インドネシアで日本人が起業する際には、小資本でも日本人の利点を生かせそうな業種を探し、本業を持ちながら副業を育ててリスクを抑えて起業するか、本業でキャリアを積み既に成熟した市場でマーケティング力で勝負するかの2択になります。世界に革命的変化を及ぼしている、生成AIは起業の有望なキーワードになると考えます。 インドネシアのビジネス インドネシア市場でのビジネスで重要な要素は価格とブランド、コネの3つと言われますが、必ずしもこれらを持ち合わせない日本人はどのように戦えばよいのか。これはインドネシアに関わり合いを持って仕事をする人にとっての共通の問題意識かと思います。 続きを見る
インドネシアで小資本で日本人の利点を生かせる業種
インドネシア人は本業であれ副業であれ何かしらの個人ビジネスを持っている人が多いのは、在住日本人周知の事実ですが、私の周りを見渡すだけでもパダン食堂と文房具店を営むミナンカバウ人、地元で取れるドリアンやアボカドの卸しをやるスンダ人、バイクのbengkel(修理工場)を営む中華系インドネシア人など、すぐに思い浮かぶくらいですから、インドネシア人の間では無数の有象無象の『ローカルビジネス』が発生しては消滅しているものと想像されます。
日本より給与水準が低いインドネシアで、日本よりも高い値段の車がたくさん走っていることに疑問を感じたことが誰しも一度はあると思いますが、生活のために乾坤一擲の覚悟でビジネスを始めた人も、本業の給料の不足を補うために副業として始めた人も、長年5%水準のゆるやかなインフレが続き、それ以上に消費者の所得が上がり続けるインドネシアでは、黒字化する確率は意外と低くはないという理由以外に、『ローカルビジネス』にチャレンジする絶対数が多いことが、車のローンを払える人の数を押し上げているのかもしれません。
他方で、インドネシアで仕事をする日本人駐在員や現地採用者が、ある程度の給料を保証されているにも関わらず、リスクを承知の上で起業を考える理由として、日本に帰任して自由に仕事が出来なくなるのを嫌ってとか、インドネシア人と結婚して長期的にインドネシアで生活する未来が確定しているとか、生活の糧を得るためという金銭的な目的だけでなく、人間の根源的欲求として自由に仕事をしたい、そのために個人で事業を起こしたいという面もあるのではないでしょうか。
日本人の場合、配偶者がインドネシア人であったとしても、パダン食堂や文房具屋、アボカドの卸というビジネスをやろうと考えない理由は、『ローカルビジネス』でインドネシア人と同じ土俵で勝てるわけがないという推論に基づく合理的な判断であり、通常は小資本で始められるIT関連ビジネスや機械メンテナンスサービス、ビザ取得・会社設立・会計記帳代行などの各種コンサルティング事業、日本人である利点を最大限生かした日本食レストランなどのフードビジネス、日本語学校、技能実習生送り出し機関LPK(Lembaga Pelatihan Kerja)、日本とインドネシア間の輸出入ビジネスなどではないでしょうか。
新しいニーズを探すか成熟した市場でマーケティング力で勝負するか
起業は『解決したい社会的課題』を見つけるところから始まり、これはインドネシアでのニーズ(需要)を見つけると言い換えられますが、『令和の虎』や『Real Value』などのビジネスエンターテイメント系のチャンネルで、志願者が日常生活の中で感じていた課題を解決したいという自然な流れで起業するケースは少数派で、現実には意識的に情報を漁って知恵を絞りながら悶悶とした日々を送る中でニーズを捻りだすのが大半だと思っています。
インドネシア人が本業とは別に『ローカルビジネス』を行うように、日本人も本業以外に飲食店をオープンしたり、輸出入やLPKビジネスの現地窓口として友人を手伝ったりしながら、副業で十分食べていける目途がついたタイミングで退職というリスクを抑えた起業は、自由時間を作りやすく、本社とのシガラミがない現地採用の特権を最大限に生かしたソフトランディングな方法ですが、インドネシアで勝てるニーズを探す必要があります。
私もかつてジャカルタのIT会社に勤務しながらバティック・イカットなどの布や小さ目の家具を日本に送る仕事を始め、副業収入が本業を超えてから退職しバリ島で起業しましたが、日本とインドネシアの情報格差がなくなり、所得が上がり購買意欲の強いインドネシア人消費層を目の前にした現在、B2Cサービスを展開するほうがはるかに夢があると思います。
他方で会社員としての本業と同じ業種の場合、副業することは利益相反行為とみなされ、職務専念義務に抵触しますのでNGである以上、一旦退職してから独立することになりますが、起業前には専門知識を学び実務経験を積み、起業時の仲間や見込み顧客などの人脈を作ることが重要で、実際インドネシアの会社で社員として働く日本人から、独立のタイミングから逆算してキャリア形成を行っているという胸の内を打ち明けられることがあります。
この場合、既にニーズのある市場に小資本で新規参入していくことになりますので、マーケティング力で勝負する世界観になりますが、現在私の製造業システムというB2B分野において、インドネシア日系企業向けは市場が小さく、巨大なローカル企業向けは非常に難易度が高いと感じています。
インターネット登場に比肩する影響力を持つ生成AIの進化とコモディティ化
起業のためのアイデアは、過去の自分の経験と知識の蓄積と、新たに外部から取り込んだ最新の情報が衝突することではじめて生まれると考えているのですが、世間で『連続起業家』という肩書を名乗る人は、過去の起業経験から得た知識やスキルを次の事業に活かしながらも、柔軟に市場の変化やニーズに適応できる人なのだと思います。
世界的なトレンドとして、今まさに生成AI技術が革命的と言っていいほど進歩し続けコモディティ化している状況であり、2000年代初頭に起こったドットコムバブルに比肩するほど世界を変えようとしており、私が生きている間に今回に匹敵する時代の変化はもう起こらないのではないかと思うレベルとまで感じております。
AIはビジネスの組織論にも大きな影響を及ぼしており、会社を拡大するために人を増やして組織を強化するしか方法がなかった時代から、個人が生成AIを使って生産性を飛躍的に向上させ、組織の能力を無限大にアップできる時代に変わろうとしており、実際に弊社でもC#.NET ASPでの開発でCopilotが使えるようになったことで、大幅に開発工数を削減出来ています。
製造業の生産計画作成業務を自動化する生産スケジューラの導入においても、機械学習(Machine Learning)の遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)が使えるようになってから、同色の塗装をまとめ生産したり、金型交換回数を減らすことで段取り時間を短縮しながらも、納期遅れを出さないという、相反するトレードオフの関係にある条件を満たす最適化されたスケジューリングが可能になっています。
個人的には、今後インドネシアで資本力が小さい日本人が起業する場合のキーワードとしてAIが有望な選択肢となるものの、AIが言語間の橋渡しをすることで、日本人である利点を生かすことを難しくする時代になる可能性もあり、政府主導でスマートシティや業務効率化を掲げ確実にニーズがある国では、AI関連事業で日本人が競争優位性を持てる分野を見つけて勝算ありと考えています。