておこうとあらためて読んで見ました。
- Ahok menghancurkan Masjid Baitul Arif di Jatinegara, Jakarta Timur, sehingga warga setempat tidak bisa shalat jum’at dan melakukan kajian Islam sampai saat ini.
「Jatineragaのモスクをぶっ壊したせいで金曜礼拝が出来なくなった」ということですが、土地整備という州知事としての仕事とはいえ、まあイスラム教徒側の感情も理解はできます。 - Ahok menghancurkan masjid bersejarah Amir Hamzah di Taman Ismail Marzuki (TIM). Dengan dalih renovasi namun hingga hari ini tidak ada tanda-tanda akan dibangun kembali…これも別の歴史あるモスクをぶっ壊したことへの不満なんですが、後半部分は応用して「Dengan dalih(alasan) sakit namun hingga 2020年まで belum dikerjakan(病気という言い訳で2020年まで作業が終わっていない、どういうことじゃー)」みたいに部下に対して使えそうな表現です。
- Tidak puas dengan menghancurkan masjid-masjid, Ahok mengganti para pejabat Muslim dengan pejabat-pejabat kafir seperti Lurah Susan, lurah Grace, dan sebagainya.
「Tidak puas dengan~」はかなりアジテーションな口調。「アイツはモスクをぶっ壊すだけでは飽き足らず、ムスリムの役人を異教徒の役人に挿げ替えた」ということ。 - Tak hanya itu, kepala sekolah Muslim di DKI juga banyak yang diganti dengan alasan lelang jabatan. Hasilnya, banyak kepala sekolah Kristen sekarang.
さらに追い討ちをかけるように「Tak hanya itu」で「それだけじゃないぞ、皆の衆~~~」という口調で、要は「多くのムスリムの校長先生がクリスチャンの校長先生に挿げ替えられた」ということ。 - Merasa didukung media-media sekuler, Ahok terus menghapus simbol-simbol Islam. Melalui kadisdik DKI yang kafir, Lasro Masbrun, dia mengeluarkan aturan mengganti busana Muslim di sekolah-sekolah DKI setiapjum’at dengan baju betawi, padahal sebenarnya baju betawi bisa di hari lain, seperti aturan di sekolah-sekolahBandung, yaitu hari Rabu untuk baju daerah (Sunda), sedangkan Jum’at tetap dengan busana Muslim.
「メディアに露出するイスラムのシンボルを消した」のと「学校の金曜のイスラム服をジャカルタの伝統服に変えた」まあこういう問題には敏感ですからね。 - Setelah sukses menghancurkan masjid dan menghilangkan simbol-simbol Islam di DKI Jakarta, Ahok juga membatasi kegiatan syiar Islam seperti malam takbiran dengan alasan macet. Padahal perayaan tahun baru yang dipimpin AHOK JAUH LEBIH PARAH macetnya dengan menutup jalan-jalan protokol jakarta.
「Setelah sukses~(モスクをぶっ壊しイスラムのシンボルを消し去ることに成功したその次には)」というのが益々アジテーションっぽいですが、ラマダン明け前夜の街中のバカ騒ぎが見ないと思っていたら禁止されてたのね。 - Ahok juga mendukung legalisasi pelacuran yaitu lokalisasi prostitusi, dan menyebut yang menolaknya adalah munafik, termasuk Muhammadiyah. Akhirnya Muhammadiyah resmi melaporkan Ahok ke polisi dengan pasal penghinaan.
「売春宿など性産業を否定するヤツは偽善者だ」という発言に対する反発ですが、これは難しい問題です。 - Ketika umat Islam mati-matian memprotes Miss World, Ahok justru mendukung total bahkan bangga jika Jakarta jadi tuan rumah final kontes umbar aurat itu.
ミスワールド開催地候補に賛成したことへの反発。うーん。 - Tak kalah parahnya adalah Ahok mendukung wacana penghapusan Kolom Agama di KTP.
