宗教的規範と社会活動と分けて考えるインドネシアの良心的な庶民感覚

2020/05/11

イスラム急進派のデモ

インドネシアは刑法改正によりLGBTを法的に認めない一方で、庶民の間では宗教的規範と社会活動と分けて考える良心的な感覚が生きています。そして宗教的価値観の下でモスクや教会のネットワークを通じて困った人々への支援活動が積極的に行われています。

スナヤン競技場(Gelora Bung Karno)

インドネシアの政治・経済・社会

日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。

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イスラム強硬派が不満とするところ

2016年9月にアホック知事がPulau Seribuで行ったスピーチの中でイスラムを侮辱したいうことへの反発が起きましたが、それ以前からもイスラム強硬派の中にはアホック知事へのフラストレーションが溜まっていたわけで、DOSA-DOSA AHOK(アホック州知事の罪の数々)というリストがSNSで出回っていました。

2016年11月の某日、Jum'atan(イスラムの金曜礼拝)後に、デモ隊がホテルインドネシア前広場に集まってくると聞いていたので、早めにオフィスを出てアパートに戻るためにPlaza Indonesia側の通りに出たところ、団体さん既に到着済みでした。

特に読まずにスルーしていたのですが、当時のデモを機会にイスラム強硬派は何が不満なのかを少し知っておこうとあらためて読んで見ました。

  1. Ahok menghancurkan Masjid Baitul Arif di Jatinegara, Jakarta Timur, sehingga warga setempat tidak bisa shalat jum’at dan melakukan kajian Islam sampai saat ini.
    「Jatineragaのモスクをぶっ壊したせいで金曜礼拝が出来なくなった」ということですが、土地整備という州知事としての仕事とはいえ、まあイスラム教徒側の感情も理解はできます。
  2. Ahok menghancurkan masjid bersejarah Amir Hamzah di Taman Ismail Marzuki (TIM). Dengan dalih renovasi namun hingga hari ini tidak ada tanda-tanda akan dibangun kembali…
    これも別の歴史あるモスクをぶっ壊したことへの不満なんですが、後半部分は応用して「Dengan dalih(alasan) sakit namun hingga hari ini belum dikerjakan(病気という言い訳で今日まで作業が終わっていない、どういうことじゃー)」みたいに部下に対して使えそうな表現です。
  3. Tidak puas dengan menghancurkan masjid-masjid, Ahok mengganti para pejabat Muslim dengan pejabat-pejabat kafir seperti Lurah Susan, lurah Grace, dan sebagainya.
    「Tidak puas dengan~」はかなりアジテーションな口調。「アイツはモスクをぶっ壊すだけでは飽き足らず、ムスリムの役人を異教徒の役人に挿げ替えた」ということ。
  4. Tak hanya itu, kepala sekolah Muslim di DKI juga banyak yang diganti dengan alasan lelang jabatan. Hasilnya, banyak kepala sekolah Kristen sekarang.
    さらに追い討ちをかけるように「Tak hanya itu」で「それだけじゃないぞ、皆の衆~~~」という口調で、要は「多くのムスリムの校長先生がクリスチャンの校長先生に挿げ替えられた」ということ。
  5. Merasa didukung media-media sekuler, Ahok terus menghapus simbol-simbol Islam. Melalui kadisdik DKI yang kafir, Lasro Masbrun, dia mengeluarkan aturan mengganti busana Muslim di sekolah-sekolah DKI setiapjum’at dengan baju betawi, padahal sebenarnya baju betawi bisa di hari lain, seperti aturan di sekolah-sekolahBandung, yaitu hari Rabu untuk baju daerah (Sunda), sedangkan Jum’at tetap dengan busana Muslim.
    「メディアに露出するイスラムのシンボルを消した」のと「学校の金曜のイスラム服をジャカルタの伝統服に変えた」まあこういう問題には敏感ですからね。
  6. Setelah sukses menghancurkan masjid dan menghilangkan simbol-simbol Islam di DKI Jakarta, Ahok juga membatasi kegiatan syiar Islam seperti malam takbiran dengan alasan macet. Padahal perayaan tahun baru yang dipimpin AHOK JAUH LEBIH PARAH macetnya dengan menutup jalan-jalan protokol jakarta.
    「Setelah sukses~(モスクをぶっ壊しイスラムのシンボルを消し去ることに成功したその次には)」というのが益々アジテーションっぽいですが、ラマダン明け前夜の街中のバカ騒ぎがここ数年見ないと思っていたら禁止されてたのね。
