受払の都度仕訳が発生し会計と在庫管理の棚卸資産評価額が同期する継続記録法を採用するシステムと、月初在庫と当月発生費用から月末在庫の差し引きで製造原価を算出する三分法(棚卸計算法)を採用するシステムの原価計算方法の違いについて変動費と固定費に分けて説明します。
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インドネシアの原価管理システム
インドネシアの日系製造業を取り巻く市場環境は、頻繁に起こる需要変動や世界的物流網の停滞による資材の調達難、多品種少量化に伴う小ロット化などへ対応するための生産効率改善努力をすると同時に、迅速かつ戦略的な経営判断のためのより細かく多角的な原価管理が求められています。
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業務システムの原価計算機能について
インドネシアでよく導入されるMicrosoft DynamicsやSage Accpacなどの業務システム(ERP)は、生産実績や投入実績が計上される際に会計仕訳を自動生成する継続記録法を採用しています。
この場合、変動費である直接材料費は先入先出法または移動平均法で取得された単価に、投入実績数量を掛けた結果を直接材料費として計上します。
また直接労務費や製造間接費などの固定費も、標準値としての配賦率を部品構成表(BOM)に設定し、実績工数や実績稼働時間を掛けた結果を直接労務費や製造間接費として計上します。
そして月末に確定する実際発生額との差額を、当月製造原価分(直接労務費と製造間接費)と月末在庫にマニュアルで按分する必要があります。
このようにリアルタイムに在庫と会計が連動する速報性を重視する原価計算方法は本来は実績原価計算と呼ばれるものですが、運用の現場では標準原価を採用していると言われることが多いです。
一方で生産実績や投入実績の計上時に会計仕訳を発生させず、月初在庫と当月発生費用から月末在庫の差し引きで製造原価を算出する三分法を採用するシステムでは、総平均法で算出される変動費単価に、固定費の実際発生額をコストセンター別に集計し、実際直接作業時間または実際製造数量のコストセンター別集計値で割って実際賃率(または実際配賦率)を算出し、積み上げ計算を行います。
- 1個あたり実際直接労務費=実際配賦率(実際賃率)x能率(実際工数)
- 1個あたり実際製造間接費=実際配賦率
標準原価計算の場合、製品生産予定数をBOM展開することで材料所要量を算出し、マスタ値である材料単価を掛けることで製品の変動費単価を算出します。
コストセンター別に集計された固定費予算を、BOM時間展開により算出された予定直接作業時間または予定製造数量のコストセンター別集計値で割ることで標準賃率(または標準配賦率)を計算します。
- 1個あたり標準直接労務費=標準配賦率(標準賃率)x能率(標準工数)
- 1個あたり標準製造間接費=標準配賦率
製品の費目別原価の算出方法
第一工程、第二工程、第三工程という3つの製造工程を経て生産される製品の製造原価が、原価計算方法ごとにどのように原価費目別に積み上げられるかをまとめています。
継続記録法のシステムでは、リアルタイムに原価計算を行う実績原価計算、三分法のシステムでは会計月締処理の終了後にバッチで実行される実際原価計算と、翌期の製品生産予定と固定費予算を元に、管理会計の一環として実行される標準原価計算を想定しています。
原価費目 | 計算方法 | 計算手順 | 内訳 |
直接労務費 | 継続記録法 BOMの品目別賃率x実績工数 三分法(実際・標準) 会計仕訳金額・予算金額を工程直課に配賦計算 |
実際
工程別に集計された直接労務費を実際直接作業時間で割ることで賃率を算出。 標準 1.製品生産予定からBOM展開で生産予定数を算出し、能率をかけて(時間展開計算)予定直接作業時間を算出。 |
第三工程直接労務費
第二工程直接労務費 第一工程直接労務費 |
製造間接費 | 継続記録法 BOMの品目別配賦率x実績工数 三分法(実際・標準) 会計仕訳金額・予算金額をコストセンター(部門・ライン・製品グループ)に一次配賦後、コストセンターから配賦計算 |
実際
1.実際直接作業時間をコストセンター別に集計した合計値を一次配賦比率とする。 2.コストセンターの製造間接費を直接作業時間または製造数量で割ることで配賦率を計算。 標準 1.製品生産予定からBOM展開で生産予定数を算出し、能率をかけて(時間展開計算)予定直接作業時間を算出。 |
第三工程製造間接費
第二工程製造間接費 第一工程製造間接費 |
