オムニバス法とインドネシアの政治的対立の背景

2020/10/13

イスラム急進派のデモ

オムニバス法は労働法の改正と法人税引き下げによる事業継続支援の2つが柱です。また、外国人によるアパートの所有権が認められるかどうかも注目されています。しかし、直ちに外国人によるアパート投資需要を喚起するために、不動産バブルのリスクを伴う改正がなされるとは考えにくいです。

インドネシアの政治・経済・社会の成長構造と戦略を示す図解

インドネシアはなぜ発展するのか?政治・経済・社会を支える構造と成長戦略

スカルノ大統領時代は共産主義政策が推進され、西側諸国からの投資が減少しました。スハルト大統領は西側諸国との関係を強化し、工業化を進めましたが、石油依存から脱却できませんでした。1998年のアジア通貨危機後、インドネシアは民主主義国家と…

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この記事でわかること

  • オムニバス法は労働法改正と法人税引き下げを柱としています。
  • 2020年7月16日、DPR前で大規模なデモが行われました。
  • デモの要求にはジョコウィ大統領の弾劾が含まれていました。
  • オムニバス法は2020年10月5日に可決されました。
  • インドネシアはニッケルを活用したEVバッテリー産業を推進しています。

212同窓会とFPIが主導したDPR前大規模デモの背景とは?

2020年7月16日、国民議会DPR(Dewan Perwakilan Rakyat)前で、212同窓会(PA212=Presidium Alumni 212)やイスラム擁護戦線(FPI=Front Pembela Islam)などのイスラム団体、労働者、学生による大規模なデモが行われました。機動隊(Pasukan Anti Huru-Hara)はバリケードを張り、ウォーターキャノン砲で応戦し、警察は催涙弾を発射してデモ隊を後退させました。衝突が落ち着いたのは夜になってからです。

DPR前デモ隊の要求

1. Makzulkan Jokowi(ジョコウィ大統領弾劾)

2. Bubarkan PDIP(闘争民主党解散)

3. Tolak RUU HIP & Tangkap Inisiator(パンチャシラ法案拒否と主導者の逮捕)

4. Tolak RUU Omnibus Law(オムニバス法拒否)

5. Batalkan UU Corona(コロナ法の撤回)

212同窓会は、2016年9月に当時のジャカルタ特別州知事だったアホック氏(Basuki Tjahaja Purnama)がプラウスリブ(Pulau Seribu)の住民の前で行ったスピーチが宗教冒涜に当たるとして、2016年12月2日にアホック氏の身柄拘束を求めて、FPIと共に20万人規模の大集会を主催したイスラム団体です。

知事選で敗れたアホック氏は宗教冒涜罪で起訴され、2017年5月9日に禁固2年の有罪判決を受け、東ジャカルタのチピナン拘置所に即日収監されました。収監中の2018年4月に妻のフェロニカさんと離婚し、2019年1月24日に釈放後、前妻フェロニカさんの警護を務めていた元警察官ププットさんと再婚しました。2019年11月には国営石油会社プルタミナの監査役に就任し、初任給は170jutaだったなどと未だにゴシップネタの対象となっています。

2020年12月、政府はFPIの強制解散を決定し、活動全般を禁止しました。中央ジャカルタ・プタンブランにある本部を閉鎖し、インターネット上の発信なども含め、徹底して取り締まる方針を発表しました。

事例:2017年4月17日のジャカルタ州知事選挙PILKADA DKI JAKARTA(PemILihan KepAla DAerah)では、アホック知事を破った現職アニス知事を、グリンドラ党(Partai Gerindra)やFPIと共に支援し、アホック知事を刑法(Hukum Pidana)に基づいて起訴し、DPRでHak Angket(調査権)を発動しろと要求しました。

要点:このデモは、イスラム団体と政治的な背景が絡み合い、宗教的・政治的な対立が深まる中で行われました。特に、ジョコウィ大統領の弾劾やオムニバス法の拒否など、具体的な政治的要求が掲げられています。

宗教の違いによる価値観の差をどこまで許容できるか 2016年11月アホック知事糾弾デモのためHI前広場に終結した白装束のFPI



ジャカルタ

ジャカルタ知事選と都市開発の光と影:アホックの功罪

アホック知事は2017年のジャカルタ特別州知事選挙でアニス候補に敗北しました。アニス候補はグリンドラ党やFPIイスラム擁護戦線の支持を得ていました。FPIは2020年12月にインドネシア政府によって強制解散されました。

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イスラム団体がジョコウィ政権を弾劾要求:その背後にある3つの法案への反発

