「小さく起業する」というのは、個人が脱サラして自己資金を元手に国内資本会社を設立し、従業員の給料やオフィス賃料などの固定費をなるべく抑えながら、仕入から売上までの一連の流れを回し、適切に毎月法人所得税や付加価値税などを納税するという意味です
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インドネシアのビザ取得と会社設立
イミグレーションや労働移住省の担当者は基本的に「法の遵守」に対する外国人との認識の齟齬を突いてきますので、多少面倒でもビザ取得手続きを一つずつ適切に処理し、滞在時の行動様式を常に見直すくらいのほうが安全です。
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インドネシアのジャカルタでオフショア開発の拠点作り
さて、資本金は多くないがアイデアと体力には自身がある熱き起業家予備軍がインドネシアでビジネスを立ち上げるにはどうすればよいでしょうか?
ローカルPT(株式会社)なら50jutaで設立できますから、まずは自分は日本に居ながらインドネシア人パートナーを動かしてビジネスを行うことは理屈では可能です。
(2019年8月追記)外国人一人を雇用するためには資本金1milyar(約800万円)が必要で、当座預金への最低払い込み資本金250juta(法定資本金の4分の1)の現金を用意する必要があります。
オフショア開発の拠点としてジャカルタにシステム会社を設立し、インドネシア側にシステムの仕様についてコミュニケーションが取れるパートナーがいて、初月から売りが立つようであれば、この資本金規模の会社でも回っていくと思います。
今オフショア開発の拠点としてインドネシアのジャカルタが注目を浴びていますが、成功の可否は日本側とインドネシア側のコミュニケーションを取り持ち、日本側の仕様をインドネシア側のプログラマーにブレイクダウンできるブリッジSEの存在だと思います。
(2019年8月追記)東南アジアのオフショア開発の中心はベトナムであり、インドネシアは優秀な技術者不足と賃金の高騰で、オフショア開発拠点としての魅力は薄れています。
インドネシアで小さく起業する動きが益々加速していく
インドネシアで起業したいという方と、メールでやり取りしたり、実際にお会いしたりするのですが、同じ東南アジアでも日本から近いセブ島のあるフィリピンでもなく、微笑みの国タイランドでもなく、わざわざ遠いインドネシアを選ばれるだけあって、インドネシア語学科を卒業されているとか、インドネシアに短期留学されていたとか、過去にインドネシアとなんらかの関わり合いのある方ばかりです。
業種はWEBシステム開発、WEBメディア運営、WEBマーケティングというWEBを主戦場としたICT(Information and Communication Technology)ビジネスが多く、必然的に最近のインドネシアでのWEBビジネスのトレンドとか、インドネシア人のスマホユーザーの嗜好の変化とか、その人のビジネスモデルにかかわるような質問をされるのですが、残念ながら自分の専門外なので有益なアドバイスはできません。
ただインドネシアで仕事をするために必要な条件とか手続きなどの事務的な話であれば、経験に基づいて参考情報程度のアドバイスができます。
ここでいう「小さく起業する」というのは、個人が脱サラして自己資金を元手に国内資本投資会社(Penanaman Modal Dalam Negeri=PMDN)を設立し、労務費やオフィス賃料などの固定費をなるべく抑えながら、仕入から売上までの一連の流れを回し、適切に毎月法人所得税や付加価値税などを納税するという意味です。
タイやベトナムの動きを見ても明らかですが、インドネシアの経済成長に伴い、内需としてのインドネシア人もしくはインドネシア在住者を対象としたビジネスを展開する主体として、日本の会社のインドネシア現法ではない、全くの個人が小さく起業していく動きが益々加速していくものと予測されます。
日本とインドネシアのどっちが会社を作りやすいか
インドネシアにローカルPT(株式会社)を設立して、会社をスポンサーとして自分のビザを取る場合に必要な、会社の最低資本金の額を聞かれることが多いのですが、1人あたり1milyar(約800万円)が望ましいとされており、数年前に比べてハードルが2倍に上がっています。
日本では2006年の新会社法により新規に有限会社自体が設立出来なくなり、その代りに株式会社ではあるけれども株式の譲渡は会社の承認が必要(株式譲渡制限会社)という、実質個人商店と同じようなオーナー経営者の法人を作ることができるようになりました。