KTPの宗教の記載を無くしてしまおうということへの反発。かつて第4第大統領グスドゥール氏(ワヒド氏)の「本当の友人は相手の宗教が何かを聞かない」という言葉が思い出されます。 - Ahok juga mengeluarkan pernyataan yang mengejutkan : BOLEH MINUM BIR, asal jangan mabok. Tak cuma mendukung Miss World, Ahok juga mendukung penuh konser maksiat Lady Gaga.
「酔っ払わなければビール飲んでもいい(ビール飲んで死んだヤツは居ないだろ)」というアホック氏の名言とレディガガ来イに賛成したことへの反発。そういえば強硬派の反対で2012年の来イ公演が中止になりました。 - Pada lebaran yang lalu, situasi yang adem tiba-tiba menjadi panas kembali dengan wacana Ahok untuk menghapuskan cuti bersama saat lebaran. Apa dia tidakizinkan umat Islam berlebaran dan silaturahmi…? Kenapa pula tidak dicontohkan melalui pencabutan cuti bersama natal/tahun baru…? Mengapa hanya dan harus lebaran yang dibidik ?
ラマダン明け祝日前後を有給にするよう奨励することを止めたことへの反発。 - Ada yang bilang, tidak apa-apa pemimpin kafir asal tak korupsi. Nah, ternyata Ahok patut diduga terlibat korupsi pengadaan bus Transjakarta sebesar 1,6 Triliun.Sumber Waras, dll . Koruptor-koruptor BLBI juga kebanyakan “sejenis” dengan Ahok, yaitu konglomerat-konglomerat dari warga/golongan “keturunan” kafir dibelakang Ahok yang jelas memusuhi umat Islam dari dulu.
「汚職さえしなければ州知事が異教徒でもOK」と考える人に「アホック知事もトランスジャカルタの件で汚職の疑いがあると言える」と訴えています。「diduga terlibat korupsi(汚職の疑いがある)」はインドネシア語のニュースでよく使われる表現ですが「patut(同等の)」を付けて敢えて匂わせるような表現に弱めています。 - Ahok menganjurkan Sex bebas bahkan di usia remaja, dengan syarat pakai kondom.
「コンドームつければ思春期の青年もフリーセックスOK」というのはだいぶ話が曲解されているかもしれません。アジテーションだからこうなるんでしょうけど。 - Ahok menghina Nabi umat Islam terkait prostitusi dgn sebut prostitusi tak bisa dihilangkan, dgn mencontohkan zaman Nabi umat Islam pun ada masih prostitusi.
「イスラムの預言者の時代から売春産業はあったのだから売春は無くならない」というのが侮辱であるということ。Ahok氏はとことん現実主義者です。 - Ahok larang TAKBIRAN Keliling Jakarta dn alasan kemacetan, sementara TAHUN BARU dibuatkan panggung khusus di jalan utama ibukota.
以前はラマダン明け前夜はバスや車の屋根に乗ってラッパを吹き鳴らしながら道路を占拠していましたが、特定の専用ステージ周辺でしか騒げなくなりました。 - Ahok larang kegiatan zikir di Monas padahal kegiatan Paskah diijinkan.? Belum termasuk pengusuran rumah masyarakat besar-besaran di DKI Jakarta yg menghancurkan rumah tempat tinggal mereka..? Pembangunan reklamasi demi kepentingan mafia mafia cukong..? dan masih banyak lagi..
