継続記録法では商品は仕入れたときに商品勘定というB/S科目となり、出荷のたびに商品勘定をマイナスして在庫と会計上の商品勘定残高をシンクロさせますが、三分法では仕入(費用)としてP/L科目に計上し、月末に仕入と月初在庫と月末棚卸評価額を売上原価に振替えます。
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会計システム
インドネシアでキャッシュレス化が浸透し、銀行口座を通して行われた企業取引がすべてシステムに自動仕訳されることで日常的な記帳業務はなくなれば、人間がマニュアルで会計業務に絡む場面は少なくなることが予想されますが、頭の中に業務の基本を体系的に記憶することは重要だと考えます。
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業務システムが会計仕訳を発生させる流れ
業務システムの中で、購買管理から一般会計に繋がる流れは以下のとおりです。
ERPシステムの場合
- ①発注入力⇒②発注承認⇒③入荷入力⇒④仕入入力⇒⑤仕入承認(未承認買掛振伝)⇒⑥仕訳承認(承認済買掛振伝)⇒⑦債務消込(未承認消込振伝)⇒⑧仕訳承認(承認済消込振伝)
業務システムによっては入荷処理の後に、仕入登録ではなくインボイスに基づく債務登録によって、仕訳生成と元帳へのポスティングを同時に行なうものもあります。
- ①発注入力⇒②発注承認⇒③入荷入力⇒④ポスティング(承認済仮買掛)⇒⑤債務入力⇒⑥ポスティング(承認済買掛)⇒⑦債務承認⇒⑧債務消込⇒⑨ポスティング(承認済消込)
会計システムの場合
- ①債務入力⇒②債務承認(未承認買掛仕訳)⇒③仕訳承認(承認済買掛債務仕訳)⇒④債務消込(未承認買掛消込仕訳)⇒⑤仕訳承認(承認済買掛消込振伝仕訳)
会計システムの元帳(G/L)の場合
- ①振替伝票入力(未承認買掛振伝)⇒②仕訳承認(承認済買掛振伝)⇒③振替伝票入力(未承認消込振伝)⇒④仕訳承認(承認済消込振伝)
継続記録法(分記法):Perpetual method
販購買在庫管理と会計の一体型システムでは、発生主義(出荷基準)で売上計上すると同時に、製品をCOGS(売上原価)に振替えて費用化することで、継続的に会計上の棚卸資産残高を把握し、売上に対するA/R(債権)はInvoice発行まで未実現勘定(A/R Accrued)に仮置きした上で、Invoice発行時にA/R AccruedをA/Rに振替(Re-class)する継続記録法(perpetual inventory method)をとるものが多いです。
継続記録法はすべての出荷時に商品の原価(単価)を把握する必要があるので、在庫評価額とG/Lの棚卸資産勘定残高をリアルタイムにシンクロさせるために、在庫受払の評価金額は移動平均単価を使って評価するか、完全なロット管理による先入先出法(FIFO)によるかのどちらかになります。
この場合、会計システムのG/L上でCOGS勘定とInventories勘定がリアルタイムに更新されます。
入荷時
- Dr. Inventories 500,000 Cr. A/P Accrued 500,000
Invoice到着時
- Dr. A/P Accrued 500,000 Cr. A/P 500,000
発生主義に基づき出荷時に売上を計上する出荷基準の場合は以下のようになります。
出荷時
- Dr. A/R Accrued 600,000 Cr. Sales 600,000
Invoice発行時
- Dr. A/R 600,000 Cr. A/R Accrued 600,000
- Dr. COGS 500,000 Cr. Inventories 500,000
顧客で検収が終わった後にInvoiceを発行しSales計上する検収基準の場合は以下のようになります。
出荷時
- Dr. Shipment clearing 600,000 Cr. Inventories 600,000
Invoice発行時
- Dr. COGS 500,000 Cr. Shipment clearing 500,000
- Dr. A/R 600,000 Cr. Sales 600,000
三分法(棚卸計算法):Periodic method
三分法は、月中の商品入荷は仕入勘定(Purchasing)で費用計上しておき、月末の決算整理仕訳(Closing Journal)でOpeninig stockとPurchasingとClosing stockを売上原価(COGS)勘定に集約し「月初在庫+仕入-月末在庫」の差額をCOGSとする棚卸計算法(periodic inventory system)です。
入荷時