  7. Ahok juga mendukung legalisasi pelacuran yaitu lokalisasi prostitusi, dan menyebut yang menolaknya adalah munafik, termasuk Muhammadiyah. Akhirnya Muhammadiyah resmi melaporkan Ahok ke polisi dengan pasal penghinaan.
    「売春宿など性産業を否定するヤツは偽善者だ」という発言に対する反発ですが、これは難しい問題です。
  8. Ketika umat Islam mati-matian memprotes Miss World, Ahok justru mendukung total bahkan bangga jika Jakarta jadi tuan rumah final kontes umbar aurat itu.
    ミスワールド開催地候補に賛成したことへの反発。うーん。
  9. Tak kalah parahnya adalah Ahok mendukung wacana penghapusan Kolom Agama di KTP.
    KTPの宗教の記載を無くしてしまおうということへの反発。かつて第4第大統領グスドゥール氏(ワヒド氏)の「本当の友人は相手の宗教が何かを聞かない」という言葉が思い出されます。
  10. Ahok juga mengeluarkan pernyataan yang mengejutkan : BOLEH MINUM BIR, asal jangan mabok. Tak cuma mendukung Miss World, Ahok juga mendukung penuh konser maksiat Lady Gaga.
    「酔っ払わなければビール飲んでもいい(ビール飲んで死んだヤツは居ないだろ)」というアホック氏の名言とレディガガ来イに賛成したことへの反発。そういえば強硬派の反対で2012年の来イ公演が中止になりました。
  11. Pada lebaran yang lalu, situasi yang adem tiba-tiba menjadi panas kembali dengan wacana Ahok untuk menghapuskan cuti bersama saat lebaran. Apa dia tidakizinkan umat Islam berlebaran dan silaturahmi…? Kenapa pula tidak dicontohkan melalui pencabutan cuti bersama natal/tahun baru…? Mengapa hanya dan harus lebaran yang dibidik ?
    ラマダン明け祝日前後を有給にするよう奨励することを止めたことへの反発。
  12. Ada yang bilang, tidak apa-apa pemimpin kafir asal tak korupsi. Nah, ternyata Ahok patut diduga terlibat korupsi pengadaan bus Transjakarta sebesar 1,6 Triliun.Sumber Waras, dll . Koruptor-koruptor BLBI juga kebanyakan “sejenis” dengan Ahok, yaitu konglomerat-konglomerat dari warga/golongan “keturunan” kafir dibelakang Ahok yang jelas memusuhi umat Islam dari dulu.
    「汚職さえしなければ州知事が異教徒でもOK」と考える人に「アホック知事もトランスジャカルタの件で汚職の疑いがあると言える」と訴えています。「diduga terlibat korupsi(汚職の疑いがある)」はインドネシア語のニュースでよく使われる表現ですが「patut(同等の)」を付けて敢えて匂わせるような表現に弱めています。
  13. Ahok menganjurkan Sex bebas bahkan di usia remaja, dengan syarat pakai kondom.
    「コンドームつければ思春期の青年もフリーセックスOK」というのはだいぶ話が曲解されているかもしれません。アジテーションだからこうなるんでしょうけど。
  14. Ahok menghina Nabi umat Islam terkait prostitusi dgn sebut prostitusi tak bisa dihilangkan, dgn mencontohkan zaman Nabi umat Islam pun ada masih prostitusi.
    「イスラムの預言者の時代から売春産業はあったのだから売春は無くならない」というのが侮辱であるということ。Ahok氏はとことん現実主義者です。
  15. Ahok larang TAKBIRAN Keliling Jakarta dn alasan kemacetan, sementara TAHUN BARU dibuatkan panggung khusus di jalan utama ibukota.
    以前はラマダン明け前夜はバスや車の屋根に乗ってラッパを吹き鳴らしながら道路を占拠していましたが、今は特定の専用ステージ周辺でしか騒げなくなりました。
  16. Ahok larang kegiatan zikir di Monas padahal kegiatan Paskah diijinkan.? Belum termasuk pengusuran rumah masyarakat besar-besaran di DKI Jakarta yg menghancurkan rumah tempat tinggal mereka..? Pembangunan reklamasi demi kepentingan mafia mafia cukong..? dan masih banyak lagi..
    モナスでのズィクル(唱念)の禁止、公共住宅の強制立退き、マフィアの利益のための埋め立て開発、などなど他にもいろいろあるぞー、ということ。

