インドネシアの噂話と情報リテラシーの課題

2014/09/07

ジャカルタ

インドネシアでの噂話の信憑性は非常に低いです。特に日本人社会では、インドネシア人からの精度の低い噂話が誤解され、さらに論評や推論が加えられて広まることが多いです。

インドネシアの民族・宗教観と多様性を示す構造化した図解

インドネシア人の性格・民族・宗教観|多様性に生きる国民性とは?

インドネシアの人口は2億8千万人で、ジャワ島に4割が集中しています。ジャワ人は45%、スンダ人は15%を占め、イスラム教徒が9割です。ジャワ人は幸福と調和を重視し、バタック人やマドゥーラ人は気性が激しいとされます。

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この記事でわかること

  • インドネシアでは噂話の信憑性が低く、特に日本人社会で誤解が広がりやすいです。
  • ジャカルタでは噂話を2割から7割引きで聞くことが推奨されています。
  • インドネシア語でおしゃべりな人をcerewetやmulut emberと呼びます。
  • インドネシアでは秘密保持契約(NDA)があまり意味を持たないことがあります。
  • 日系企業の雰囲気に慣れたインドネシア人は、再び日系企業に転職する傾向があります。

ジャカルタ日本人社会に蔓延する噂話と情報リテラシーの欠如

ジャカルタでは噂話の信憑性が非常に低く、ガセネタ率が高いと常々感じています。私の場合、日本人からの噂話は平均して2割引き、人によっては5割引きで聞くようにしています。特にインドネシア人からの精度の低い噂話を日本人が本当のように話すことで、情報の信憑性がさらに低下します。

間違った事実認識を元に論評を加え、推論まで立てて次に流すため、話がとんでもない方向に行ってしまい非常に始末が悪いです。ガセネタが多すぎて、人の話は眉に唾をつけて聞くのが習慣になり、非常に疑り深い性格になってしまいました。

日本人ですらこの有様では、インドネシア人からの噂話はもっと酷いです。私の部下には、7割は話を作っているのではないかと思われるツワモノがいます。主観ですが、話の信憑性の低い人間は簡単に嘘をつき、おしゃべりです。

あるとき、私が客先であるA社でミーティングしている最中に部下がメッセージを送ってきました。

A社に居るんですけどトラブル対応に手間取っているのでB社に行けずごめんなさい。
いや、俺今A社に居るんだけど・・・

これだけ渋滞が酷いと早く帰宅したいという気持ちは理解できますが、あまりにも軽率で間抜けです。

インドネシア在住で学んだ噂話に惑わされない情報リテラシーと心構え

人間は皆、長所と短所があり、長所だけを見て短所に目をつむれば、誰とでも良い関係を築けると思います。しかし、私にとって「ガセネタ」や「悪意のない嘘」はそれほど重要ではありません。そもそも私自身も気づかないうちにガセネタを流していることがあると思います。「お前は思い込みで判断を下す傾向がある」と言われることもあります。

情報の信憑性を判断するためのポイントは以下の通りです。

  1. 話す人が誰か。この時点で2割引きから7割引きまでにグループ化されています。
  2. 誰からの情報か。7割引きの人に7割引きの人から聞いた話は、純度100%のガセだと判断します。
  3. どんな場で聞いた話か。酒の席での話の精度は落ちます。

人間の性格は一生でそれほど変わらないと思いますが、インドネシアに来てから「人からどう思われているかを気にしなくなった」という変化がありました。もともと内向的で人間関係を作るのは苦手ですが、「他人の論評が自分に実害を与えることは少ない」と分かってきたからです。

芸能人であれば人気に影響し、レストランであれば風評被害で客足が落ちるかもしれませんが、私はジャカルタ在住のただの日本人。噂話に取り上げられるほど知名度も高くなく、関心も持たれていないと思います。仕事に悪影響を及ぼさない程度であればどうでもいいと考えています。