モナスでのズィクル(唱念)の禁止、公共住宅の強制立退き、マフィアの利益のための埋め立て開発、などなど他にもいろいろあるぞー、ということ。
宗教の違いによる価値観の差
宗教の違いによる価値観の差をどこまで許容できるかは人によって異なります。特定の強硬派集団が形成されるのは避けられないことですが、一方でDKI(Daerah Khusus Ibu Kota)の40%以上のイスラム教徒がアホック氏を支持していたと言われています。イスラム的価値観に抵触する事案に対して妥協しない一部強硬派のデモがメディアを賑わせるため、インドネシア全体がイスラム原理主義的に見られることが残念です。しかし、実際には価値観の違いを理解し、政治と宗教を切り離して考えることができるムスリムが大半です。 事例: スハルト大統領退陣後の民主化以降、インドネシアではイスラム政党が第1党になったことが一度もありません。多様性の中の統一を国是とするインドネシアのイスラム社会では、世界最大のイスラム人口を抱えながらも、政治と宗教のバランスが絶妙に保たれています。 KPK法改正に続く刑法改正案 以前、私と妻は中部ジャワのTegalから南へ45kmの山奥にあるGuciの温泉ホテルに、夜8時頃予約なしで宿泊しようとしました。すると、シャリア(syariah イスラム法)に基づき、surat nikah(婚姻証明書)の提示を求められました。 婚姻証明書を持っていなかったため、私たちは結婚指輪の内側に彫られた名前と、妻のKTP、私のKITASの名前を照合して、婚姻関係を証明しました。インドネシアは民主主義国家であり、アチェ州など一部地域でシャリアが適用されることは知っていましたが、婚前の男女が同じホテルの部屋に宿泊することに対して婚姻関係を証明するという体験は新鮮でした。 刑法(KUHP=Kitab Undang-undang Hukum Pidana)では、既婚の男女による不倫は姦淫(zina)として禁止されていましたが、2020年9月18日に提出された新刑法草案では、zinaの定義が婚前外性交渉全てに拡大されています。この改正により、民主主義国家としての国民の権利が侵害されるのではないかという懸念があります。 婚外性交渉、未婚カップルの同居の禁止⇒基本的人権の侵害 大統領や公的機関への侮辱や虚偽報道・宗教への冒涜に対する罰則 宗教の冒涜に対する罰則強化⇒言論の自由の侵害 私は結婚前にジャカルタとバリ島で4年ほど同棲していましたので、これも通報されれば半年以下の禁固または罰金を言い渡される可能性があります。また、婚外性交渉を認めないことは、同性婚を認めていないインドネシアにおいて、実質的にLGBTを認めないと法で宣言するようなものであり、LGBT差別が助長される懸念もあります。 事例: KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi 汚職撲滅委員会)法改正案が国会DPRで可決・成立したことで、KPKの自主捜査権・逮捕権・公訴権が制限されるようになり、インドネシアの民主主義の退行が懸念されています。 2019年総選挙における民主化勢力とイスラム勢力の二極化 2019年4月の大統領選挙と国会DPR選挙は、ジョコウィ候補を支持する民主勢力とプラボウォ候補を支持するイスラム勢力の二極化が顕著でした。この分断を印象付けたのは、両候補を支援する政党のイデオロギーの違いです。 論議されている刑法改正案RUU(rancangan undang-undang) KUHP(Kitab Undang-undang Hukum Pidana) 2017年4月、元ジャカルタ特別州知事アホック氏がイスラムに対する冒涜政治家とされ、知事選挙で敗れた後に禁固2年の判決を受けました。そのアホック氏の支援組織を母体に、グレース・ナタリー氏が率いるインドネシア連帯党(PSI)が誕生し、ジョコウィ候補支持を明確にしました。 PSIはイスラム法に基づく一夫多妻制の反対やLGBTの権利の尊重を掲げ、リベラルな印象を持たれましたが、今回の選挙で国会DPRの議席を獲得することはできませんでした。 対照的に、ウマラーとウンマに近いイスラム政党を目指す福祉正義党(PKS)はプラボウォ候補支持を明確にし、SNSを通じて「PSIはLGBT容認の政党」との印象を広め、ジョコウィ候補側にダメージを与えようとしました。この戦略はある程度の成果を上げたと考えられます。 これがインドネシアの庶民感覚であり、大多数の声はLGBTに対して批判的であることは否定できません。 事例: 私の身近な例では、クリスチャンである妻やその友人たちも同性婚を認めず、仕事上のパートナーである敬虔なイスラム教徒のインドネシア人もLGBTの存在を理解しません。 宗教的制約を道徳的行動規範でとどめるか法に持ち込むか 民主主義の下では、主権は国民に帰属し、法の下で国民の活動や権利が保護されます。