- Dr. Purchase 500,000 Cr. A/P Accrued 500,000
Invoice到着時
- Dr. A/P Accrued 500,000 Cr. A/P 500,000
出荷時
- Dr. A/R Accrued 600,000 Cr. Sales 600,000
Invoice発行時
- Dr. A/R 600,000 Cr. A/R Accrued 600,000
在庫管理システム上で数量は受払の都度増減し、購入品のみ移動平均法で単価をアップデートさせることはできますが、入荷した棚卸資産は仕入勘定に費用として積み上げられた状態になっており、会計システム上のB/Sの棚卸資産価額は月末まで変化しません。
工場経営にとって必要な情報は現在庫数量や債権債務の支払い予定などであり、P/LやB/Sは月末に確定できれば十分なので、月中にG/L上の棚卸資産残高はアップデートせず、月末の実地棚卸で評価額を算出し、月初在庫と月末在庫をOpening stockとClosing stockというP/L科目を介して振替えることにより、棚卸資産が在庫管理と会計との間で同期します。
売上原価に積上げる費用
棚卸資産の受払以外に、決算整理仕訳で振替伝票にてCOGSに振替えるのが以下の3つです。
- Freight in(CIF費用=仕入諸係)→Direct materialに付加
- Direct labor cost(直接労務費)
- FOH(製造間接費)
輸入申告書=PIB (Pemberitahuan Impor Barang)に含まれる関税(Bea Masuk)やPPh22やPPN、通関許可証=SPPB (Surat Persetujuan Pengeluaran Barang)など、の仕入に付随するCIF(Cost, Insurance and Freight)費用をCOGS勘定に振替えることで、最終的にCOGSを確定させ売上総利益(Gross profit)を算出します。
決算整理仕訳(Closing Journal)
固定資産減価償却仕訳
P/L科目のNet incomeへの振替えの前に、Depreciation(減価償却費)は事前に固定資産管理システムからFixed asset勘定科目ごとの償却仕訳をインターフェイスしておく必要があります。
- Dr. Depreciation (SGA) 3 Cr.Accumulated depreciation(マイナス資産) 3
ちなみにSGAはSelling and Generally Administrative Expensesの略称です。
棚卸資産をOpening balanceとEnding balanceに振替
棚卸資産(材料・仕掛品・製品)については、月初繰越高と月末棚卸高の振替仕訳を行なうことで、会計を在庫に同期させます。このOpening stock(期首商品棚卸高)とClosing stock(期末商品棚卸高)勘定はP/L勘定のコントラ勘定(相対勘定)です。
- Dr. Opening stock 20 Cr. Inventories 20
- Dr. Inventories 30 Cr. Closing stock 30
仕入勘定は同じ費用勘定である売上原価に振替
売上原価(COGS)勘定への振替仕訳を行ない、COGS残高が当月売上原価となります。
- Dr. COGS 20 Cr. Opening stock 20
- Dr. COGS 30 Cr. Purchase Goods 30
- Dr. Closing stock 30 Cr. COGS 30
P/L科目を全部Re-class
COGSも含めたすべてのP/L科目を全部Net income(Income summary)勘定に振替えます。
インドネシアではTrial balanceという場合、一般的に残高試算表を指すことが多いですが、日本の会計担当者からは合計残高試算表を求められるケースがあります。
- 合計試算表:貸借にそれぞれの科目ごとの合計金額を表示
- 残高試算表:インドネシアで通常のT/B(バランスのみで片方の残高が0)
- 合計残高試算表:1と2の両方を別列で表示させたもの。
精算表は「T/B貸借列+B/S貸借列+P/L貸借列」から構成され、T/BからB/S項目とP/L項目を分離するClosing(決算)処理で作成するものですが、一般的にインドネシアでは作成しません。
当期純利益を利益剰余金(Retained earning)に振替
実際にRetained earning勘定が毎月末登場するとは限らず、利益処分を行なう期末のみに登場する場合のほうが多いと思いますが、その場合毎月のP/L上でNet profitはExpenseとIncomeの差額で表示され、B/S上でもNet profitという記載で資産の部に表示されます。