私の大好きな黒澤映画「椿三十郎」の中で、三十郎が誘拐された上代を「自分が馬鹿だと思われていることを気にしないだけでも大物だ」と評する場面があります。

自分が馬鹿だと思われていることを気にしないだけでも大物だ。

仮に私を馬鹿だと思っている人がいても、その人が賢い確率は低いですし、私を嫌なヤツだと思っている人がいても、その人が他人からイイ人と思われている確率も低いと思います。こう考えると、自分に関する噂話が嘘か本当かは大して重要ではないと感じます。

仮に仕事で問題を起こし、悪い噂が広まったとしても、日系企業の駐在のお客さんは最大5年で入れ替わりますので、悪い噂もそのうち薄れていくだろうと思っています。

インドネシア人社会における噂話と「秘密」の価値観:漏洩文化と情報リテラシーの違い

インドネシア語でおしゃべりな人をcerewetやmulut ember(バケツの口)と呼びます。日本と同様に、インドネシアでも男性のおしゃべりはみっともないとされる風潮があります。しかし、インドネシアでの噂話の信憑性は5割引きから7割引き程度だと感じることが多く、頼んでもいないのに「あなたに情報を分けてあげる」と上から目線で話をされるのは不快です。

「Jangan bilang ke siapa2 ya(誰にも言わないでね)」と前置きされる話が価値ある情報だったことはほとんどありません。せいぜい以下のような話です。

  1. ロクでもないどうでもいい話
  2. 既に皆が知っている秘密でも何でもない話
  3. 何らかの意図をもって秘密の話という形で伝えたい話

この程度の話を恩着せがましく教えてくれる人は、秘密を漏洩することで逆に信頼を落としていることに気づいていません。漏洩するだけならまだしも、密告、つまり仲間を売る話だったときは最悪です。鬼塚栄吉が生徒の吉川に言った名台詞を思い出します(GTOの第4話参照)。

同じクラスのダチをチクろうなんてヤツは俺は信用しねーぜ

ただ、「こいつがもったいぶって話す情報がどれほどのものか聞いてみたい」という誘惑に勝てないときは、一応話を聞いてみますが、十中八九たいした話ではありません。

内緒の話もすぐに広まるインドネシア

私の経験から言うと、インドネシア人は「自分の胸のなかに閉まっておく」ことが苦手な民族だと思います。インドネシア人に「誰にも言うなよ、絶対に言うなよ」とダチョウ倶楽部のコント並みに念を押せば押すほど、誰かに話したがる傾向があるように感じます。情報をうまく利用しようとすることもありますが、情報量で優位性を保とうとする人は、自分が価値があると信じている情報が相手にとって必ずしも価値があるとは限らないことに気づかないことがあります。

情報の使い方が恩着せがましかったり、間接的な告げ口であったりして、逆に自分の評価を落としてしまうことに気づかないのだと思います。相手の意図があからさまに腹黒い感じがしたときには、以下のようにはっきりと言います。

  1. Saya tidak peduli.(気にしない)
  2. Bukan ulusan saya.(俺には関係ない)
  3. Saya tidak tertarik hal itu.(お前の話に興味がない)

ただし、毎回つれない対応をすると門が立つので、たまに興味を持って

Terus gimana?(それでどうなのよ?)

と前のめりになって詳細を聞いてやろうとすると、

Maaf tidak bisa kasih tahu lebih dari ini.(ごめんなさい、これ以上は言えないんです)

と言われることもあります。もうね、アホかと、バカかと。

秘密の話は誰かに話さないと気が済まない?噂好きな国民性とその背景

以前、私の部下の一人が大手デベロッパーのシステム部門マネージャーとして転職した際、その会社のGeneral Managerが彼の友人だったという強力なコネがありました。今回、別の部下が業界第5位の大手銀行のシステム部門への転職活動をしています。上司の私がその情報を知っているのは、彼が直接私に

僕、転職活動中です。採用されたら翌年1月に辞めますけど、不採用のときは引き続き働かせてください

と打ち明けてくれたからです。普通、こういう話は採用通知を貰ってから連絡するものだと思っていましたが、彼が正直者なのか腹黒いのか、天然なのかは定かではありません。とりあえず