宗教の違いによる価値観の差

宗教の違いによる価値観の差をどこまで許容できるかは人によって異なりますので、特定の強硬派集団が形成されてしまうのは止むを得ないことだと思いますが、その一方で現在でもDKI(Daerah Khusus Ibu Kota)の40%以上のイスラム教徒がアホック氏を支持しています。

イスラム的価値観に少しでも抵触する事案に対しては一切妥協の余地なしの一部強硬派によるデモばかりがメディアを賑わせるため、インドネシア全体がイスラム原理主義っぽく見られることが非常に残念であり、実際には価値観の違いを理解し政治と宗教を切り離して考えることができるムスリムが大半であることが、なかなか海外には伝わりにくいと思います。

事実としてスハルト大統領退陣後の民主化以降、インドネシアではイスラム政党が第1党になったことが1度もなく、多様性の中の統一を国是とするインドネシアのイスラム社会では、世界最大のイスラム人口を抱えながらも、政治と宗教のバランスが絶妙に保たれていることが判ります。

KPK法改正に続く刑法改正案

以前嫁はんと二人で中部ジャワTegalから南へ45kmの山奥の村Guciの温泉ホテルに夜8時頃予約なしで宿泊しようとしたら、なんとシャリア(syariah イスラム法)に基づきsurat nikah(婚姻証明書)の提示を求められたことがあります。

Guciの渓谷と温泉プール

Guciの渓谷と温泉プール

そんなもの都合よく携帯しているわけないので、自分と嫁はんの結婚指輪の内側に彫られた名前と、嫁はんのKTPと自分のKITASの名前を照合して、なんとか婚姻関係を証明できたというレアな体験をしました。

インドネシアは中東諸国のようなイスラム国家ではなく民主主義国家であり、アチェ州など一部地域でシャリアが適要されるのは知っていたとはいえ、婚前前の男女が同じホテルの部屋に宿泊するのはケシカランというホテル側に対して、婚姻関係を証明するという体験はむしろ新鮮でした。

現行の刑法(KUHP=Kitab Undang-undang Hukum Pidana)の中では、既婚の男女による不倫は姦淫(zina)、つまり性に関する不道徳であるとして禁止されていましたが、先日9月18日に提出された新刑法草案ではzinaの定義が婚前外性交渉全てに該当すると解釈の幅が広げられています。

今回の刑法改正によって以下の民主主義国家としての国民の権利が侵害されるのではないかという懸念が出ています。

  1. 婚外性交渉、未婚カップルの同居の禁止⇒基本的人権の侵害
  2. 大統領や公的機関への侮辱や虚偽報道・宗教への冒涜に対する罰則
    宗教の冒涜に対する罰則強化⇒言論の自由の侵害

自分は今の嫁はんと結婚する前にジャカルタとバリ島で通算4年ほど同棲していましたので、これも通報されれば半年以下の禁固または罰金を言い渡されることになります。

また婚外性交渉を認めないということは、同性婚を認めていないインドネシアにおいては、実質的にLGBT(Lesbian, Gay, Biseksual, dan Transgender)を認めないと法で宣言するようなものであり、LGBT差別が助長されるという懸念も出ています。

改正刑法は明日24日の国会DPRで可決され、2年後の2021年から施行される見込みで、先日20日ジョコウィ大統領は採決の見送りを国会DPRに要請したところですが、既にオーストラリアやニュージーランドからはバリ島への旅行のキャンセルも出始めているようです。

