「インドネシア人は金銭的に恵まれていないが心は豊でキラキラした目をしている」といった表現は20年以上前によく目にしたものの、経済発展を遂げ都市部で高収入を得るインドネシア人の生活様式は日本とさほど変わらないことから、同じような先進国特有の社会問題も顕在化しています。
-
インドネシアの人々
インドネシアは2億6千万人の人口のうち4割がジャワ島に集中しており、300あると言われる民族の中でジャワ人が45%、スンダ人が15%を占め、総人口の9割がイスラム教徒であり、多民族他宗教のインドネシア人の求心力となるべく制定されたのがパンチャシラです。
続きを見る
在宅勤務より出社を選択するインドネシア人がいることへの驚き
2021年7月3日からジャワ島全土とバリ島に緊急活動制限(PPKM Darurat)が適用されたことで、企業は原則100%在宅勤務、銀行や通信などエッセンシャルセクターに分類される企業の社員は最大50%、エネルギーや物流などクリティカルセクターに分類される企業の社員は最大100%という出社制限が出され、違反企業に対しては一時事業停止処分が下されるなど厳しい措置が取られました。
その後の度重なる活動制限の延長措置により、ようやくジャカルタ全域でオフィスへの出社比率が25%まで認められ、そして8月には50%まで引き上げらましたので、工業団地にある日系顧客に対してシステム導入支援を行う場合、担当者の出社日を狙って訪問するようになりました。
弊社の場合、2020年の大規模社会制限(PSBB)時から完全在宅勤務にシフト済で、時間管理は完全に社員に任されており、平日昼間に私用で出かけた場合には、その穴埋めを夜または祝日に行うというように、各々が自由な働き方を満喫しているように見えているため、コロナ禍で苦労するのは経営者だけで、従業員は例外なく在宅勤務になってラッキーと感じているに違いないと思っていました。
それだけにある日系工場の日本人担当者との話の中で、在宅勤務に耐え切れず出社したがっているインドネシア人の社員が数人いると聞いたのは新鮮な驚きでした。
某企業で「出社制限50%かけたのに理由つけてこっそり会社で仕事する社員がいる」という話を聞き、一瞬何を言っているのか理解できなかったが、これは家でのんびりお菓子食べながら仕事するより、早起き通勤してでも会社に行きたいという理解で合っているのか?世の中そんなに真面目な人が増えたのか?
僕がインドネシアに来たのが1997年10月、日本との1人当たりGDPの差が30倍以上あった時代で、当時は日本人駐在員の口からインドネシア人社員が仕事をしてくれない、要領が悪くて生産性が低いなどと頻繁に愚痴を聞かされましたが、日本経済が長年デフレ状態のまま停滞するのを後目に、インドネシアは年平均5%で緩やかに成長してきた結果、現在は1人当たりGDPの差は5倍程度までに詰められています。
これだけ経済格差が縮まれば、日本人とインドネシア人の行動様式も変化し、インドネシアに駐在している日本人とローカルスタッフのインドネシア人という関係の中で、お互いに対する見方や接し方にも変化が出て当然であり、少なくとも日本人は昔ほど「これだからインドネシア人は・・・」といった愚痴を軽々しく言えない立場になりつつあります。
僕は1997年まで東京のIT会社で働いていましたが、当時在宅勤務がOKになったとすれば、仮に会社の寮が爆破されたとしても、マックをはしごしてでも、公園の土管の中に籠ってでも出社は拒否したはずというくらい職場の人間関係が嫌いだったので、もしかすると家に居るより出社したいというインドネシア人は、職場の人間関係をうまく構築できている優秀な勝ち組人材なのかもしれません。
日本特有と思われていた生活様式がインドネシアでも顕在化
日系製造業が集積するジャカルタの東に位置するブカシ県では、2021年の最低賃金が月額Rp.4,782,935まで高騰しており、夫婦共働きのダブルインカムの家庭であれば、なんとかやり繰りして生活が成立する収入レベルと言えると思いますが、旦那さんの稼ぎがいい奥さんは専業主婦になるケースも増えており、これは日本の女子大生が「夢は専業主婦」と語っていたのと事情は同じなのかもしれません。
そして旦那さんが在宅勤務になれば、狭い家の中で奥さんの立場のほうが強くて頑固、子供はギャーギャー騒ぐし、相手しないとまた奥さんに怒られる、だったら会社に行った方が仲間も居るし気が楽、と考えるのは日本でもインドネシアでも自然な流れです。
自宅と会社の往復だけの生活だから異性で出会う機会がないとか、自宅に居場所がないので出社したいとか日本だけの話かと思ったら、「心が豊かでキラキラした目をした人々」で溢れるインドネシアでもある話。そう考えればどこに住んでいても自分の人生に悲観せず堂々と生きていけるんじゃなかろうか。
「家に居場所がない」というのは、世界でも類を見ない日本のお父さんだけから聞こえてくる嘆き節であると思われていたのが、インドネシアの経済発展が目覚ましい今、収入レベルが高い都市部のお父さんがコロナ禍で在宅勤務を強いられるようになったことで、同じ構図が浮き彫りになろうとしているわけです。
また日本の平均初婚年齢は夫31.1歳、妻29.4歳で、晩婚化と非婚化が進むことによる少子化問題が大きな課題となっていますが、結婚しない最大の理由は「出会いがない」ことであり、一方で平均初婚年齢が24歳前後とまだまだ若いインドネシアでも、地方からジャカルタに出てきて働く若者の中にも出会い不足に悩む者がいます。
彼女いない歴26年のスンダ人イケメン技術者が、出会いがない理由は「家と会社の往復だけの生活だから」と言うの聞いて、日本人みたいなこと言うヤツだと思った。
生産年齢人口が従属人口の2倍以上ある人口ボーナス状態が2030年まで続くと言われるインドネシアですら、都市部では日本と同じような先進国特有の社会問題が顕在化しており、「インドネシアは金銭的に豊かではないが社会生活をする上で人間同士の絆が強いため心は豊かだ」みたいな純粋ステレオタイプの価値観はアップデートすべき時代にきているのかもしれません。