- 資本金1円
- 取締役1名で設立可能(以前は3名)
- 取締役会の設置も任意
- 決算公告義務なし
一方で日本人がインドネシアでローカル株式会社設立するためには、インドネシア人のディレクター(代表取締役)とコミサリス(監査役)という最低2名のインドネシア人パートナーが必要になります。
さらに会社をスポンサーとして自分の就労ビザを取得するためには、現在では法定資本金1milyar(約800万円)のうち払込資本金として必要なキャッシュは25%の200万円くらいが必要になります。
かつて「日本とインドネシアどっちが会社を作りやすいか」という議論が日本人同士の飲み会の席でなされることがありましたが、新会社法施行以降であれば圧倒的に日本のほうが簡単であると言えます。
ローカルPTとして外国人を雇うための条件
テレビのニュースでマレーシアや香港から強制退去させられるインドネシア人はTKI(Tenaga Kerja Indonesia)と呼ばれますが、インドネシアで働く我々外国人労働者はTKA(Tenaga Kerja Asing)と呼ばれ、雇用にあたって会社が守るべきいくつかの条件があります。
- 法人(Badan Hukum)として法的な書類を備えていること。
- 特定の分野(人事など)の仕事に外国人を就かせないこと。
- SIUP(Surat Izin Usaha Perdagangan)商業許可証に規定される法定資本金が最低1mlyarが望ましい。
そして会社はTKAとして保証する外国人に対して以下の書類を準備する義務があります。
- Rancangan Penggunaan Tenaga Kerja Asing/ RPTKA:外国人雇用計画書
- Rekomendasi pengguaan tenaga kerja asing/ TA 01:スポンサーレター
- Telex Visa Izin Tinggal Terbatas/ VITAS:ビザ発給許可(テレックスビザ)
- Izin Mempekerjakan Tenaga Asing/ IMTA:就労許可証
- Kartu Izin Tinggal Terbatas/ KITAS:滞在許可証
- Surat Tanda Melapor/ STM:居住区管轄の警察への届け出
- Surat Keterangan Kependudukan Sementara/ SKKPS:住民登録証
- Laporan Keberadaan Tenaga Kerja Asing/ Lakeb:外国人雇用報告証
- Exit Re-entry Permit (izin keluar masuk Indonesia bagi tenaga kerja asing/ TKA):再入国許可証
インドネシアのPT以外の会社形態
日本で新会社法の制定以前に、会社設立の際に有限会社か株式会社か(稀に合資会社・合名会社も)の2択だったのが、現在では株式会社1択になったのと同じように、インドネシアでも以前はCV(有限会社・合資会社)かPT(株式会社)の2択だったのが、現在ではPTの一択になっています。
ただし日本の場合は事業目的に柔軟性を持たせたり、最低資本金額を撤廃したり、起業の門戸を広げるために行われたものであるのに対し、インドネシアの場合は国内産業保護の観点から、外資規制をより厳格化にするための措置であるという点が間逆で面白いところです。
UD(Usaha Dagang)個人商店
ジャカルタではあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、バリ島では家具屋や雑貨商や建築資材屋なんかの店先にUDの看板を見ることが多く、UDは法人格ではないので資本金もないため、損害賠償等の請求は無限責任で個人の財産にも及びます。
CV(Comanditaire Venotschap)有限会社・合資会社
以前バリ島で家具の輸出をやっていたときの会社がこのオランダ語を語源とするCV形態でしたが、現在はCVで外国人を雇用することができなくなりましたので、外国人がCVで起業することはなくなりました。
PT Tbk(Terbuka)
株式が新規公開IPO(initial public offering)済みの会社であり、BEI(Bursa Efek Indonesia インドネシア証券取引所)にて売買可能な会社です。
法人でなく個人事業主(フリーランス)として仕事ができるか?