9月17日にはKPK(Komisi Pemberantasan Korupsi 汚職撲滅委員会)法改正案が国会DPRで可決・成立したばかりであり、KPKの自主捜査権・逮捕権・公訴権が制限されるようになることもあわせて、インドネシアの民主主義の退行が懸念されています。

2019年総選挙における民主化勢力とイスラム勢力の二極化

2019年4月の大統領選挙、国会DPR選挙はジョコウィ候補側=民主勢力、プラボウォ候補側=イスラム勢力という二極化、分断化と評されることが多いのですが、それを印象付けたのが両候補を支援する政党のイデオロギーの違いでした。

刑法改正案

論議されている刑法改正案RUU(rancangan undang-undang) KUHP(Kitab Undang-undang Hukum Pidana)

2017年4月に元ジャカルタ特別州知事アホック氏がイスラムに対する冒涜政治家というレッテルを貼られ、知事選挙で敗れた後に禁固2年の判決を受け投獄されましたが、そのアホック氏の支援組織が母体となって生まれたのがグレース・ナタリー氏率いるインドネシア連帯党(Partai Solidaritas Indonesia 略してPSI)であり、ジョコウィ候補支持を明確に打ち出しました。

PSIはイスラム法に基づく一夫多妻制の反対、LGBTの権利の尊重という、国民の9割をイスラム教徒が占めるインドネシアにあって極めてリベラルな印象がありましたが、残念ながら今回の選挙において国会DPRの議席は取れませんでした。

対照的にウマラー(Umara 宗教指導者)とウンマ(umma 宗教共同体)に近いイスラム政党を目指す福祉正義党(Partai Keadilan Sejahtera 略してPKS)がプラボウォ候補支持を明確にし、SNSによる情報戦の中で「PSIはLGBT容認の政党」を印象付けることで、ジョコウィ候補側にダメージを与えようとする動きがあり、ある程度の成果を上げたと考えられます。

というのも自分の身近な例で言うと、クリスチャンであるうちの嫁はんもその友人達も同性婚を絶対に認めませんし、仕事上のパートナーである敬虔なイスラム教徒のインドネシア人も、LGBTの存在を絶対に理解しません。

しかしこれが今のインドネシアのマジョリティの庶民感覚であり、大多数の声はLGBTに対して批判的であることは否定できません。

宗教的制約を道徳的行動規範でとどめるか法に持ち込むか

民主主義の下では主権は立法府や行政府ではなく国民に帰属され、法の下で国民の活動や権利は保護されますので、民主主義の退行と言う場合は、主権が国に属し法によって国民の活動や権利を規制するということです。

ではイスラム法は民主主義の法律と適合するのかという問題ですが、絶対的な主権は神に帰属すると考えた場合は民主主義と相入れませんが、規範は規範としても実際に実行していくのは国民であると寛容にとらえたのが、民主主義国家としてのインドネシアにおける従来の法の考え方でした。

インドネシアの場合、政宗分離で宗教的価値観はあくまで道徳的な行動規範として制約を持つのみで、法的な制約はなく、これが「緩いイスラム国家」と言われる所以であり、婚外交渉や性的少数者であるLGBTの存在自体が、法に抵触すると判断されるのであれば、それはあきらかに法の下の平等に反する民主主義の退行と言えると思います。

インドネシア国民の民意によって選ばれた政治家によって起草された改正法案が国会で可決されても仕方のないことかもしれませんが、できれば今年4月の総選挙で選ばれた国会議員による、10月からの新議会で審議を継続してもらいたいものです。

というのもこれまで提起されては立ち消えを繰り返してきたアルコール規制法案やハラール法案がどうしても脳裏に浮かび、行きつく先がビンタンビール禁止、バビグリンや豚骨ラーメンも禁止の悪夢がよみがえるのです。

イスラム的価値観は道徳的行動規範にとどめて、多民族多宗教の集まりを束ねるための英知である「多様性の中の統一」というインドネシアの国是に立ち返ってくれることを願って止みません。

