インドネシアと日本の内需主導型経済の比較と課題

2019/09/21

ジャカルタ

インドネシア型の内需主導型経済は、国内の消費者人口の増加によって新たな需要が自然に生まれています。一方、日本型の内需主導型経済は、消費者人口の減少により国内資産を切り崩し、海外資産の金利で経済規模を支える状況です。

スナヤン競技場(Gelora Bung Karno)

インドネシアはなぜ発展するのか?政治・経済・社会を支える構造と成長戦略

スカルノ大統領時代は共産主義政策が推進され、西側諸国からの投資が減少しました。スハルト大統領は西側諸国との関係を強化し、工業化を進めましたが、石油依存から脱却できませんでした。1998年のアジア通貨危機後、インドネシアは民主主義国家と…

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この記事でわかること

  • インドネシアの内需主導型経済は消費者人口の増加に支えられています。
  • 日本の内需主導型経済は消費者人口の減少により海外資産の金利に依存しています。
  • 1995年の日本の就職活動は氷河期と呼ばれ、バブル経済の象徴だったジュリアナ東京は閉店しました。
  • インドネシアは1997年の通貨危機を経て、ルピア安水準で安定していますが貿易赤字が続いています。
  • インドネシアの1人あたり名目GDPは2022年に5,000ドルを超えると予測されています。

日本のバブル経済崩壊後のデフレ不況

私が大学に入学したのは1991年、バブル経済の末期でした。土地や株価が急上昇し、三菱地所がアメリカの象徴であるロックフェラーセンタービルを買収するなど、経済は活況を呈していました。ウォーターフロント湾岸地区のジュリアナ東京では、ワンレンボディコンの女性たちが扇子を振って踊っていました。

サークルのコンパでは、テレビ局や都市銀行に就職したOBからの潤沢なおごりや寄付金のおかげで、六本木のディスコやカラオケをタクシーでハシゴし、高価なワインやウイスキーを開けることができました。

私が中学生の頃、円安を背景にしたメイドインジャパン製品の輸出攻勢が日米貿易摩擦を激化させ、アメリカの自動車産業を脅かしました。デトロイトでは職を失った労働者が日本車をハンマーで叩き壊す映像がニュースで流れていました。

1985年のプラザ合意により円高ドル安が進み、日本の輸出が不調になりました。国内不況を避けるため、日銀は金利を下げ、株や不動産の売却益に対する優遇税制を設けたことがバブル経済の引き金となりました。市場に流入したお金が株や不動産投資に向かい、土地価格は上がり続けるという神話が信じられていました。

しかし、実体経済の成長を超える資産価格の上昇を抑えるため、日銀と政府は金利を上げ、不動産投資目的の融資に制限をかけました。その結果、不動産価格は暴落し、多くの投資家が損失を被りました。

1995年の就職活動は氷河期と呼ばれ、バブル経済の象徴だったジュリアナ東京は閉店しました。その後、六本木ヴェルファーレがNo.1ディスコの地位を引き継ぎました。

バブル経済後の日本ではデフレ不況により「失われた20年」という言葉が定着しました。デフレ脱却のため、2014年に日銀の黒田東彦氏による異次元量的・質的緩和が実施されました。黒田氏は福岡県大牟田市出身で、彼の政策により企業の業績は改善し株価は上昇しましたが、企業の設備投資や賃上げは抑制され、余剰資金が滞留する結果となりました。

インドネシア通貨危機から見る経済と個人資産の教訓:1997年以降の実体験と現地視点

私が1997年10月にインドネシアに来た直後、日本四大証券会社の一つだった山一證券や、都銀最小規模の拓銀(北海道拓殖銀行)が相次いで破綻しました。バブル時代の不良債権回収や新規融資の貸し渋りが問題となり、日本経済の悲観論が出始めた頃でした。

アジアでもジョージ・ソロスを中心としたヘッジファンドによる通貨の空売りが行われ、インドネシアルピアの対ドルレートは下がり続けました。当時ドル建てで資金を借りていたインドネシア国内企業の債務返済が滞り、一気にインドネシア通貨危機(krisis moneter 略してクリスモン)に突入しました。

原油の輸入コストが上がったことで国内のガソリン価格や、9つの生活必需品スンバコ(Sembilan Bahan Pokok)が上昇しました。タクシーの初乗り料金が乗るたびに値上がりする感覚があり、長年のタブーだったスハルト政権に対する批判が公然と行われるようになり、日に日に学生デモが激しくなっていきました。