インドネシア人配偶者個人をスポンサーとした家族帯同ビザ(Index C317)で外国人労働許可書(Ijin Mempekerjakan Tenaga Asing=IMTA)が取得できれば、インドネシアで外国人がフリーランスで仕事をする道が開けますが、残念ながら2019年2月現在、IMTAを申請できるのは資本金Rp.1Milyar以上の法人(Badan Hukum)のみです。
法人が外国人雇用計画書(Rencana Penggunaan Tenaga Kerja Asing=RPTKA)を労働移住省(Kementerian Tenaga Kerja dan Transmigrasi)に提出し承認をもらい、労働移住省からの推薦状(Rekomendasi TA.01)を申請し、承認されれば技能開発基金(Dana Pengembangan Keahilan Keterampilan=DPKK)の指定の口座へ1,200ドルを振り込むと、IMTAが取得できるという流れです。
余談ですがこの1,200ドルはインドネシアの税外収入(Penerimaan Negara Bukan Pajak =PNPB)となります。
※技能開発基金(DPKK)は現在、外国人労働者利用補償金基金(DKPTKA=Dana Kompensasi Penggunaan TKA)に名称変更されており、名前から察するに現地の雇用を奪うことへの補償または外国人が働く環境を提供する手間への補償という目的だと解釈されます。
よってインドネシア居住者となって小売店やカフェを開く場合でも、日本のような個人事業主という形認められず、設立した法人をスポンサーとして就労ビザ(Index C312)を取得する必要があります。
(2019年8月追記)インドネシアからリモートでビジネスを行い、収入が日本でのみ発生し、インドネシア国内で収入が発生しなければ、C317ビザでもインドネシアで作業することは可能です。ただし日本での確定申告が必要となります。
最初に決めるべき会社についての基本事項
今年2018年6月に、ジャカルタの東12kmに位置する西ブカシ地区(Bekasi Barat)にローカルPTを設立しましたが、以前2012年に同じくローカルPTを設立したときと手続内容はほぼ変わっておらず、違ったのは以下の3点くらいです。
- 外国人を雇うための資本金最低額が1milyarに上がったこと(以前は資本金501juta以上で最低4分の1の銀行振込みの証拠が必要)。
- 会社名に英語が使えなくなったこと。
- 従業員に新社会保障制度BPJS-Kesehatan(健康保険)とBPJS-Ketenagakerjaan(労働保険)加入が義務付けられたこと。
なにはともあれ設立する会社の名前、役員、株主と持ち株比率などの基本事項を決める必要がありますが、ローカルPTの場合は、外国人は役員の一人に名を連ねることはできるとはいえ、Chairman(Komisaris)とDirector(Direktur)の最低2名のインドネシア人の役員が必要であることには変わりなく、未だに外国人は株主(Pemegang Saham)にはなれません。
- 会社名
会社名に英語は使えなくなりました。 - 事業内容
- 資本金
2018年6月現在、外国人を1人雇用するために資本金1miliyarが必要です。労働移住省(Departemen Tenaga Kerja dan Transmigrasi)に外国人雇用計画書(Rencana Penggunaan Tenaga Kerja Asing=RPTKA)を提出し、労働移住省にビザ発給推薦状(TA-01)の発行を申請し、入国管理局(Imigrasi)にビザ発給推薦状が転送されたタイミングで、入国管理局にビザ発給許可書(VTT)を申請し、シンガポールのインドネシア大使館でIndex C312を取得し、インドネシア入国後にITASオンラインの手続(昔はKITAS)を行い、並行して労働移住省に労働許可証(Ijin Menggunakan Tenaga kerja Asing=IMTA)を申請し、外国人労働者雇用補償金(DKPTKA)1200ドル/年を払う、という複雑怪奇な手続の流れは今も変わっていません。 - 会社の住所
ビルの管理事務所と締結済みの賃貸契約書(Perjanjian Sewa Menyewa)をもって、会社の住所を管轄する地方政府(Pemerintahan Daerah)から、会社所在地証明(Domisili Perusahaan)を発行してもらう必要があります。 - 株主と持ち株比率
役員と株主は同じである必要はなく、株主は法人でも構いませんが、全員の納税者番号NPWP(Nomor Pokok Wajib Pajak)と住民登録証e-KTP(Kartu Tanda Penduduk)のコピーが必要になり、Notarisに発行してもらう会社設立証明書(AKTA Pendirian)にはe-KTPの住民識別番号NIK(Nomor Induk Kependudukan)が記載されます。 - 役員
インドネシア人のChairman(Komisaris)とDirector(the executive officer)が必要であり、Directorはメインで日常業務に携る人になります。