ユーチューバーがオカマさんを騙してゴミを寄付して逮捕された事件

先月、岐阜県で学生が路上生活者に石を投げて死亡させる事件が発生しましたが、こういう日本の陰湿な弱い者いじめ的な事件を見るたびに、経済的地位は日本より低くとも、社会全体で強者は弱者を助けるべき、貧しい人に施しをするべきという感覚が生きているインドネシアのほうが、日本よりも民度が高いのではないかと感じることがあります。

ところが先日、インドネシアのユーチューバーが、バンドゥン市内の路上でのパフォーマンスで日銭を稼ぐオカマさんに、Sembako(9種類の生活必需品)が入っていると偽って中身がSampah(ゴミ)の箱を寄付し、オカマさんが涙を流さんばかりに喜んだ後に激怒する一部始終をYoutubeにアップしたことが大ニュースとなりました。残念ながらマイノリティを侮辱するような事件はどこにでも起こり得ます。

今回の事件では、ユーチューバーが問題の動画をアップした後に、自らの反省のコメントを否定して視聴者をバカにした態度が大きな怒りを買い、警察の本気度が一気に上がって素早い逮捕に繋がった感があります。

sembako(食料)と偽って sampah(ゴミ)を渡して逮捕されたYoutuberは、minta maaf, tapi bohon(反省してます、嘘だよーん)という動画をアップしたのが火に油を注いだんだな。警察からkamu sebentar lagi bebas, tapi bohon(もうすぐ釈放される、嘘だよーん)とからかわれているのが因果応報。

オカマさんを侮辱し視聴者を騙した言葉が、逮捕された後の警察の取り調べの中で犯人自身に返ってきたことに因果応報を感じましたが、実際のところイスラム教やキリスト教のような一神教では、過去の行いが現在になって結果として現れ、現在の業が未来になって結果として現れるというカルマ(Karma)という考えはありません。

何故なら人間の現在の業を規定するのは、唯一神であるアラーやイエスキリストだけであり、過去の業の影響を認めることは、神の力を軽視することに繋がりかねないからです

宗教的価値観が社会行動をどのように規定するか

イスラム教が主流のインドネシアにおいてLGBT(Lesbian, Gay, Biseksual, dan Transgender)の地位は昔から低いのですが、宗教的規範と社会活動と分けて考える良心的な庶民感覚のおかげで、かつては民放の地上波でも女装したコメディアンがドタバタコントを繰り広げ、ゴシップ番組の司会を女性っぽい仕草の男性MCが務めるおおらかさがありました。

ところが昨年9月の刑法改正で婚外性交渉が認められなくなったことで、同性婚を認めていないインドネシアでは、実質的にLGBTを認めないと法で宣言した形になり、メディアで同調圧力があったかどうかは分かりませんが、いつの間にかテレビから女装したコメディアンの姿は完全に消えてしまいました。

インドネシアで今回のユーチューバーが引き起こしたような、社会の中での弱い者いじめ的なニュースは滅多に聞かないため、後味が悪く悲しい気分になりましたが、その一方で被害者であるオカマさん達の怒りと悲しみが社会で共感を呼び、犯人のスピード逮捕に繋がったことに少し救われた気がしました。

このように庶民の間には宗教的規範に縛られない道徳的感覚が強い一方で、今年3月からインドネシア国内でも感染が拡大している新型コロナウイルスを防ぐために、マスクやアルコール消毒液の寄付、職を失った人への金銭的支援、休校になった子供たちへの教育支援などを社会に浸透させる際に、大きな役割を果たしているのがイスラム団体や教会などの宗教ネットワークです。

刑法改正など政治的には時代に逆行している面もありますが、世界最多のイスラム教徒が生活する国で、宗教的規範と社会活動と分けて考える良心的な庶民感覚が生きていること、その一方で宗教的価値観の下で困った人々への支援活動が積極的に行われることが、外国人にとってインドネシアという国の奥の深さが感じられる理由の一つであると考えます。

(2022年12月)
当刑法改正は12月6日に国会(DPR)で可決され、外国人を含む未婚のカップルの性交渉について親や配偶者による告訴があれば親告罪が成立することとなり、インドネシア国内だけでなく海外でも懸念する声が出ています。