減価償却費 | 継続記録法 BOMの品目別配賦率x実績稼働時間 三分法(実際・標準) 会計仕訳金額・予算金額をライン直課に配賦計算 |
実際
ライン別に集計された製造間接費を実際機械稼働時間で割ることで配賦率を算出。 標準 1.製品生産予定からBOM展開で生産予定数を算出し、能率をかけて(時間展開計算)予定直接作業時間を算出。 |
第三工程機械減価償却費
第二工程機械原価償却費 第一工程機械減価償却費 |
直接材料費 | 継続記録法 移動平均法で計算される最新の材料単価x投入実績 三分法(実際・標準) 月末に算出する総平均単価またはBOM展開で算出される製品あたり使用数に標準材料単価を掛けて算出 |
実際
所要量は投入実績と生産実績の親子関係から取得される。 標準 所要量はBOMの親子関係の中での子必要量から取得される。 |
第一工程直接材料費 |
一次配賦とは間接部門の固定費やライン共通費を、直接作業時間や人員数などで、部門やラインなどのコストセンターに按分することで、コストセンターに集計された固定費を、直接作業時間や製造数量で割ることで配賦率(賃率)が算出されます。
具体的には配賦率とは1分あたりの直接労務費または製品1個あたりの製造間接費や減価償却費になります。
在庫受払に関する仕訳
原価管理システムは管理会計にも財務会計にも使えるものですが、「業務システムによる会計仕訳生成」のCOGS算出仕訳は、決算整理仕訳として売上原価(COGS)の算出のために月初残と月末残と当月仕入をCOGS勘定にマニュアルで振替える三分法を前提としていました。
一方、「原価管理システムの財務会計として使用する」ということは、棚卸資産の受払の仕訳を生成し、売上原価算出までのプロセスに登場する仕訳をフルセットで会計システムにインターフェイスすることです。
つまり材料入荷、材料消費、製品完成、製品販売、売上原価化という一連の受払のプロセスの仕訳を順番に生成するので、三分法のために月初残と月末残を振替えることはありません。
材料購入
原価計算結果である受払表の材料購入実績金額からも取得できますが、通常は会計システムにて管理されています。
- Dr. RAW MATERIAL Cr. ACCOUNTS PAYABLE (R) - IDR
材料消費
原価計算結果である受払表の材料投入実績金額の合計です。
- Dr. MATERIAL COST (MF) Cr. RAW MATERIAL
製品出来高
2.の購入主原料費と会計システムからインターフェイスした直接労務費と製造間接費の合計が当月製造費用合計であるので、これを製品に振替(仕掛品はないと仮定した場合)ます。
- Dr. FINISHED GOODS Cr. Material Cost (MF) - Offset
- Cr. Labor Cost (MF) - Offset
- Cr. FOH (MF) - Offset
売上
原価計算結果である受払表の売上実績金額からも取得できるが、通常は会計システムにて管理されています。
- Dr. ACCOUNT RECEIVABLE - IDR Cr. SALES
売上原価
原価計算結果である売上照会の総原価金額です。
- Dr. COGS from F/G Cr. FG
月末の調整仕訳
他勘定振替仕訳
- 製造原価の控除(製造原価間の振替)
製造工程で発生する仕損を製造原価から控除して他勘定振替を通して仕損費に振替えます。これは製造原価の中で振替を行っています。製造原価=月初仕掛+当月製造費用-(他勘定+月末仕掛)- Dr. Loss due to spoiled work 2 Cr.Transfer to other account 2
- 売上原価の控除
製造原価化した後の製品の仕損は他勘定振替を通して販管費に振替えて売上原価から控除します。売上原価=月初製品+当月製造原価-(他勘定+月末製品)- Dr. Stock losses and shrinkage 2 Cr.Transfer to other account 2
直接労務費と製造間接費の部門間配賦振替仕訳
会計システムから原価管理システムへインターフェイスされた直接労務費と製造間接費は、原価管理システム側で部門間配賦された後、会計システム側で部門別損益を見るために部門間配賦振替仕訳をインターフェイスします。
- Dr. Direct labor-Press Dept 5 Cr.Direct labor 1
- Dr. Direct labor-Assy Dept 5 Cr.Direct labor 1
- Dr. FOH-Press 4 Cr.FOH 4
- Dr. FOH-Assy 3 Cr.FOH 3