役員と株主の名前は、後に司法・人権省(Kementerian Hukum dan Hak Asasi Manusia)から発行される決定書SK(Surat Keputusan)Pendirianや、Notarisが発行する会社設立が法的に有効であることを証明する会社設立証明書AKTA Pendirianに記載されます。
地方政府から発行される会社登録証TDP (Tanda Daftar Perusahaan)や営業許可書SIUP(Surat Izin Usaha Perdagangan Menengah)には、会社の運営の中心となるDirekturの名前だけが登録されます。
行政手続き上で法人として必ず取得すべき書類
大まかな流れとしては、オフィスの賃貸契約が完了したら、法務管理局に会社名を申請し確定させ、行政書士(Notaris)に会社設立証明書(AKTA Pendirian)を作成してもらい、法務管理局から司法・人権省の大臣による決定事項記載書(SK)を取得します。
一方で、会社所在地を管轄する地方政府(Pemerintahan Daerah)から会社所在地証明書(Domisili)を取得し、地方政府から会社登録証(TDP)と営業許可書(SIUP)を取得し、税務署から納税者登録番号(NPWP)を取得します。
AKTAやSKには会社の正式な住所までは記載されないため、Domisiliの取得のタイミングはTDPやSIUP取得のタイミングに合わせることになります
- Cek Nama Perusahaan
正式名称はBukti Pesan Nama Perseroan Telah Memperoleh Persetujuan Menteri(大臣による会社名の承認証)であり、会社名が法的に有効なものかどうかのチェックが、法務管理局Ditjen AHU(Direktorat Jenderal Administrasi Hukum Umum)にて行われ、承認されたことを証明する書類です。 - AKTA Pendirian Perseroan Terbatas
会社設立証明書であり、AKTAとは土地売買(AKTA Jual Beli)や結婚(AKTA Pernikahan)、会社設立(AKTA Pendirian Perseroan Terbatas)など、声明や承認、決定などに法的拘束力を持たせるために、Notaris(行政書士)が作成する証拠書類です。 - SK(Surat Keputusan Pendirian)
会社設立について、司法・人権省の大臣による決定(Keputusan Menteri Hukum dan Hak Asasi Manusia Republik Indonesia)内容書類です。 - Domisili Perusahaan
会社所在地証明書で、正式名称はSurat Keterangan Domisili Usaha/Perusahaanです。 - TDP(Tanda Daftar Perusahaan)
会社登録証であり、Domisiliの住所を管轄する群(Kecamatan)や県(Kabupaten)などの行政政府にて発行されます。 - SIUP(Surat Izin Usaha Perdagangan Menengah)
営業許可書であり、TDPと同じくDomisiliの住所を管轄する行政政府にて発行されます。 - NPWP (Nomor Pokok Wajib Pajak)
納税者登録番号であり、初期登録時には付加価値税(VAT)課税対象会社(Pengusaha Kena Pajak)の登録がなされていないため、NPWP上の納税義務のある税金は所得税PPHのみがチェックされています。- 申告税(PPh sendiri)
- PPh Pasal25
前期の課税所得から算出された今期の月払い法人税。 - PPh Pasal29
今期の支払い済みPPh25の合計と、今期の売り買いで発生したPPh21, PPh22, PPh23, PPh24のプラスマイナス差分を、年度末の年次納税申告書SPT(Surat Pemberitahuan Tahunan)に記載し、不足分がある場合に発生する納税額。 - PPh Final
- 源泉税(Pemotongan dan Pemungutan PPN)
- PPh Pasal4 ayat (2)
アパートや家の賃貸収入に対して、借りる側が10%源泉して納税する税金ですが、オーナーの納税意識が低く賃貸契約時の金額にこれが考慮されていない場合は、借りる側が別途賃貸金額の10%を自己負担して納税する必要があります。 - PPh Pasal 15
- PPh Pasal 19
- PPh Pasal 21 個人所得税
- PPh Pasal 23 国内サービス源泉税
- PPh Pasal 26
出張者への給料支払い、海外サービス購入、本社へのロイヤルティなどにかかる20%の源泉所得税。
- PPh Pasal4 ayat (2)
ここまで書類が揃えば、とりあえずペーパーカンパニーとしての法人の設立は完了です。
外国資本投資会社(PMA)にするかインドネシア国内資本投資会社(PMDN)にするか?