三分法と継続記録法の最大の違い
すなわち月末在庫の差引(棚卸結果の控除)により売上原価を確定しようと、出荷時に継続的に売上原価を更新しようと、P/L上の売上原価の表記の仕方は以下のように表現されます。
- 月初在庫+当月入庫-月末在庫=当月費用
システム会計では、材料費、製造原価、売上原価の順番で計算するにあたって、売上原価勘定や仕入勘定に月初と当月入庫と月末残を集約せずに、G/Lのデータを直接収集・足し算引き算した結果を、この書式に合わせてP/Lに貼り付けているだけです。
また当月末に残った在庫は、Closing Journal(決算整理仕訳)で行なった以下の在庫振替仕訳のClosing stockを取ってきているのであって、この分は在庫に残って費用化していない部分を控除している、という意味です。
- Dr. Opening stock Cr. 商品
- Dr. 商品 Cr. Closing stock
三分法では商品の入荷は仕入勘定で処理されるので、商品勘定は在庫振替時のみしか登場しませんが、継続記録法では商品勘定の動きで継続的に在庫額を把握するので、仕入勘定やOpening stock、Closing stockという勘定は使いません。
その代わりに、商品の払出が記録されるのが三分法との最大の違いです。
つまり継続的に商品の動きを記録しているシステムでは、三分法で売上原価を計算しないにもかかわらず、P/L上の売上原価算出部分では三分法的な書き方をする、ここが混乱の元だろうと思います
三分法での特別損失処理
月末締め処理
- Dr. Opening stock 100 Cr. 商品 100
- Dr. 商品 120 Cr. Closing stock 120
P/L上の売上原価算出部分には現在以下のように記載されています。
- 月初100+当月150-月末120=売上原価230
商品不良を特別損失計上し仕入から差し引く
三分法では売上原価は仕入勘定の動きで計算されるので、引き落とすのは仕入勘定であり、商品勘定は決算整理仕訳の在庫振替時以外では使用されません。
- Dr. 特別損失 5 Cr. 仕入 5
ありがちな勘違いは「実務としては特別損失分の商品を月末在庫から取り出して廃棄するのだから、上記式の月末120から商品5を引き落とす。あれっ、売上原価に計上されてしまったけど、後で特別損失で二重計上されちゃうんじゃないの?」というもの。
物理的には「不良品倉庫に残っている月末在庫からモノを取り出して廃棄する」のですが、商品不良分も仕入計上した時点で当月仕入費用に計上されてしまっているので「費用計上しない分は仕入から控除(仕入なかったことにする)」するか、または「売上原価から控除する」必要があります。
- 月初100+当月(150-5)-月末120=売上原価225
で、仕入勘定から差し引いても悪くはないのですが、この場合には仕入れなかったことにするわけですから、本当は当月いくら仕入れていたのかわからなくなります。
ちなみに特別損失処理計上を、締め処理前にやっても締め処理後にやっても、P/L上の売上原価への影響は同じです。
商品不良を特別損失計上し売上原価から控除する
P/L上の売上原価算出部分に、他勘定振替勘定で売上原価から控除していることを明確にします。
- Dr. 特別損失 5 Cr. 製品他勘定振替 5
- 月初100+当月150-(製品他勘定5+月末120)=売上原価225
結果は同じですが、間接的に売上原価を控除することにより、PL上で本来当月仕入れた分が把握できます。
継続記録法での特別損失処理
月末締め処理
継続記録法の場合、商品の動きが継続して記録される中、たまたま月初での在庫が100であったのであり、当月中は仕入と払出が繰り返し行なわれ、結果として月末在庫が120になります。
商品不良を特別損失計上し商品から差し引く
- Dr. 特別損失 5 Cr. 商品 5
P/L上では特別損失によって商品払出が一つ追加された結果として月末在庫が120になった、ということを表現しています。
繰り返しますが月末在庫は売上原価から費用計上しない部分を控除しているのであって、実務を意識して月末在庫から商品を引こうと勘違いしてしまうと、費用が二重計上されます。
- 月初100+(当月150-払出5)-月末在庫120=売上原価225
この場合も本来は当月いくら仕入れていたのかが判らなくなります。
商品不良を特別損失計上し売上原価から控除する
P/L上の売上原価算出部分に、他勘定振替勘定で売上原価から控除していることを明確にします。
- Dr. 特別損失 5 Cr. 製品他勘定振替 5
- 月初100+当月150-(製品他勘定5+月末120)=売上原価225