インドネシア政治・経済・社会

インドネシアの新型コロナウィルスワクチン接種状況

2021/08/11

インドネシアのワクチン接種で使用されるのは不活化ワクチンである中国製のシノパックですが、デルタ株の感染拡大により医療従事者の感染例が増加したことから、mRNAワクチンであるモデルナ製ワクチンの接種が医療関係者に対して行われています。

新型コロナウィルス用ワクチンの種類

8月3日から9日まで延長されていたインドネシアのレベル4社会活動制限(PPKM Level4)ですが、ジャワ島とバリ島は10日から独立記念日前日の16日まで、それ以外の地域は23日まで再延長され、地域の感染状況の応じて現在のレベル4からレベル3またはレベル2にまで引き下げられます。

ジャカルタは引き続きレベル4を維持しますが、レベル4のまま緩和される(dilonggarkan)という言葉が使用されるように、市内100カ所で行われていた通行制限が10日をもって解除され、代替措置として12日から16日まで、8箇所の道路で6:00-20:00 の間奇数偶数規制が再開されるようです。

インドネシアのワクチン接種数推移(Our World in Data

またジャカルタ、バンドン、スラバヤ、スマラン4都市のショッピングモールは、12歳未満および70歳以上の入館はお断り、さらに入館には専用アプリでのワクチン接種証明の提示が求められるようで、自宅待機でストレスが溜まってモールに買い物に行きたいインドネシア人にワクチン接種を促す方法としては、一定の効果が期待できると思います。

現在政府主導の無料ワクチンプログラムで使用されるワクチンは、不活化ワクチンである中国製のシノパック(Sinovac)の一択であり、時々ウイルスベクターワクチンであるイギリス製のアストラゼネカ(AstraZeneca)の接種プログラムの日程と会場が発表されたりしますが、在庫に限りがあることもあり外国人が気軽に接種できる状況とは言えません。

インドネシアでは新型コロナ感染で亡くなった医療従事者は累計で1,000人近くに上り、そこに含まれる医師が401人のうち14人がワクチン接種を完了していたという事実から、デルタ株の流行に伴いシノパックワクチンの有効性に疑問が持たれており、7月9日に政府は医療従事者147万人を対象に、mRNAワクチンであるモデルナ(Moderna)製ワクチンでの追加接種を実施すると発表しています。

そして7月15日にはモデルナと同じmRNAワクチンである米ファイザー(Pfizer)ワクチンに緊急使用許可が出され、年内に5,000万回分のワクチンの供給を受けることが決定しており、8月以降毎月500万~1,200万回分が段階的に届くようで、日本人としては日本と同じワクチンを打ちたいと思うわけですが、気軽にファイザー製ワクチンを接種できる環境が整うまでには、まだまだ時間がかかりそうです。

mRNAワクチン(ファイザー・モデルナ)、不活化ワクチン(シノパック・シノファーム)、生ワクチン(弱毒化ワクチン)、ウィルスの違いは以下の例えが分かりやすいと思います。

DNAからタンパク質が作られるときに、一度mRNAという設計図を介するため、新型コロナウイルスのタンパク質を作る過程で作られる設計図を投与することで、自分でウイルスタンパク質を作ってもらう仕組みを利用するのですが、mRNAは構造的にすぐに分解されてしまうため、注射された人の遺伝子に組み込まれ害を及ぼす心配はないようです。

日本とインドネシアのコロナ感染による死亡者数に大きな差がある理由

5月中旬のレバラン休み(断食明け大祭)前後の大都市と地方間の大規模な帰省とUターン移動により、新規感染者がインドネシア全土に一気に拡大し、7月下旬から1日当たりの感染者数と死者数が急上昇しましたが、ここ数日は減少傾向が見られ、延長された社会活動制限が段階的に緩和されていくことを願うばかりです。

インドネシアの一日当たり感染者数と死亡者数の推移(ロイター通信

JALやANAの特別便が手配されたことで、日本でのワクチン接種を目的とした一時帰国が一気に進んでおり、現地駐在員の半分くらいは居なくなったのではないかと感じるほどですが、オリンピックが始まる直前には、当地残留組の日本人から「こんな時期に海外から選手や関係者を入国させるなんて日本ではデルタ株の恐ろしさに対する認識が不足している」「インドネシアの今の惨状と同じことがオリンピック後の日本で起こる」という声が上がっていました。

特にインドネシアでは医療従事者が亡くなるケースが多くて、医療従事者10万人が感染したなかで1,000人近くも亡くなっており、もしやデルタ株が日本で蔓延したら同じことが起こるんじゃなかろうかと心配しましたが、幸いにも今のところ感染が広がってはいるものの、インドネシアのように死亡者数は激増するということはないようです。

コロナ感染が広がりだした昨年4月頃から感じていたことですが、インドネシアでも高齢者や基礎疾患を持つ人、肥満気味の人が亡くなるという傾向が強いのは日本と同じとはいえ、20代から50代までの比較的若い人の死亡例が多く見られ、これが食生活の違いなのか、気候の問題なのか、民族の遺伝子的な問題なのか、理由がよく分かりませんでした。

それが最近になって、HLA-A24という細胞性免疫の有無が理由なのではないかという説が出てきています。

医療関係者の死者累計数もインドネシアは1000人近くに達しているのは、医療環境の違いもあるのでしょうが、やはりHLA-A24という細胞性免疫の有無が影響しているのでしょうか。デルタ株には無効という話もありましたが、それなりに有効なのかもと思うようになりました。

体内に侵入した新型コロナウイルスを認識したHLA-A24が、細胞性免疫機構に働きかけてウイルスを攻撃するという話なのですが、日本人が新型コロナに感染しにくい理由として言われてきたファクターX(自然免疫と言われるもの)が、日本人の6割が保有していると言われるHLA-A24そのものなのではないかということです。

ただしデルタ株に対してはHLA-A24は無効であるという研究結果もあるため、ワクチン接種会場が密にならないくらい落ち着いた頃合いを見て(感染のリスクが怖いというよりも並ぶのが嫌いなので)、そのとき打てるワクチンを接種してくるつもりです。

今のところインドネシアで日本人が気軽に受けられるワクチンが、デルタ株に対する有効性が疑われているシノパックしかない現状では、3回目の追加免疫(ブースター)やアストラゼネカとの組み合わせ接種(安全性は未確認)で、体内の免疫システムにウィルスをしっかり記憶させて、ウィルスが侵入してきたときに、その記憶を頼りに攻撃する抗体をより多く作り出すしかないというのが現状です。