外貨準備が底を尽き、ルピア暴落を防ぐための通貨防衛ができなくなる一方で、国内に流動する現金を集めるために金利だけはどんどん上がり続けました。私も将来の為替リスクをあまり考えないまま、日本のシティバンクに預けていた円の大半をルピア転し、BNI銀行の定期預金に突っ込みました。

半信半疑のまま翌月の通帳に印字された利子の金額を確認したとき、インドネシアで生活する上で金利を意識することがいかに重要かを認識しました。

その後2016年には、国内取引のルピア建ての義務や、海外からの外貨借入へのデリバティブ資産によるヘッジ義務が規制化され、民間企業の海外からの外貨建て借り入れが事実上制限されています。

2004年に初の民主的直接選挙でユドヨノ(SBY)大統領が選出され、インドネシア経済は若年労働力人口の多さ、豊富な天然資源・鉱物資源の魅力と将来性に対して世界中から注目されていました。

当時はそのうちインドネシアでも日本型バブル経済くらいに活況になるのではないかと思っていましたが、2008年のリーマンショックの影響で一気に経済が冷え込みました。経済成長率は堅調に推移しているとはいえ、輸出が伸び悩み国内産業の育成も進まないまま、完全に内需依存型の経済に落ち着いています。

ちなみに私はリーマンショック前のオンライントレーディングブームに乗り、インドネシア株や投資信託(Raksa Dana)にまとまったお金を入れましたが、証券会社が倒産し口座に預けた金額が飛んで集団訴訟団に参加したり、デイトレードでMPV車一台分くらい溶かしたり、散々な目に遭いました。

インドネシア経済の強みと課題:内需主導型成長の構造と今後の展望

インドネシア経済は緩やかな成長を続けており、その背景には輸出競争力が弱く、消費者人口増に伴う国内需要の伸びに支えられた内需頼みの経済構造があります。

インドネシアは金融危機を乗り越え、ルピア安水準で安定していますが、貿易赤字が続いています。これは、日本がバブル経済崩壊後にアベノミクスの一環で円安誘導を行ったにもかかわらず、貿易赤字が続いた状況と似ています。

  • 他国の製品競争力が向上したことで需要低下
  • 輸入してくれる国が不景気で需要低下
  • 自国の賃金上昇によるコスト上昇により競争力低下

このような状況は、輸入を必要とする内需があることを示しており、その内需を国内生産で満たせないために輸入が増えるという理屈です。

インドネシアの1人あたり名目GDPは「バイクから自動車へ需要がシフトする」と言われる3,500ドルを超えており、2022年には5,000ドルを超えると予測されています。

インドネシアの1人あたり名目GDPの推移

内需主導型経済は、消費者人口が増えることで新たな需要が生まれる間は成長を続けますが、人口が増えない場合は国内資産が外に流出することになります。

インドネシアの内需型経済の最大の強みは、増え続ける消費者人口が新たな需要を生み続けている点です。一方、日本の内需型経済は消費者人口が減少しているため規模は縮小していますが、海外資産が生み出す金利が経済を支えています。

米中貿易摩擦や香港の政治危機がある中で、中国の世界経済での相対的立場が強まることは避けられず、インドネシアも日本も中国との関係を重視せざるを得ない状況です。

インドネシア市場が海外資本にとって魅力的な理由と内需経済の現実

インドネシア進出セミナーでよく耳にするのが、海外資本にとってインドネシアの国内市場が非常に魅力的であるという点です。外国資本にとってインドネシア市場が魅力的に映る理由は、そこで利益を上げやすいからです。しかし、インドネシア側としては、国内で自由に活動されて利益を海外に持ち出されるのは避けたいので、ネガティブリスト(投資分野において外資が制限されている事業分野)を設けたり、労働者保護を優先する労働法を制定したり、移転価格税制を厳格化しています。

  • 儲けるならちゃんと国内にも還元しろ

このように、インドネシアは国内利益の還元を徹底しています。「インドネシアの国内の分厚い内需」の裏には「輸出競争力の長期低迷」という側面がありますが、これは日本と似ている部分があります。燃料価格が物価を押し上げ、生産性が横ばいのまま労働コストが価格に反映され、労働者はさらに賃上げを要求するという状況です。内需で経済が回り続け、付加価値産業が育たない点は日本と共通しています。

日本では『失われた20年(または30年)』の間、長期デフレで消費が冷え込んだ原因は、企業が保有する行き場のない手元現金であり、その額は506兆円にも達しました。内需拡大のためには、これを投資という形で市中に流通させ、企業や消費者に還元することで消費を活性化させる必要があります。これがアベノミクスの狙いでしたが、大きな成果は上がらず、デフレ脱却には至っていません。