まずインドネシアで外国資本投資会社(Penanaman Modal Asing=PMA)を設立する場合の最低資本金はRp.10 Milyar(1円=Rp.130で計算して7,700万円)であり、当座預金に払い込む最低金額(最低払込資本金)が4分の1であったとしても2,000万円近くのキャッシュが必要になり、新卒入社の会社で経験を積んで独立起業しようとする20代後半のスタートアップが自己資金で用意できる金額ではありません。
インドネシアの銀行が外国人、しかも個人に開業資金として2,000万円融資してくれる可能性はゼロ、そもそも外国人には不動産所有権がないので融資を受けるための担保すらない状態なので、いっそのこと金利の低い日本で借りて金利の高いインドネシアの開業資金にすれば、安い金利で資金調達できて一石二鳥じゃないかと誰もが考えます。
ところがインドネシア中央銀行(Bank Indonesia)からすると、外国人に勝手に外貨を持ち込まれることで金利のコントロールが乱されてはたまらないので、国内の一般事業法人に対する外貨規制として、外貨建てオフショア債務(海外からの外貨借入)へのヘッジ義務という外貨規制がかけてあります。
具体的には「外貨建て流動資産-外貨建て流動負債」の20%を、コストのかかるデリバティブ(為替先物・通貨スワップ・オプション取引)でリスクヘッジしろ、ということなのですが、これは「金利政策に支障が出るから民間が勝手に海外から金を借りてくれるな」と言われているのと同意です。
銀行から融資が受けられないとなるとベンチャーキャピタル(VC)はどうか。
確かにインドネシアはe-Commerceブームではありますが、ICT関連のスタートアップをインキュベーションするビジネスエコシステムが本格的に形成されていくのはまだ先の話だと思いますし、そもそも個人レベルでベンチャーキャピタルから資金を引き出せるほどのイノベイティブなプロダクトを持っている人は僕のところに相談には来ませんのでw。
というわけでインドネシアで外国人が「小さく起業」するには、役員としてインドネシア人の奥さん(または旦那さん)とその家族1名を取締役(Direktur)と監査役(Komisaris)に据えて国内資本投資会社、要はローカルPTを設立するのが一番手っ取り早いです。
ローカルPTが外国人雇用計画書RPTKAを申請するためには、外国人一人当たり最低1Milyar(1円=Rp.130で計算して770万円)の法定資本金が必要であり、その4分の1の200万円を最低払込資本金として当座預金に振込めば済むことになり、これなら個人の貯金から十分捻出できる額です。
ただしPMDNの場合、外国人は役員にはなれるが株主にはなれないため、振込んだ最低払込資本金も、利益処分時の配当(Dividend)も、法的にはインドネシア人株主の所有となり、親族以外のインドネシア人を役員に据える場合は、乗っ取られないように何らかの契約書・念書・覚書を取り交わすことになります。
会社のオフィスをどこに借りるか?
法人の納税者番号(Nomor Pokok Wajib Pajak=NPWP)や会社登録証(Tanda Daftar Perusahaan=TDP)などの重要書類を申請するためには、会社の住所を管轄する地方政府(Pemerintahan Daerah)が発行する会社所在地証明書Domisili(Surat Keterangan Domisili Usaha/Perusahaan)が絶対必要なので、テナント物件を借りるときは建築許可証(Izin Mendirikan Bangunan=IMB)が法人の住所として商業利用(Komersial)可能なものかを確認する必要があります。
ジャカルタの中心部のオフィスビルに入っているRegusやForticeなどのサービスオフィス(またはCoworking Space)を利用するのが確実かつお手軽ですが、提供されるサービスのうち、ローコストではあるが物理的にスペースがなく共用スペースでの作業だけが可能なバーチャルオフィスを選択してしまうと、外国人雇用計画書RPTKAの承認が下りない可能性があるので、サービスオフィスを使う場合でも必ず物理的にスペースを借りたほうがよいと思います。
オフィスの場所は自宅からの通勤距離や取引先までの交通の便などを考慮して総合的に判断すると思いますが、ICTビジネスの場合は会社にとって生命線となるインドネシア人技術者の採用のしやすさが重要なファクターになります。
ジャカルタであれば圧倒的に利便性の高いスディルマン通りやタムリン通り沿いのジャカルタ中心部、もしくはビナ・ヌサンタラ大学(BINUS)やトリサクティ大学などの学生が多い西ジャカルタが優秀なICT人材を採用しやすいロケーションだと言えます。
経理業務と税務の問題をどうするか?
