インドネシア製造業のDX化とコロナ禍の影響分析

2021/04/02

インドネシア製造業のDX化とコロナ禍の影響を構造化した図解

インドネシアのコロナ禍において、日系製造業からのシステム化(DX化)の相談が増えています。特に、正確な原価管理と多面的な収益管理の必要性、そして納期遅れを防ぐ生産管理への意識が高まっています。

インドネシアの生産スケジューラとPSI表・負荷計画の関係を構造化した図解

インドネシアの生産スケジューラ

生産計画と負荷計画は密接に関連しており、数量ベースでの確認が求められる。PSI表を用いて生産数量、消費数量、在庫数量を対比することが重要。計画は実績と比較して進捗を確認し、在庫数量に基づく予測でリセットされる。

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この記事でわかること

  • 2020年3月にインドネシアで初めてコロナ感染者が確認され、4月には大規模社会制限が実施されました。
  • JETROの調査によると、2020年第二四半期に売上が50%以上減少した日系企業は37%でした。
  • インドネシアの日系製造業871社のうち、25%が二輪四輪関連企業です。
  • 個別受注生産では、見積もり時点で詳細な設計図がなく、受注後に材料費を算出することが多いです。
  • 台湾のオードリー・タンは、マスク在庫をリアルタイムで確認できるアプリを開発し、買占めを防ぎました。

インドネシアのコロナ禍による製造業への影響

コロナ禍による製造業への影響

2020年3月にインドネシアで初めてコロナ感染者が確認されました。4月には大規模社会制限(PSBB)が実施され、人の移動が制限されたため消費が落ち込みました。5月にはPSBBが継続される中でラマダン月に突入し、32%の日系製造業が国内外からの注文留保や減少、キャンセルにより5割以上の減産を余儀なくされました。3月から5月にかけての生産活動への影響は非常に大きかったです。

インドネシアは1998年の通貨危機や2002年頃から頻発した爆弾テロ、2008年のリーマンショックなど、何度も不景気の影響を受けてきました。そのたびに生産・流通・消費といった実経済がダメージを受け、民間企業によるIT投資は実経済回復から6か月遅れるというのが一般的な流れでした。

6月にはPSBBを段階的に緩和する移行期間(PSBB Masa Transisi)に入り、新しい生活様式(New Normal)という区切りを迎えました。6月下旬から7月にかけては海外駐在員のインドネシアへの再入国が増え、製造業のIT投資が活性化し始めるのは早くても12月だと予想しました。

10月下旬頃からはお問い合わせや引き合いが少しずつ戻り始めましたが、実際に案件となりDP(手付金)のInvoiceを発行できるまでには1~2か月、入金までさらに1か月かかりました。現地企業をお客様とするサービス業の皆様のご苦労は想像を絶します。

日系企業の業績と投資戦略への影響

JETROの調査によると、インドネシアの日系企業の2020年第二四半期における前年同月比売上減少が50%以上の企業は37%、20%~50%未満減少が27%を占めました。また、2020年2月末時点での現預金の留保が月商の3ヵ月未満の企業が55%でした。これにより、IT投資戦略に大きな影響が出ています。

しかし、将来の投資戦略に対するマイナスの影響は少なく、現地の需要や成長性が期待できるため、69%の企業が現状維持、12%が拡張を考えており、縮小を検討している企業は15%に留まっています。

日系企業アンケート結果

コロナ禍中に開催した3回のセミナーのアンケートで挙げられた業務改善の取り組みとして、以下のようなものがあります。

  • 生産ローテーション配置
  • 減産に対応した生産計画と自宅待機の徹底。賞与圧縮。
  • 管理部門効率化/スリム化、アウトソース化
  • 生産性の向上の改善活動。
  • 品種別製品マスターデータの見直し

これらから、原価管理と生産計画に対する意識の高まりが見られ、弊社へのお問い合わせにも反映されています。

  • 見積もり価格に対して実績原価がオーバーする
  • 多面的で粒度の細かい収益管理の必要性
  • 出荷時の製品在庫不足
  • 受注と出荷の紐付きの把握
  • 出荷に間に合う現実的な計画

個別受注生産工場の原価集計

IT導入の目的

インドネシアの日系企業1489社中、製造業が871社(2019年11月)で、そのうち二輪四輪関連企業は25%を占めます。コロナ禍中にいただいたお問い合わせでは、お客様の意識は以下の2点に集中していました。

  1. 正確な原価管理とより多面的な収益管理の必要性
  2. 納期遅れしない生産管理の必要性

工場の生産方式は、受注NOごとに異なるコストが発生する個別受注生産と、連続大量生産で基本的に同じコストが発生する見込み生産(マスプロダクション)の2つに分かれます。

個別原価計算と総合原価計算

個別受注生産は主に中小企業で行われ、実績データを蓄積することで将来の見積もり精度を上げることを目的とします。一品一様の個別受注生産工場では、見積もり時点で詳細な設計図がなく、受注後に初めて発注側から届く詳細設計を元に正確な材料費が算出できるケースが多いです。この場合、見積もり提出時点で予算原価を算出するために参照できる有益な過去実績がいかに多く体系的に蓄積されているかが重要になります。

事例:インドネシアで個別受注生産を行う日系中小企業が、高い技術力を持つ「町工場の技」で市場を独占できるうちは、原価をどんぶり勘定で計算し多めに利幅を載せても受注できました。しかし、過当競争の時代です。

要点:市場競争が激化する中で、正確な原価管理が企業の競争力を左右する重要な要素となります。

問題解決の手段としてDX化が必ずしも正とは思いません。ただ、コロナ禍によって日本のDX化が遅れていることが表面化し、既得権益や過去のしがらみがDXを遅らせる要因であることを現場レベルで強く感じました。インドネシアは既存システムの縛りや既得権がないため、EC・モバイルシステムの普及が急速に進みました。

