インドネシアの法律は刑法(Hukum Pidana)と民法(Hukum Perdata)に分かれていますが、KPKは独立機関(Lembaga Independen)であり、立法・行政・司法の機関が関与すると疑われる疑惑については、本来検察(Kejaksaan)が行う捜査・起訴(裁判にかけること)をKPK独自で実行する権限があります。 インドネシアの労務と法律 インドネシアでは建国五原則パンチャシラの下で民族の多様性を重視するためには、インドネシア人を評価できるのはインドネシア人のみという理念が労働法に反映された結果、外国人労働者の雇用についての規則の中で外国人が人事業務に就くことが禁止されています。 続きを見る
インドネシアで汚職調査を行う組織
KTP(Kartu Tanda Penduduk 住民登録証)の電子管理化が始まったのが2011年、うちの嫁はん曰くKTPの延長手続きにやたらと時間がかかるようになった、カードの紙質が悪くなって有効期限が一生(Seumur Hidup)であるにもかかわらず、使い始めて1年も経たないうちに角部分から裂けはじめてきた、とかe-KTPに関しては身近で散々な評判を聞いてきました。
案の定、国家予算6 triliun(6兆ルピア=Rp 6,000,000,000,000 = 500億円)のうち38%にあたる2.3 triliun(191億円)が関係者の懐に入っていたんじゃないかという汚職疑惑が沸騰しつつあり、汚職監視団 ICW(Indonesia Corruption Watch )が汚職撲滅委員会 KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi )に対してマネーロンダリング TPPU(Tindak Pidana Pencucian Uang )と企業犯罪(Pidana Korporasi)として調査するよう求めています。
毎日のように新聞やニュースでKPKが警察に代わって汚職の捜査をしたり、検察に代わって被疑者の起訴を行うニュースを目にしますが、実際のところインドネシアの国家や地方政府、政府関係機関の決算や予算について監査・調査を行い、汚職が発生しないように監視し、汚職が疑われる事案について捜査し、汚職事件を立件(逮捕)・起訴するという流れの中にある関係機関には以下のようなものがあります。
- BPK(Badan Pemeriksa Keuangan)会計検査院⇒監査
- BPKP(Badan Pengawasan Keuangan dan Pembangunan)財政・開発監督庁⇒監査
- PPATK(Pusat Pelaporan dan Analisis Transaksi Keuangan)金融取引報告書分析センター⇒調査
- ICW(Indonesia Corruption Watch )汚職監視団⇒監視
- Polri(Kepolisian Republik Indonesia)警察⇒捜査・立件
- Kejaksaan 検察⇒捜査・起訴
- KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi )汚職撲滅委員会⇒捜査・起訴
関係ないですが、インドネシア語は短縮語が多くてKPKに似て非なるものにKPR(Kredit Pemilikan Rumah 住宅ローン)、KPA(Kredit Pemilikan Apartemen アパートローン)、KPU(Komisi Pemilihan Umum 総選挙委員会)、PKP(Penghasilan Kena Pajak 課税所得)などがありますので、汚職事件のような政治色の強いトピックで話をしている最中に、KPKをKPAとか間違って使うとインドネシア人が怪訝な顔をします(経験談)。
191億円というのはKPKが扱う汚職調査史上最高額らしく、2011年から2017年現在まで足がつかないように組織的にゆっくりとばら撒いてきたんでしょうね。
そもそもインドネシアの国家予算の歳出にあたっては会計検査院 BPK(Badan Pemeriksa Keuangan)や財政・開発監督庁 BPKP(Badan Pengawasan Keuangan dan Pembangunan)による監査があり、さらにマネーロンダリング犯罪の防止と撲滅を目的とした独立機関である金融取引報告書分析センター PPATK(Pusat Pelaporan dan Analisis Transaksi Keuangan)という調査機関があるにもかかわらず、こんな桁違いの大金の不正な流れをみすみす見逃してしまった職務能力に対する批判が出ています。
KPKに期待される役割と弱体化への懸念
インドネシアの法律も犯罪(Pidana)を扱う刑法(Hukum Pidana)と民事(Perdata)を扱う民法(Hukum Perdata)に分かれていますが、KPKはもともと1999年に制定された汚職撲滅法に基づいて設立された独立機関(Lembaga Independen)であり、立法・行政・司法の機関が関与すると疑われる疑惑については、本来検察(Kejaksaan)が行う捜査・起訴(裁判にかけること)をKPK独自で実行する権限があります。
インドネシアはKorupsi(汚職)とKolusi(談合)とNepotisme(縁故主義)を合わせてKKNと略しますが、本来の意味は Kuliah Kerja Nyata(学生インターン仕事)だということを忘れてしまうほど汚職のニュースが多いわけですが、それを撲滅すべく監視しているKPKも調査能力の低下や、インドネシア国家警察 Polri(Kepolisian Republik Indonesia)との汚職捜査の行使権争いなどで最近評判が悪く、内務大臣(Menteri dalam negeri)からKPK宛てのレターヘッドに、故意かどうかは定かではありませんがKomisi Perlindungan Korupsi(汚職保護委員会)と間違って書かれてしまうという笑えないニュースがありました。担当スタッフはもちろんクビになったらしいですが。このように捜査権限を持った独立機関として大胆な汚職摘発を行うことで国民の支持を得たきたKPKですが、2019年10月の改正汚職撲滅法によって、汚職被疑者に対する通信傍受、控訴、家宅捜索などを行う際には、大統領直轄の監督者評議会の事前許可が必要になり、これがKPKの弱体化に繋がるという指摘がなされています。
(2022年1月追記)
KPKによる汚職の現行犯逮捕件数は法改正前に比べて大幅に減少しているようですが、新年早々の1月6日にKPKがブカシ市長を収賄の容疑で逮捕したニュースが報道され、権限が制限される中でも地道に成果を上げているようで嬉しく思いました。