会計の知識はどこまで必要か?
自分は経理業務の大枠の流れは理解できますが「小さく起業」した当初にプロダクト営業とマーケティングを行いながら、慣れない経理業務と税務をこなすのは負荷的に厳しく、また経理担当者を一人雇って固定費を増やすのもリスクが高いので、記帳代行会社に外注するほうが「小さい起業」に適していると言えますが、業務の流れやおおよその税金の種類や意味を理解しておいたほうがいいかと思います。
スタートアップ時は法人所得税ではなく分離課税PPh4(2)を適用
スタートアップ当初の法人所得税として、経営成績である利益に対してかかる法人所得税制(Normal Corporate Income Tax Scheme)ではなく、事業主に対して一律公平にかかる事業税のような制度、外形標準課税PP23(Final Corporate Income Tax Scheme=Pro forma perpajakan standar)が適用できるので、会計の知識がなくてもP/LやB/Sを作成しなくとも、課税額を計算をして納税が可能なので、会社の運営は普通に回ります。
要は単純に売上の0.5%を分離課税として納税するだけなのですが、このPP 23 Tahun 2018が自社に適用できるための条件として、年間売上4.8Miliyar以下である必要があり、適用可能期間は3年間のみで、それ以降は強制的に税引前利益に対して該当する法人所得税率が適用されます。
売上に対する0.5%という数字は決して高い税率ではありませんが、別に税務署が親切心から低い税率で保護してあげようというものではなく、スタートアップなんてどうせ最初は赤字だろうから、全く徴税できないよりも幾ばくかでもとってやろうという、起業家保護と税収確保の妥協の結果が0.5%という数字なのです。
付加価値税対象会社(PKP)か非対象会社(Non-PKP)かの決定
付加価値税VAT(Pajak Pertambahan Nilai=PPN)は、本業の売上(Sales)やサービス収入(Fees Earned)に乗せた10%から、仕入時に乗せて払った10%を控除した差額を納税する消費税のような税金であり、日系企業と取引をするのであればVAT課税事業者(Pengusaha Kena Pajak=PKP)としての登録は必須であり、未登録だと取引させてもらえないケースが多いと思われます。
会社を付加価値税対象会社(Pengusaha Kena Pajak)にする場合、売りの場合Invoice発行時に10%の付加価値税VAT(PPN=Pajak Pertambahan Nilai)を、VAT-Out Payableとして負債計上しFaktur Pajak(Tax Invoice)を発行し、買いの場合仕入先から届くFaktur Pajakにある10%分をVAT-In Prepaidとして債権計上し、売った分が多くプラスなら翌月末までにオンライン付加価値税申請システムe-Fakturを通して納税し、買った分が多くマイナスなら年度末に還付請求または翌事業年度に繰越します。
- 売りの場合
- (借)A/R 110 (貸)Sales 100
- (貸)PPN Out Payable 10
- 買いの場合
- (借)Purchase 100 (貸)A/P 110
- (借)PPN In Prepaid 10
一般的にPKPにするかNon PKPにするかの判断は「年間売上が4.8Milyar以下の中小企業に該当するかどうか」が基準となりますので、会社設立当初に売上が見込めない場合はNon PKPにしておいて、売上が増えて会社の規模が大きくなってからPKPに切り替えることもできます。
年間売上4.8Miliyar以下の会社は中小個人事業主UMKM(Usaha Mikro, Kecil, dan Menengah)と呼ばれ、課税所得に対してかかる税金として、経営成績である利益に対してかかる法人所得税(PPh25)ではなく、事業主に対して一律公平にかかる事業税のような 外形標準課税(Pro forma perpajakan standar)が1%かかります。
会社設立当初はNon PKPでいくと決めた場合には、購入時のPPN-In Prepaid(債権)がかかり売上時にPPN-Out Payable(負債)を計上しないので、経理上PPN-In Prepaidが残りっぱなしになるため、購入時のPPN-Inは負債ではなく費用計上して、仕入原価に乗せることになります。
逆に相手取引先の立場からすると、自分の仕入先がNon_PKPの場合、売ったときに発生したPPN-Out Payable(負債)を、買ったときのPPN-In Prepaid(債権)で相殺できないため「うちはPKPとしか取引をしません」と言いたくなるでしょうから、会社設立当初であっても営業活動に支障が出ないように、付加価値税対象会社にするという選択もあります。