このデモの主体であるイスラム団体は、DPR提出済みのオムニバス法、パンチャシラ法案、5月に法律として成立済みのコロナ法案の3つを理由に、ジョコウィ大統領弾劾(Makzulkan Jokowi)と闘争民主党の解散(Bubarkan PDIP)を主張しました。

労働者が反対するオムニバス法(RUU Omnibus Law)

2020年2月にジョコウィ大統領がDPRに提出済みのオムニバス法案は、労働法と税制面での規制緩和、行政許認可の簡素化など、企業の投資促進とそれに伴う雇用の創出を目的としており、企業側にとっては投資や事業継続のための追い風となる法案ですが、現行労働法で守られている労働者の権利を死守しようとする労働団体が同法案に反対しました。

産業構造を変えるための国家優先的取り組み事項をプロジェクトとして実現していこうというメーキングインドネシア4.0を推進するために、法人税を現行25%から2025年までに段階的に20%まで引き下げることで、税制面から事業が継続しやすい環境を支援し、巨大な国内市場を背景に海外からのハイテク産業の投資を呼び込むことで、国内で付加価値が創出できるようになり、長年の一次産品輸出国からの卒業を目指すという目的がありますが、国内の労働団体は製造業への外資誘致が優先され、労働法で保護されている労働者の権利が軽視されることを危惧しています。

ジョコウィ大統領

メーキングインドネシア4.0: 技術集約型経済への転換

メーキングインドネシア4.0は2018年にジョコウィ大統領が発表した国家戦略です。この戦略は経済成長率を5%から6~7%に引き上げることを目指します。製造業GDP寄与率を2030年までに25%にすることを目標としています。

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イスラム団体が反対するパンチャシラ法案(RUU HIP)

1945年に起草された憲法の前文にある建国5原則パンチャシラ(Pancasila)を一言でまとめたのが有名な「多様性の中の統一(BHINNEKA TUNGGAL IKA)」であり、イスラム人口が9割を占める国で、政宗分離、政経分離を実現することでイスラム強硬派勢力と他宗教や民主化勢力との対立を抑えてきた国家イデオロギーの柱ですが、2020年当時インドネシアにて宗教の不寛容さや経済格差が顕著になってきたとしてパンチャシラの精神を再度徹底しようというのがパンチャシラ法案(RUU HIP=Rancangan Undang-Undang Haluan Ideologi Pancasila)であり、2020年6月のDPRに最大与党である闘争民主党(PDIP)と同じく与党グリンドラの議員が提出し2020年中に成立させようとしましたが、インドネシア最大のイスラム系組織であるナフダトゥル・ウラマー(Nahdlatul Ulama=NU)やインドネシアのハラール認証機関であるインドネシア・ウラマー評議会(MUI=Majelis Ulama Indonesia)やなど主要なイスラム団体の反対にあうことになりました。

  • いつでも審議できる法案をコロナ禍の今何故?
  • 法案の根拠を示す文献一覧に、共産主義の禁止を明記した1966年の暫定国民協議会決定を記載していない。政権が共産党(PKI)復活を目指しているのではないか?
  • メガワティ氏が最高顧問の「パンチャシラ精神発展委員会」が建国精神に合わないと判断した法律の改正を大統領に要求できメガワティ氏の権力強化に繋がるのではないか?

ジョコウィ大統領は、政府による新型コロナウイルスへの対応が後手に回っていることに対して2020年当時の閣議で閣僚に対して激怒する動画を公開するも、逆に責任転嫁していると批判され見事に空振りに終わってしまい、2020年当時はイスラム保守派とも自身の所属政党である闘争民主党とも関係悪化は避けたいところですが、イスラム保守派としては1965年の9月30日事件でクーデターを主導したインドネシア共産党(PKI=Partai Komunis Indonesia)が、闘争民主党党首メガワティ氏の父親である初代大統領スカルノ氏の最大支援組織であったことから「ジョコウィ政権(闘争民主党)=親共産党」というレッテルを貼り付けて2024年の大統領選と総選挙に向けて影響力を強めたいのかもしれません。

福祉正義党PKSが反対するコロナ法(UU Corona)

2020年5月にDPRはPerppu Corona(法律代行政令Peraturan Pemerintah Pengganti Undang-Undang)を法律で承認し、正式にコロナ法(UU Corona)となりましたが、福祉正義党PKS(Partai Keadilan Sejahtera)は同法案が憲法の「法の下の平等」に違反する可能性があるとして承認しませんでした。

  • DPRによる予算策定の権限がはく奪されるのでは?
  • 政府がコロナ対策予算のすべてを提供する保証がないのでは?
  • コロナ禍で経済的に影響を受けた労働者、解雇(PHK)された従業員、非公式経済部門(Sektor Informal)の労働者の保護への取り組みが記載されていないのでは?