せっかくのチャンスなんだから頑張れ

と返事しました。建前として「よくぞ私にだけ打ち明けてくれた」ということで秘密を守りましたが、チーム内で知らないのは私とあと1人だけという状況でした。インドネシアでは、秘密保持契約(NDA)を結ぶことにあまり意味がないように感じます。

インドネシアで業界第5位の銀行は、日本で言えばりそな銀行くらいのレベルです。彼の場合、奥さんがその銀行でアナリストとして働いているため、採用される自信があるようです。日本の企業感覚では、同じ会社に奥さんがいるからといって旦那も一緒に働くという発想はありませんが、部門が違えば問題ないようです。

今回の募集人数は3人で応募者が14人、そのうちコネがあるのが5人なので、実質5人で3つの椅子を取り合うことになります。試験問題も奥さんから漏洩してもらっているので、彼の採用は9割5分確定しているとのことです。彼のBBMでの報告に対して、私は

良かったな、これでお前も晴れてエリートの仲間入りだな

と喜んであげました。もちろん棒読みで。

その後、彼から

会社辞めるの止めます

というメッセージが来ました。転職を止めた理由は「仕事はじめが7月だから」とのことです。彼が恩着せがましい態度を取るので、不景気の状況や多くの会社でレイオフがあることを説明し、

耐えて時期を待て

と諭しました。実際のところ、彼が転職を止めたのか不採用だったのかは聞いていません。興味がないので。

インドネシア人社員の転職先と日系企業に再就職する傾向|ジャカルタIT業界の人材事情

ジャカルタでインドネシア人の社員を複数人管理しながら仕事をしていますが、出会いあれば別れがあるように、何かのタイミングで彼ら彼女らは辞めていきます。辞めた後に彼ら彼女らが何をするかといえば、客先のIT担当として働く者、ジャカルタの同じ業界のライバル会社で働く者、独立して商売をはじめる者、でも失敗してまた同じ業界に出戻るもの、などのパターンがあります。

あるとき、同じ業界のライバル会社で働くかつての部下がBBM(Blackberry Messenger)を送ってきまして、かつてこっちで一緒に働いていた同僚とこんどはそっちのライバル会社で一緒に働くようになったとのことです。

※一世を風靡したBlackberryはほとんど見かけることはなくなり、インドネシア人のスマホ上でのコミュニケーションはWhatsAppに移行しています。

こういう話を聞くとジャカルタのIT業界も狭いもんだと感じますが、一度日系企業で働いた人は、よほど日本人に対して嫌な思い出でもない限り、次の転職先も「雰囲気に慣れている」日系企業になる傾向が強いので、新しい職場で再会、というのはよくある話です。

実際、客先の担当インドネシア人が突然辞めたと思いきや、別の客先で同じようにシステム導入の担当として付き合うことになったりするのはよくあることで、この場合前のプロジェクトが上手くいっていればプラスに働きますが、上手くシステムがまわっていなかったりすると、後のプロジェクトにまで尾を引きます。

この「日系企業の雰囲気に慣れている」というのはどういうことかと言うと、

  1. 日本人独特のインドネシア語のクセ nya(ニャー)とかkah(カー)とかを語尾に付けて角が立たないように伝えようとするインドネシア語の意図を噛み砕いて理解できる。
  2. 日本人が作る相手との距離感 オフィスのスタッフにも運転手にもオフィスボーイにも人類平等、敬称「さん」付けして距離感を取ろうとすることを理解できる。
  3. 責任の所在をあえて明確にしない 和を尊び誰か人を責めるより罪を憎むことに共感できる。
  4. 決定に時間と手続きがかかる。 十分過ぎるほど話し合って議論が煮詰まってから決定されることを我慢できる。

インドネシアにはムシャワラ(Musyawarah)という話し合いによる合議制を重視する風土がありますが、これらの日系企業の雰囲気を理解できるインドネシア人は、日本にもムシャワラの文化に近いものがあると理解してくれます。ですから欧米系の企業で働いていたインドネシア人の日系企業への転職組は非常に少ないのは十分理解できます。