- お客さんからPOをいただく。
- 自社からお客さんへのインボイスを作成する。
- あらかじめにe-Nofa OnlineからFaktur Pajak番号NSFP(Nomor Seri Faktur Pajak)を取得する。
- Faktur PajakをNSFPごとにオンラインシステムまたはE-Fakturアプリから発行する。
- インボイスとFaktur Pajakを印刷し、作業完了報告書(またはDelivery Note)の原本と3点セットを発送する。
- 翌月初にオンラインシステムまたはE-FakturアプリからSPT Masa PPNで、売り(PPN-Out)と買い(PPN-In)の差額である納税額を計算する。
- E-Billingからして納税額を払い込むためのBilling IDを発行する。
- ATMまたはインターネットバンキングからBilling IDをキーとして納税し、領収書番号(Nomor Transaksi Penerimaan Negara=NTPN)を取得する。
- E-FillingからNTPNをキーとして納税申告を行う。
インボイスに乗せる付加価値税PPNがAPBN国家予算(Anggaran Penerimaan dan Belanja Negara) に入る中央税(Pajak Pusat)であるのに対して、飲食店を経営する場合のお勘定に対して乗せるPB1(Pajak Pembangunan Satu)10%は地方政府(Pemerintah Daerah)でAPBD自治体予算(Anggaran Pendapatan dan Belanja Daerah)に入る地方税Pajak Daerahになります。
(2019年10月追記)
インドネシア国外の取引先からの物品やサービスの購入の際に、取引先はFaktur Pajakを発行しないので、10%のPPN-Outはインドネシアに納税されませんが、この場合買い手である自社が代りに10%のPPN-Outを納税する必要があります。この制度をVATオフショアといいます。
国内サービスにかかる所得税PPh23
ICT企業がサービスを提供し顧客にインボイスを発行すると、顧客は国内サービスにかかる源泉所得税PPh23の2%分を控除して支払らった上で、源泉徴収証(Bukti Pemotongan PPh Pasal23)を郵送してきます。
国内サービスにかかる所得税PPh23は源泉税ですから、サービスを受けた顧客側に源泉徴収義務が発生し、顧客側の総合課税(Non-Final Tax)計算時に繰り入れるため、サービスを提供した自社側での税務処理は発生しませんが、会社の当座預金口座にはインボイス金額から2%差し引かれた金額が入金されているわけですから、差額はPPh23として費用計上しないと、実際の銀行口座残高と会計上の当座預金残高が一致しなくなります。
賃貸収入に対してかかる源泉所得税PPh4(2)
オフィスの賃料やセミナー開催のための借りた会議室の利用料など、賃貸収入に対して借りる側である自社が、貸す側であるオーナーの賃貸収入に対してかかる分離課税10%を源泉して納税する必要があります。
分離課税Final TaxであるPPh4(2)が登場するのは外形標準課税PP23と、この賃貸収入に対する源泉所得税の2つくらいです。
社員を雇うということ
インドネシアで自己資金を元手として「小さく起業」した時点で、2人の株主兼役員と日本人である自分の3人が居ると思いますが、それ以外の人を社員として雇用する場合は、会社と社員との間で雇用契約書を交わします。
当たり前ですが、社員かどうかはあくまで個人と会社の間での契約になりますので、お役所に「社員雇いました」と報告する義務はありません。
正社員(Karyawan Tetap)として人を雇うと、毎月末に給料を支払い、レバラン休み前にレバラン手当(Tunjangan Hari Raya=THR)を支払ったりする以外にも、以下の義務が発生します。
- 個人所得税PPH21の源泉徴収と納税
- 社会保険(Badan Penyelenggara Jaminan Sosial=BPJS)加入手続き
日本と同じくインドネシアでも一旦正社員として雇用したら、解雇するのは非常に大変であり、僕は以前バリ島で輸出の会社をやっていた時に、不景気のため4人の社員のうち2人を強引に辞めてもらった後、一族郎党で押しかけられ手切れ金を請求されたトラウマがあります。
今年は4月に大統領選挙があり、アメリカと中国の冷戦の可能性、ベネズエラ内戦のリスクなど、インドネシア経済にも影響を及ぼすファクターが多く、景気低迷時に最初に影響を受けるのが「小さく起業した会社」であるため、極力固定費は抑えて不測の事態に備えておくべきだと考えます。
移動のための社用車を購入するかどうか?