したがって、民主主義の退行とは、主権が国に属し、法によって国民の活動や権利を規制することを指します。 イスラム法が民主主義の法律と適合するかという問題について、絶対的な主権が神に帰属すると考える場合、民主主義とは相入れません。しかし、規範は規範としても実際に実行するのは国民であると寛容に捉えるのが、インドネシアにおける従来の法の考え方でした。 インドネシアでは、政宗分離により宗教的価値観は道徳的な行動規範として制約を持つのみで、法的な制約はありません。これが「緩いイスラム国家」と言われる所以です。婚外交渉やLGBTの存在が法に抵触すると判断されるなら、それは法の下の平等に反する民主主義の退行です。 イスラム的価値観は道徳的行動規範にとどめ、多民族多宗教の集まりを束ねるための「多様性の中の統一」というインドネシアの国是に立ち返ることを願っています。 事例: 過去に提起されては立ち消えを繰り返してきたアルコール規制法案やハラール法案が思い浮かびます。行きつく先がビンタンビール禁止、バビグリンや豚骨ラーメンも禁止という悪夢が脳裏をよぎります。 ユーチューバーがオカマさんを騙してゴミを寄付して逮捕された事件 日本の陰湿な弱い者いじめ的な事件を見るたびに、経済的地位は日本より低くとも、社会全体で強者は弱者を助けるべきという感覚が生きているインドネシアのほうが、日本よりも民度が高いのではないかと感じることがあります。しかし、インドネシアでもマイノリティを侮辱するような事件が起こり得ます。 インドネシアのユーチューバーが、バンドゥン市内の路上でのパフォーマンスで日銭を稼ぐオカマさんに、Sembako(9種類の生活必需品)が入っていると偽って中身がSampah(ゴミ)の箱を寄付しました。オカマさんが涙を流さんばかりに喜んだ後に激怒する一部始終をYoutubeにアップしたことが大ニュースとなりました。この事件では、ユーチューバーが問題の動画をアップした後に、自らの反省のコメントを否定して視聴者をバカにした態度が大きな怒りを買い、警察の本気度が一気に上がって素早い逮捕に繋がりました。 sembako(食料)と偽って sampah(ゴミ)を渡して逮捕されたYoutuberは、minta maaf, tapi bohon(反省してます、嘘だよーん)という動画をアップしたのが火に油を注いだんだな。警察からkamu sebentar lagi bebas, tapi bohon(もうすぐ釈放される、嘘だよーん)とからかわれているのが因果応報。 オカマさんを侮辱し視聴者を騙した言葉が、逮捕された後の警察の取り調べの中で犯人自身に返ってきたことに因果応報を感じました。しかし、イスラム教やキリスト教のような一神教では、過去の行いが結果として現れるというカルマ(Karma)という考えはありません。何故なら人間の業を規定するのは、唯一神であるアラーやイエスキリストだけであり、過去の業の影響を認めることは、神の力を軽視することに繋がりかねないからです。 宗教的価値観が社会行動をどのように規定するか イスラム教が主流のインドネシアでは、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の地位は低いですが、宗教的規範と社会活動を分けて考える庶民感覚がありました。かつては民放の地上波でも女装したコメディアンが活躍し、女性っぽい仕草の男性MCがゴシップ番組を司会することもありました。しかし、刑法改正で婚外性交渉が認められなくなり、同性婚を認めていないインドネシアでは、実質的にLGBTを認めないと法で宣言した形になりました。これにより、テレビから女装したコメディアンの姿は消えてしまいました。 インドネシアでユーチューバーが引き起こした事件のような、社会の中での弱い者いじめ的なニュースは滅多に聞かれませんが、被害者であるオカマさん達の怒りと悲しみが社会で共感を呼び、犯人のスピード逮捕に繋がりました。このように庶民の間には宗教的規範に縛られない道徳的感覚が強い一方で、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、マスクやアルコール消毒液の寄付、職を失った人への金銭的支援、休校になった子供たちへの教育支援などを社会に浸透させる際に、イスラム団体や教会などの宗教ネットワークが大きな役割を果たしています。 刑法改正など政治的には時代に逆行している面もありますが、世界最多のイスラム教徒が生活する国で、宗教的規範と社会活動を分けて考える良心的な庶民感覚が生きていること、その一方で宗教的価値観の下で困った人々への支援活動が積極的に行われることが、外国人にとってインドネシアという国の奥の深さを感じさせる理由の一つであると考えます。