この福祉正義党PKSは2016年のアホック州知事弾劾運動を主導し、2017年4月の大統領選挙でのプラボウォ氏を支持してきたイスラム保守派政党で、ウマラー(Umara 宗教指導者)とウンマ(umma 宗教共同体)に近いイスラム政党として、ジョコウィ陣営を支持したグレース・ナタリー氏率いるインドネシア連帯党(PSI=Partai Solidaritas Indonesia)を、SNSによる情報戦の中で「PSIはLGBT容認の政党」を印象付けることでジョコウィ候補側にダメージを与えました。

ジャカルタの線路際の家

インドネシアにおけるPSBBの影響と犯罪率の変動

2020年に発動されたPSBBは新型コロナウイルス感染拡大防止を目的としていました。インドネシアの貧困率は2019年9月の9.22%から2020年3月に9.78%に上昇しました。ジャカルタ州は2020年7月14日に出入域許可証のチェッ…

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日本の対インドネシア投資が低迷した背景とBKPMの危機感

2020年当時、投資調整庁(BKPM)の担当者によると、日本からのインドネシアへの投資額が減少していました。通常、日本はシンガポールに次いで2位の投資国ですが、2020年第2四半期にはシンガポール、香港、中国、日本、韓国の順となりました。

地域別では、ジャワ島への投資が全体の50%弱を占めており、特にTol(高速道路)沿線に工業団地が連なる西ジャワ州への投資が最も多くなっています。

BKPMは「2019年まで日本の直接投資額はシンガポールに次いで2位だったのに4位にまで順位を下げたのは、コロナ以外にも理由があるのではないか」「投資環境そのものに問題がある」との認識を持っています。中国から他国への移転を検討している企業のうち、日系企業が21社あり、インドネシアの投資環境の問題を解消するために、中部ジャワのBatang工業団地を開発中です。「土地も人件費もベトナムより安く、認可もBKPMがサポートすることで短期間で下りるようになる」と力説しています。

「インドネシアの投資環境の障害は土地・認可・雇用の3つあるが、日本企業は技術とお金を持ってさえ来れば、あとはBKPMがすべてサポートする、空港にも迎えにいくから」という発言から、ベトナムやカンボジアなど投資誘致先国としてのライバル国を意識しているのが伝わってきます。

【KBRI投資ウェビナー】

ルフット大臣

・オムニバス法で雇用と税制の改善

・ニッケルバッテリーの将来性

・川下化推進、原料輸出はしない

BKPM長官

・日本からの投資が2位から4位へ落ちたのは何で

・投資の障害は土地・認可・雇用

⇒技術と金を持ってくれば全部お膳立てする、空港にも迎えに行く

事例:中国からの移転を検討中の企業の中で、インドネシアの優先順位が高まっています。

ジャカルタ

インドネシア製造業の課題と可能性: 脱中国の受け皿

インドネシアは中部ジャワのBatangに工業団地を設置し、投資環境を改善しています。インドネシアの人口は2億7千万人で、少子高齢化の影響が少ないです。2020年のインドネシアの平均土地価格は1平米あたりRp.317万で、ベトナムよりも…

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オムニバス法案の進捗状況

海外からの投資を呼び込むための国内投資環境の整備の目玉であるオムニバス法案は、雇用創出 (CiptaKerja)に関するものと租税 (Perpajakan)に関するものの2つから構成され、国会DPRで連日継続審議中です。8月施行を目標としていましたが、現実的には9月または10月にずれ込む見込みです。

最終的に2020年10月5日にオムニバス法案(UU Cipta Kerja=雇用創出法)は可決されました。インドネシアの法律は頻繁に法改正することを前提として草案のまま可決される傾向があり、オムニバス法自体が国民の反応を見ながら法改正(修正)を加えて行くことが予想されます。

雇用創出に関するオムニバス法(経済特区へのライセンス認可の簡素化)