世界最悪の渋滞都市と言われるジャカルタも、渋滞解消に向けた未来は明るく、今年開通予定のMRT(Mass Rapid Transit)による移動手段の分散、ERP(Electronic Road Pricing)導入による車通勤者の減少が期待でき、Grab CarやGo-Carなどタクシー以外の交通手段が広がることで、ジャカルタ市内の移動をメインとするビジネスであれば社用車は不要でしょう。
社用車は買うか、借りるか、リースするかの3択になりますが、「小さく起業」したばかりのローカルPTにリースの審査が下りる可能性は極めて低いので、買って固定資産に計上するか、レンタルして毎月の費用計上するかのどちらかになります。
購入して自社の固定資産とすることは、収益に対して所定の税率を掛けて法人所得税税額を算出する会社の場合は、減価償却費として毎月費用計上することで課税所得を圧縮する意味があります。
また通常は償却期間終了後も引き続き車として使えるし、中古車市場の規模が厚いインドネシアでは高値で売却可能であり、何よりも仕事以外に土日は家庭用車として使えるというメリットがあります。
しかし定期保守メンテナンス費用に加えて、保険料、パンクや故障などの予測できない費用など、維持するためのランニングコストがかかります。
一方でレンタカーの場合は、購入に伴う一時的な大きなキャッシュの減少を発生させずに済み、維持コストなしで常時整備の行き届いた状態のよい車を利用できるメリットがありますが、長期的な金額計算だけで言えばレンタカーのほうが割高になります。
例えばBekasiのレンタカー会社で、1日(12時間)ドライバー付きで車をレンタルする場合、ガソリン代別でAvanzaなら45万ルピア、Inovaなら60万ルピアかかり、ドライバーによっては食事代Uang Makanとして5万ルピア請求されます。
社用車に関するもろもろの事務作業に時間をとられるわずらわしさを考えた場合、車はレンタルにして本業のプロダクト営業とマーケティングに集中したほうが、生産性が高いと言えるかもしれません。
法人設立の行政手続き完了後に行うこと
ここまでで必要な行政手続きは完了し、法人として取得すべき書類も揃っているので、会社の営業を開始することができますが、そのためには会社の銀行口座(当座預金GIROまたはビジネス用口座)を開設し、資本金を振り込む必要があります。
以前はAKTAやSKに記載された資本金額の最低4分の1を振り込む必要がありましたが、現在は特にチェックされるわけではないため、運転資金として必要な額だけ振込み、これまでに会社設立のためにかかった費用で、会社の経費と認められるものを費用計上します。
例えば会社設立時には資本金を当座預金に振り込みますが、必ずしもAkta Pendirianに記載された額面どおりに振り込まれるとは限りませんので、差額は株主債権(Shareholder Receivable)という資産勘定の計上します。
- (借)当座預金 330 (貸)資本金 1,000
- (借)株主債権 670
株主が会社設立前の会社設立費用や固定資産購入などで100出費していた場合は、この株主債権を減額してあげます。
- 費用 100 株主債権 100
営業開始当初の初回のP/L作成時に売上が上がっていない場合には、出費した分だけ赤が出ていると思いますので、P/Lの損益に100の当期損失を計上します。
- (+) 収益 0
- (-) 費用 100
- ----------------
- 当期損益 (100)
当期損失をB/Sの純資産の部に反映させることでバランスします。
- 当座預金 330
- 株主債権 570
- 資本金 1,000
- 当期損益 (100)
既にNPWPを取得している以上、取得月から税務署への申請が義務付けられ、仮にPPNや法人税は初年度は毎月課税所得ゼロ(Nihil)として申告しても、従業員の個人所得税(PPh21)を会社負担にしている場合は、年度末の年次納税申告書SPT(Surat Pemberitahuan Tahunan)をもって納税する必要があります。