ジョコウィ現大統領がジャカルタ州知事時代に、副知事のアホック氏と一緒に政治的に建設開始を決断した大量高速交通MRTが正式開通しました。地下駅舎を先に作って、シールド採掘で駅の間を地下トンネルで繋げていく工事は日イ共同事業体で行われました。 日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。 続きを見る
インドネシアの政治・経済・社会
MRT工事着工から正式開通までの道のり
着工から5年半、今月2019年4月1日にジャカルタに大量高速交通MRT(英語のMass Rapid Transitまたはインドネシア語のModa Raya Terpadu)南北線がついに正式開通しました。
2019年5月8日に東京FMのON THE PLANETという深夜番組に電話で出演させていただき、首都移転とMRT開通についての現地の様子について説明させていただきました。
大統領選挙の直前に滑り込みセーフできっちり間に合わせるという絶妙のタイミング、ちょうど今頃インドネシア人は投票所に行っている最中だと思いますが、少なくともジャカルタの有権者にとってジョコウィ氏の評価が上がったことは間違いないと思います。
しかし工事着工当初は、多くの人がMRTプロジェクトって本当に最後まで終わるの?また途中で頓挫するんじゃないの?と疑心暗鬼だったのは、現在でもKuninganのRasuna Said通りやSenayanのAsia Afrika通りに残る、2004年に着工し2014年中止が決定されたモノレールプロジェクトの朽ち果てた支柱を日常的に目にしていたからです。
スティヨソジャカルタ特別州知事時代に決定されたモノレールプロジェクトは、2004年にAsia Afrika通り、2005年にRasuna Said通りで着工されたものの、2006年に出資者が決まらず中断され、2007年のファウジ知事、2013年のジョコウィ知事ともにプロジェクト再開を模索したものの、結局2014年のアホック知事になって完全中止、残された支柱の残骸はモノレール建設を請け負っていた国営建設会社Adhi Karyaが撤去することになっています。
朽ち果てた支柱の残骸の所有権を有しているAdhi Karya社は、現在進行中のLRT(英語のLight Rail Transitまたはインドネシア語のLintas Rel Terpadu)プロジェクトを請け負っています。

モノレールの支柱の残骸を尻目に進むLRT工事
今回のMRTプロジェクトの最大の見所はなんと言っても、Bundaran HI駅からSenayan駅までを結ぶ6区間の地下鉄部分のシールド工法による掘削工事であり、2017年2月にSetiabudi駅でジョコウィ大統領とアホック知事(Basuki Tjahaja Purnama 通称Ahok)が貫通の瞬間に立ち会いました。
このときまさかその3ヶ月後の5月にアホック知事が宗教冒涜罪と公共の場での憎悪表現(選挙運動の集会で『イスラム教徒はコーランを使って惑わされているから、私に投票できない』と発言)の罪で「禁固2年、即時収監」の判決を受けるとは想像できませんでした。
今回のMRTプロジェクトは2013年8月着工ということですが、当時僕はBundaran HI駅前のオフィスビルで仕事をしており、日々変化していく工事の様子を間近に眺めていました。
しかし柵が作られ、側溝が掘られ、陸橋が外され、重機が穴を掘るという工程が具体的に何を意味しているのかさっぱりわかないまま、いつの間にか2014年には地下駅舎の掘削工事に突入していました。
- 着工: 2013年8月に着工。
- 掘削開始: 2015年10月にBundaran HI駅からシールド掘削機2機が南下、南坑から2機がSenayan駅方面に北上開始。
- トンネル貫通: 2017年2月に南下するシールド掘削機2機と北上する2機がSetia Budi駅まで貫通。
- 試乗開始: 2019年3月に試乗開始。
- 開通: 2019年4月に正式開通。
Bundaran HI、Dukuh Atas、Setiabudi、Benhil、Istora、Senayanの6地点でコンコース階とプラットフォーム階から構成される地下駅舎を先に作って、シールド採掘で駅の間を地下トンネルで繋げていくという作戦で、Bundaran HIから南下する2機の掘削機とSenayan南の南坑から北上する2機の掘削機は、それぞれ別の日イ共同事業体で行われました。
- 南下チーム:三井住友建設・Hutama Karya
Bundaran HI⇒Dukuh Atas⇒Setiabudi - 北上チーム:清水建設・大林組・Wika Jaya
南坑⇒Senayan⇒Istora⇒Setiabudi
ジョコウィ現大統領がジャカルタ州知事時代に、副知事のAhok氏と一緒に政治的判断として、30年前から計画されていたにもかかわらず延期され続けてきたMRT建設を決定したのが2012年とのこと、2014年10月には大統領選挙に勝利、そして今日4月17日(水)が2期目の大統領選挙、ジョコウィ大統領は時流に乗るのがうまい「持っている人」だと思います。
着工当時は対面のPlaza Indonesiaに昼飯食べに行く際に渡る陸橋の上から、眼下で日々着々と進み行くMRT建設の様子を写真に撮っていました。
2013年10月
日本大使館前の歩道橋からHI広場方面から北上する労働者デモを写したものです。まだ工事の様子はうかがえません。

2014年3月
日本大使館前のフェーズ1の始発駅となるBUNDARAN HIの地上部分で何か工事が始まりました。あれからもう5年とは感慨深い。

2014年5月
同じ場所から撮影しているので手前の植木の葉が随分増えています。この頃は本当にMRTが最後まで完成するのか疑心暗鬼でした。

2014年6月
2週間後に植木が開花、白のブーゲンビリアでした。まだ地下駅舎の空間は空いていないはずだが、溝のようなものは排水設備か?