日本も団塊の世代からベビーブーム世代へ新陳代謝が進むことで、変革の意思決定のスピードは確実に上がります。見たくない現実をしっかりと見据えた上で前に進むしかないのだと思います。

連続見込み生産の原価集計

コロナ禍において、多くの日系製造業から原価管理の見直しに関するシステム導入の検討が進められています。かつての水準と比較して、インドネシアの製造および販売拠点としての重要性が増しており、人件費の高騰も影響して、インドネシア現法のIT予算が承認されやすくなっています。

勘定連絡図

インドネシアの日系企業の基幹業務は徐々にシステム化されていますが、DX化が進みにくい分野の一つが原価管理、特にマスプロ型の総合原価計算です。これは、総平均法や移動平均法などの国際会計基準(IFRS)が認める原価算出方法を採用するためには、正確な生産実績が必要だからです。

総平均法

総合原価計算の詳細は複雑ですが、コロナ禍で問われたのは「何のために正確に原価を把握するのか?」という基本的な問題です。企業活動の目的は利益の追求であり、存続の条件でもあります。利益は企業存続のための条件であり、現預金の確保が重要です。資本金100jutaで起業し、毎月25jutaの固定費がかかる場合、4か月以内に売上を計上できなければ経営が厳しくなります。

単に原価を正確に把握するだけでは利益は増えません。重要なのはその原価がどれだけの利益を生み出しているかです。ROI(投資利益率)を考慮し、コストセンターからプロフィットセンターへの発想の転換が必要です。

多軸的コスト分析

この発想の転換とは、製造原価を基にP/L上で売上総利益(粗利)を出し、販管費を差し引いて営業利益を算出し、P/Lの縦軸で原価の妥当性を判断する管理会計的思考への転換です。さらに、コロナ禍の収益改善には、P/Lの横軸を広げた多軸的な分析が求められます。

納期遅れさせない生産管理

コロナ禍中、多くの日系製造業様からいただいた業務改善課題の一つが「正確で多面的な原価管理」、もう一つが「納期遅れしない生産管理の必要性」でした。製造業では、原材料を仕入れて生産を行い製品が出来上がるまでを生産管理、客先から受注オーダーを受け出荷する業務を販売管理と分けます。インドネシアの製造業でよく見られた業務パターンです。

  1. 営業に客先から受注オーダーと出荷スケジュールが届く。
  2. 出荷スケジュールに合わせて生産開始。
  3. 出荷日に製品在庫がなく、出荷部門があるだけ出荷、不足分は翌日に返済して出荷。
  4. 客先は出荷部門と直接コミュニケーションをとる。

この結果、営業の業務の範囲が狭まり、受注オーダーの管理中心になります。本来であれば営業は生産管理部と一緒に基準生産計画(製品の完成日基準)作成に関与し、出荷部門に出荷指示を出し、受注オーダーに対してどれだけ出荷されたか、どれだけ残っているかの管理、いわゆる受注残管理を行います。

インドネシアの業務フローの問題

本来は営業が客先へのInvoice発行を主導し、経理部門に売上伝票を渡すことで売上と債権計上の振替伝票をきってもらうべきところ、受注残管理が出来ないために出荷部門の業務完了待ち、連絡待ちとなります。この問題の元凶は出荷時に製品在庫がないこと、納期に合わせた生産が出来ないことにあります。

出荷時に必ずしも製品が完成していないため、顧客との窓口が営業ではなく出荷担当者になってしまう工場が多く、その結果受注オーダーと出荷スケジュール、生産スケジュール間(購買スケジュールも)が分断されてしまいます。この弊害として納期遅れが生じ、挽回(救出)生産により生産性が低下します。

コロナ禍で求められるDX化とは

コロナ禍に求められたDX化

システム化の目的が省力化、効率化、間違い防止であるとすれば、DX化とは単なる既存システムの置き換えではなく、【ITを使用すればこんな便利なことが出来るようになる】という業務改革です。

台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンは、マスク在庫がリアルタイムで確認できるアプリ「マスクマップ」を開発し、国内のマスク不足による買占めや転売を防ぎました。これは最先端技術を駆使したシステムではなく、OSS(オープンソースソフトウェア)を活用し、迅速かつ柔軟に運用できるコミュニティと運用体制を構築したことが評価されました。

業務改革を行うためには現場のオペレーション改革が不可欠です。ITを基に現場のオペレーション改革を実現するコンセプトを作成し、業務改善と収益改善を実現することがDX化の意義深いところだと考えます。

よくある質問|インドネシア製造業のDX化

本稿の内容に沿って、繰り返し出る問いを短く整理します。

インドネシアのコロナ禍で製造業はどのような影響を受けましたか?

2020年3月に初めて感染者が確認され、4月には大規模社会制限が実施されました。これにより消費が落ち込み、32%の日系製造業が5割以上の減産を余儀なくされました。生産活動への影響は非常に大きかったです。

日系企業のIT投資戦略にどのような変化がありましたか?

JETROの調査によると、売上減少が50%以上の企業は37%に達しましたが、将来の投資戦略に対するマイナスの影響は少ないです。69%の企業が現状維持、12%が拡張を考えており、縮小を検討している企業は15%に留まっています。

コロナ禍でのDX化の意義は何ですか?

DX化は単なる既存システムの置き換えではなく、ITを活用した業務改革です。現場のオペレーション改革を実現し、業務改善と収益改善を目指すことがDX化の意義深いところです。