  • ライセンスの簡素化:立地許可は統一されたデジタル地図を使用し、リスクベースのアプローチに基づいて判断されます。
  • 投資要件:投資重点分野の新たな優先順位リストを作成し、投資ネガティブリストを2020年の20業種から6業種に簡素化し、外国からの投資に対する開放性を向上させます。
  • 行政:地方規制と中央規制の重複を簡素化するために権限の一元化を図ります。
  • 企業に自由度を与える就業規則:最低賃金は1年未満の労働者にのみ適用され、長期勤務の給与は8ヶ月分を上限とします。政府は失業者のための職業訓練プログラムも準備し、外国人労働者の使用は特別な要件の下で許可されます。ここがインドネシアの雇用関係の聖域とも言える労働法UU No 13 Tahun 2003の改正であり、退職金の減額と経営側の裁量による最低賃金の設定が盛り込まれています。
  • ビジネスのしやすさ:最低資本金IDR 50Milyarの撤廃、就労ビザやビジネスビザの取得を容易にし、特許権者のための柔軟性、金属産業の川下化プログラムへのインセンティブ制を導入します。
  • 研究・イノベーション支援:国家イノベーションの対外貿易政策支援製品、研究開発と技術革新のための国有企業と民間企業のための特別な割り当てを設けます。
  • 制裁:行政法の制裁措置と刑法の制裁措置の差別化を行い、汚職に対する刑事罰を強化します。
  • 土地調達を容易にする:地域の土地から利用可能な土地への変更が早く、土地変更許可の延長がより簡単になります。
  • 投資と国家戦略プロジェクト:ソブリンウェルスファンドの設立、国家戦略プロジェクトに必要な土地の提供、国家戦略プロジェクトに必要なすべての許認可の提供を行います。
  • 経済圏:経済特区管理者はライセンス、サービス、インセンティブ、ビジネスのしやすさなどを行う権限を持ちます。
  • 中小企業へのインセンティブ:MSMEのために使用する移転資金の優先順位を設定します。

租税規則の改正に関するオムニバス法

  • 所得税の軽減:法人税は25%から22%(2021~2022年)に、最終的に20%(2023年)に引き下げられ、配当金は非課税となります。
  • 領土内所得課税の適用:多国籍企業の配当金は、インドネシアに投資する限り非課税です。
  • 国内税の適用:インドネシア人が183日以上海外で働くと該当国の国内税が課せられる可能性があり、183日以上インドネシアで働く外国人にはインドネシア国内税が課されます。
  • コンプライアンスを高めるための規制:制裁の調整を行い、コンプライアンス違反の罰金の利息は2%(24ヶ月間)から相場に調整します。
  • デジタルサービスへの課税:従来の事業体への課税と同様のデジタルサービスへの課税を調整し、インドネシア事務所を持たない多国籍デジタル企業も課税対象となります。
  • 税制優遇措置:タックスホリデー、税務手当、経済特区などの税制優遇措置を一つのクラスターにまとめます。

インドネシアが狙うニッケル活用とEVバッテリー産業の川下化戦略

ニッケルに加工して付加価値を付ける川下化のイメージ(BKPMウェビナー資料から)

ルフット大臣は、オムニバス法に加えて、インドネシアへの投資の魅力として鉄やニッケルなど金属鉱物の川下化(downstreaming)を強調しています。インドネシアは、ニッケルを原料とする電気自動車用(EV=Electric Vehicle)バッテリー製造の海外企業を誘致し、生産拠点化を目指しています。

国内で加工し付加価値を付けることで、川下産業で国際競争力のある製品を生み出し、「インドネシアは国際的なサプライチェーンに乗る」という目標を掲げています。特に「原料の輸出はもう嫌だ(Tidak mau)」という言葉が印象的です。

事例:インドネシアは、ニッケルを活用したEVバッテリー産業の発展を通じて、国際市場での地位を強化しようとしています。

要点:インドネシアは、ニッケルの川下化を通じて、付加価値の高い製品を生産し、国際的なサプライチェーンに参入することを目指しています。

オムニバス法を構成する雇用創出法とオムニバス税法

西ブカシTol入口前に集結するデモ隊
西ブカシTol入口前に集結するデモ隊

2019年10月頃からジョコウィ大統領が法制化を目指していたオムニバス法案(UU Cipta Kerja=雇用創出法)は約1年間の審議の末、2020年10月5日に国会にあたるDPR(Dewan Perwakilan Rakyat=国民議会)で可決されました。この法案に対してはインドネシア各地で反対デモが行われました。私も西ブカシに向かいましたが、出口付近が大混雑しており、1時間以上車列の中で粘ったものの、途中で折り返しJ.COドーナッツに退避しました。窓の外にはデモ隊が到着していました。

特定の政治団体や組織が日当を出してデモ参加者を募るのはインドネシアに限った話ではありませんが、今回のデモでは平和裏に行われていたデモの中から突然暴力行為や破壊行為を始める者が現れました。中には特定大学のジャケットを着たまま破壊工作に関与したデモ参加者が、実際は該当大学に在籍していないなど、背後で煽動する組織があるように思えました。私が退避していた建物の前でもデモ隊が一斉にトラックに乗り込み撤収する場面がありました。