2014年7月
かつてのモノレール建設計画頓挫という前科のトラウマからMRTも二の舞になるのではという不安を誰もが持っていたと思います。

2014年7月
SBY大統領2期目の後のジョコウィ氏とプラボウォ氏の大統領選挙を10月に控え、結果次第で工事中止になるという噂がありました。

2014年7月
日イ両国の国旗とともに、三井住友建設とHutama Karyaの地下駅舎建設とシールド掘削南下チームの旗がなびいております。

2014年8月
シールド工法(掘削機を地中に掘進させ土砂の崩壊を防ぎながらトンネルを築造していく工法)が始まる2014年10月の2ヶ月前。

2015年6月
掘削機は毎月約300mずつ進み1年4ヶ月で貫通しているので、中盤過ぎたこの頃にはDukuh Atasくらいまで到達しているはず。

なんとか4月中にMRTに乗れた!

Bundaran HI駅入り口、左は日本大使館
午前中カラワンでの客先アポがドタキャンされた帰路、そのままオフィスのある西ブカシ出口で降りようと思ったそのとき、どうしても4月中に乗りたかったMRTのことをふと思い出し、Cikunir方面の渋滞もなんのその、MRTに乗るためだけにジャカルタまで車を走らせました。

Plaza Indonesiaの駐車場に車を停めて、Bundaran HI駅地上入り口から、雨に濡れて滑りやすくなった急勾配の階段に沿ってコンコースまで降りると、改札口方面にBCA銀行発行のFlazzやMandiri銀行発行のe-moneyなどのカードを販売するお姉さんに捕まりましたが、昨年のAsian Game時にサイの絵柄がかわいいという理由だけで、買ったきり一度も使ったことがなかったBRI銀行発行のBRIZZIで乗れることをお姉さんに確認してから改札を通りました。
自動改札機でBRIZZIカードをしっかりと1~2秒タッチする瞬間がテンションMAXで緊張しましたが、実際やっていることは日本の地下鉄でSuicaで乗るのと大して変わりなく、さらにプラットフォームにエスカレーターで降りるまでの景色が、日本の地下鉄そのままだったのにはさすが日本の三井住友建設だと感心しました。
MRT車内はGOJEKの広告だらけの緑色と、プラスティックシートの水色がうまくマッチした、南国の地下鉄らしい明るい雰囲気の中で、静かにさほど揺れることもなく進行するため、つり革や手すりを掴まなくても立っていられるレベルです。
Bundaran HI駅を出発してSenayan駅を過ぎてしばらくすると、トンネルの南坑出口から地上の明るい光がに徐々に強くなり、地上に出てからSisingamangaraja駅の1個先、昼飯食べるためにBlok M駅で下車しました。
所要時間はわずか15分ほど、夕方の渋滞時には車で2時間かかってもおかしくないBundaran HI~Blok M間の距離をわずか15分で行けることになり、南ジャカルタ在住の人なら車で通勤するのば馬鹿馬鹿しくなるレベルです。
Blok Mスクウェアのフードコートの豚肉料理で昼飯食べた後、終点のLebak burus駅まで地上を走りましたが、Cipte Raya駅からFatmawati駅までの直角急カーブを走る際の、緑で一杯の南ジャカルタの街の景色が、MRT地上部分の一番の見所ではないかと感じました。

駅のフォームでも車内でも、老若男女とにかく記念撮影をするインドネシア人が多く、どれだけみんなが待ち望んでいたか、MRTが期待を上回る完成度でどれだけみんなのテンションが上がりまくりなのかが体感できました。

今回使ったBRIZZIの電子カード

Blok M駅のチケット自動券売機

Blok M駅自動改札入り口

Bundaran HI駅地下プラットフォーム

GOJEKの広告だらけの車内の様子

記念撮影する人が多くテンションの高さを感じました。

工事着工時から観察してきたBundaran HI駅前はこんなに綺麗になっています。
その他の情報
- 5月12日まで50%オフで13日から通常料金。
- 最北端のホテルインドネシア前広場駅(Bundaran HI)から
- ⇒最短区間でRp.3000(20円弱)
- ⇒BlokMまでRp.8000(60円弱)
- ⇒最南端レバックブルス(Lebak Bulus)までRp.14,000(100円弱)
- インフレで物価が高いインドネシアですが、市民の足として根付かせるために価格を抑えたということろだと思います。
- 銀行が発行しているトップアップ式のカードが必要。
- 駅でもトップアップ式のカードが買える。日本の紙の切符はない。
- MRTはジャカルタ市内を結びますが、市内から郊外を結ぶLRT(Light Rail Transit)工事が現在進行している。これは韓国企業の車両が使われる。
- 今後第二フェーズとして中央ジャカルタから北ジャカルタまで延長。それとまだ計画段階ですが東西線の計画もあるようです。
-
-
インフラ整備と都市開発が進むジャカルタ【MRT第2期区間工事が着工】
ジャカルタではMRT地下鉄第2期工事が開始され、2024年の首都移転に伴い沿線の大統領宮殿を含む政府関連施設が保護区や博物館になり、ジャカルタの歴史的魅力を押した世界的観光地になる可能性があり、都市開発による経済発展を現在進行形で体感できます。
続きを見る