インドネシアと日本の国内市場はどちらも分厚いですが、インドネシアの方が消費者人口が多く、インフレ傾向にあるため、消費に回る比率が高くなり、その結果として内需が活発になっています。

インドネシアと日本の貿易収支の推移
インドネシアと日本の貿易収支の推移( 世界経済のネタ帳から )

日本の場合、貿易収支が赤字傾向である一方、経常収支は貿易収支やサービス収支などの赤字を帳消しにするほどの大幅黒字です。

インドネシアと日本の経常収支の推移
インドネシアと日本の経常収支の推移( 世界経済のネタ帳から )
日本の経常収支の内訳

  • 貿易収支(赤字)
  • サービス収支(赤字):輸送収支、旅行収支、その他サービス収支
  • 第一次所得収支(大幅黒字):国外へ投資にかかる利子や配当の受け取り
  • 第二次所得収支(赤字):その他

マクロ経済的に言えば、日本は貿易収支赤字による国内資産の減少を過去の投資からの利子配当で補填している状態です。そしてインドネシアの場合は、輸出が伸び悩む中でも、国内の消費意欲の強い消費人口が増え続け、新たな需要を生み出し続けることで経済が活性化しています。

内需依存からの脱却へ:日本とインドネシアに共通する輸出競争力強化の課題

日本は高度経済成長期に輸出依存体質から内需主導型経済へとシフトしました。内需主導型とは、国内でお金を回す状態を指しますが、循環取引によって売上が増えても、国全体としては先細りになる可能性があります。家族内での売買では、家族全体の富は増えません。家族が裕福になるためには、外部からお金を稼ぐことが必要です。これは輸出によって国内資産を増やすことを意味します。

  • 輸出促進で外貨を稼ぎ、国力を強化し、国内産業を強化する

このパターンは国家の経済発展における成功の鍵です。家族内での消費は国内資産を回しますが、輸入品の購入は資産の流出を招きます。日本では公共事業投資を行っても、資金が企業や個人の貯蓄に滞留し、国内消費が増えない状況です。

  • 公共事業投資を行っても、お金が企業内や個人の貯蓄に滞留してしまい国内消費が増えない

一方、インドネシアでは国内消費が増えても、消費材の輸入品比率が高く、国内資産が海外に流出しています。

  • 国内消費は増えても消費材の輸入品比率が高く、国内資産が海外に流出

国内資産が増えれば景気が上昇する

大学を卒業して以来、アカデミックなことから離れていましたが、景気の流れはインフレ率、金利、為替の相関関係によって影響を受けます。輸出が好調であれば国内資産が増え、景気が良くなりますが、輸出が不調だと国内資産が減少し、景気が悪化します。

  • インドネシアの景気が良くなる(インフレ傾向
  • 国内企業が投資を増やす(借入を増やす)
  • 銀行に多くの借入希望が来るので金利下降
  • 金利が下がるとルピアを売って外貨を買い外国にお金が逃げるのでルピア売り(ルピア安
  • 輸出減少、一方でインバウンドの海外からの直接投資増加(デフレ傾向
  • 国内企業が投資を控える(借入を控える)
  • 銀行は借りてもらうために金利上昇
  • 金利が上がるとルピアで預けたくなるので外貨を売ってルピア買い(ルピア高
  • 輸出または海外への投資がしやすくなるのでインドネシアの景気が良くなる(インフレ傾向

インドネシアでは、金利が上がっても政治経済の不安定要素が大きければルピア安となり、国内産業の技術力不足で製品競争力が低く、輸出が伸びない状況が続いています。2019年からのジョコウィ政権第2期目の課題として、インドネシアの輸出競争力を向上させるために、一次産品を国内で加工し付加価値をつける川下化(hilirisasi)を掲げました。政府は9月2日に電気自動車のバッテリーに欠かせないニッケルの輸出を2020年から禁止することを発表しました。

かつて日本は輸出主導型経済で、アメリカとの貿易摩擦を生みました。デトロイトでは日本車がハンマーで叩き割られることもありました。私も学生時代に日本的経営を学び、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という言葉を誇らしげに思った世代です。しかし、その経営スタイルが日本企業の国際競争力を弱める要因となり、バブル経済崩壊の影響で企業は設備投資を控え、人口減少による内需の収縮が重なり、厳しい状況が続いています。

インドネシアは消費者人口が増え続けている間に国内産業の技術力を向上させ、国内資産を増加させるための輸出競争力を強化する必要があります。その産業部門の柱として電気自動車を挙げています。自動車の生産能力は十分あるにもかかわらず、輸出台数は30万台に留まっており、タイに比べてわずか3分の1です。国際競争力の改善のために、生産性向上のための生産のIoT化、高度人材育成が求められています。