当時のプラボウォ・スビアント国防相(2024年10月に大統領に就任)は、この破壊行為は、混乱を引き起こすことを望む特定の政党によるHoaks(フェイクニュース)に煽動されたもので、背後に外国からの干渉があるのではないかと疑っていると述べました。

オムニバス法は雇用創出法 (CiptaKerja)に関するものと租税 (Perpajakan)に関するオムニバス税法の二本立てで構成される制度をまとめて(オムニバス)一括改正します。オムニバス税法では法人税を現行25%から20%まで引き下げ、PPN報告遅れの罰金を2%(年利24%)から1%へ引き下げるなど、事業継続にとっての規制緩和であり歓迎される内容です。

スリ・ムルヤニ財務大臣はオムニバス税法により、外国人への課税規定が条件付きで変更となることを明らかにしました。個人課税対象の規定が従来の「全世界所得課税」から「国内所得課税」に変わることで、外国人の国外所得に関してインドネシア到着後4年間は非課税となります。

デモの原因である雇用創出法は、日本の新聞で外資誘致法と書かれるように、外国企業によるインドネシアへの海外直接投資(FDI=Foreign Direct Investment)を阻害する要因だった雇用環境の改善(労働者にとっては改悪)により「毎年290万人の雇用を生み出す」ことを目的としています。インドネシア労働法の2大聖域とも言える退職金の減額(現行最大32カ月分⇒ 最大25カ月分)と経営側の裁量による最低賃金の設定(国の実質経済成長率とインフレ率の和 ⇒ 経営側が各州の経済成長率またはインフレ率に沿った最低賃金を設定)が盛り込まれています。

インドネシアの雇用関係のすべては労働法UU No 13 Tahun 2003(労働に関するインドネシア共和国法律2003年第13号)に基いており、解雇の正当な理由があったとしても、労働法に定められた退職手当(uang pesangon)勤続功労金(uang penghargaan masa kerja)受け取るべき権利喪失の保障(uang penggantian hak yang seharusnya diterima)を支払う義務があり、外国資本にとっての長年の最大のネックであった本丸の一部に、ついに手が付けられようとしているのは歴史的出来事なのかもしれません。

この法律の是非について外国人の私がとやかく言うことではありませんが、インドネシア人労働者にとっては外資規制緩和という名の元で既得権益の侵害と受け止められるのも仕方がないのかもしれません。

外国人に認められるか?インドネシアでのアパート所有権とオムニバス法の影

オムニバス法には174もの条項が1000ページ以上にわたって記載されています。その中の第144 (1)項には「許可を受けた外国人がアパートユニットの所有権(hak milik atas satuan rumah susun)を持てる」との記載があります。これが実現すれば、外国人への不動産市場開放の第一歩となるでしょう。

2020年当時、インドネシアの土地所有形態は以下のように分類されます。

  1. Hak Milik(所有権): インドネシア国籍者のみ
  2. Hak Guna Bangunan(建築利用権): 会社名義の不動産で有効期間30年+20年延長可能。
  3. Hak Pakai(使用権): 定期借地権付き住宅で有効期間25年+20年延長可能。在住外国人名義(年間183日以上滞在のKITASホルダー)での不動産所有はこれのみ。
  4. Hak Guna Usaha(事業利用権): 大型事業用地で可能。有効期限35年+25年延長可能。

外国人が個人名義で土地を購入する場合、オーナーやビル管理会社と25年~30年の賃貸借契約を結び、土地の上にある建物に対して設定された使用権(Hak atas tanah)を取得します。つまり、使用権を行使して定期借地権付き住宅としてリースホールド(Leasehold)するしかなく、完全なるフリーホールド(Freehold)である所有権(Hak Milik)で所有することは認められていません。

アパートユニットには土地はありませんが、区分所有権(Strata title)が設定されます。オムニバス法の第144 (1)項が完全な区分所有権である可能性は低いですが、この区分所有権に対しても使用権が設定できるという意味であれば、外国人向け投資用物件販売という新しい市場が生まれる可能性があります。

インドネシアのアパートのほとんどが区分所有権または建築利用権であり、今後建設されるアパートは外国人への使用権設定を前提とした区分所有権での販売が増えるかもしれません。しかし、インドネシアの法律は頻繁に法改正することを前提として草案のまま可決される傾向があり、オムニバス法自体が国民の反応を見ながら法改正(修正)を加えていくことが予想されるため、直ちに外国人によるアパート投資需要が期待できるとは考えにくいです。