インドネシアのビジネス

メーキング・インドネシア4.0時代の業務システム【サプライチェーンの性能を向上させるデータ連携】

2019/03/17

サプライチェーン上でモノやサービスが流れ付加価値が生み出される行為の集積が経済活動で、社内業務のやり方はサプライチェーン上の仕入先や取引先との関係の中で決まり、業務改善のために最初に取り組むべき課題はペーパレス化とIoT化です。

インドネシアのビジネスまとめ
インドネシアのビジネス

インドネシア市場でのビジネスで重要な要素は価格とブランド、コネの3つと言われますが、必ずしもこれらを持ち合わせない日本人はどのように戦えばよいのか。これはインドネシアに関わり合いを持って仕事をする人にとっての共通の問題意識かと思います。

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経済活動はサプライチェーン上で行われる

製造業であれば原材料を仕入れて、加工することによって付加価値を加え、お客さんに販売し、サービス業であればお客さんの依頼に対してサービスを付加価値として提供します。

モノを仕入れる場合は自社の川上に仕入先があり、モノやサービスを販売する場合は川下に顧客または消費者があり、この仕入先から自社を通って顧客または消費者までモノや情報が流れるルートをサプライチェーンといいます。

このサプライチェーン上でモノやサービスを流す行為の集積が経済活動なのであって、付加価値を生み出さずして単にサプライチェーン上のお金を吸い上げるだけの行為は経済活動とは呼べません。

経済活動は自社単独で完結するものではなく、仕入先や顧客、消費者などとの約束と実績でもって成り立ち、その活動は約束した納期に約束した品質で約束した数量を出荷する「信頼性」、顧客や市場の需要変更に素早く対応して販売機会を逃がさない「柔軟性」、受注から出荷までの納期を短縮する「応答性」という指標で評価されます。

取引先や顧客との関係の中で、これらの信頼性、柔軟性、応答性を高めるために、最適化された業務フローを標準業務フロー(Standard Operation Procedure=SOP)といい、一定の基準を満たしていますよというお墨付きをISOからもらうことで、サプライチェーン上での信頼を得るわけです。

サプライチェーン上の仕入先や取引先との関係の中で業務のやり方は決まる

一般的にサプライチェーン上で経済活動を行う主体である企業に対して業務システムを導入する方法は大きく2通りあって、これは日本でもインドネシアでも同じことです。

  1. パッケージシステムの業務フローに自社業務を合わせる前提でシステム化
  2. 自社業務独自のフローに合わせてシステム化

2019年現在、開発メーカーのノウハウの集大成であるパッケージシステムの業務フローに自社の業務を合わせることで、会社の業務を標準化するのが主流ですが、その結果としてよく見られるのは「とりあえずシステム自体は動いているが費用対効果が出せていない」という消化不良の状況です。

  • パッケージシステムの機能のうちもっともコアとなるマスタ管理と在庫管理を行うためだけにシステムが運用されている。
  • パッケージシステムの標準フローに業務を合わせる前提で導入したのに、いつの間にか現場の声に押されて中途半端なカスタマイズが入ってしまう。

パッケージシステム導入には、大きく分けて要件定義、実装(開発)、現場への展開(トレーニング)という3つのフェーズがありますが、業務をパッケージシステムに合わせるということは、実装(開発)を最小限にして要件定義のフェーズで「いかにパッケージの仕様に業務を合わせるか」という話し合いが中心になるのですが、実際に合わせられるのは例えば以下のような条件の場合です。

  • 1日あたりの生産バッチ数が少ない、P/O発行数が少ないなど取引数自体が少ない。
    • ⇒システム入力負荷が小さい。
    • ⇒トレーニングのための時間が十分とれる。
    • ⇒システム在庫の精度が高く、在庫調整の手間が少ない。
  • 仕入先へは発注してから発注に基づき入荷する運用が明確。または顧客からは受注してから受注に基づき出荷する運用が明確。
    • ⇒注残管理の重要性が認識されているので、在庫のためだけの運用にならない。
  • 仕入先、顧客数が少ない
    • ⇒データフォーマットの種類が少なく取り込みの負荷が小さい。

これは社内業務のやり方はサプライチェーン上の仕入先や取引先との関係の中で決まるので、上記のような恵まれた?条件に合致しない大半の企業では、社内業務をシステムに合わせる難易度が高いということです。

社内業務をパッケージに合わせるのが難しい以上、要件定義に基づいてシステムの開発実装を行い、現場への展開時に要件定義で拾いきれなかった要件を取り入れながら仕様を微調整していくという地道な作業が必要になります。

インダストリー4.0に対する具体的取り組みであるメーキング・インドネシア4.0

インダストリー4.0(Industry 4.0)はIT技術を使い第四次産業革命を起こそうとする世界的な動きですが、ソフトウェア側中心に実装されたIT技術をハード側に移管し、ハードとネットワークが繋がることで、よりすばやく正確なデータ収集と分析を行い、生産性向上や品質向上に繋げようということです。

インドネシアの場合、2030年までに世界の10大経済国に入ることを目標として、インダストリー4.0に対する取り組みとしてメーキング・インドネシア4.0(Making Indonesia 4.0)という10個の国家優先取り組み事項を2018年4月に工業省から発表しています。

  1. 原材料フローの改善:
    • 国内加工による付加価値創出
    • 国内企業の原材料の現地調達率向上。
  2. 工業団地の再設計:
    • 東ジャワまで延長された高速道路沿いに北部ジャワ自動車産業ベルト構想。
    • 西ジャワのスバン(Subang)にパティンバン(Patimban)新港の開発(2023年予定)によるタンジュンプリオク港への一極集中の解消
  3. 持続可能性のための基準の策定:
  4. 中小零細企業の活性化:
  5. 国家デジタルインフラの開発・強化:
  6. 海外からの投資誘致:
  7. 工業人材の能力強化:
  8. エコシステム助成:
    • 政府・民間・大学によるR&A(研究開発)
  9. 技術開発投資に対するインセンティブの適用:
  10. 政策と規制・制度の緩和:

2000年代にインドネシアの製造業は技術集約型へのシフトがうまくいかず、製造業のGDP寄与率もスハルト政権下での20%から16%まで下がり、メーキングインドネシア4.0によって製造業の再活性化のために2030年までに25%まで引き上げることで、経済成長率を現在の5%から6~7%に引き上げる目標を立てています。

ペーパレス化とIoT化によって業務システム導入の仕事がどのように変化するか

最初にやるべきことはペーパレス化による3次元を介さない情報の2次元化、具体的にはP/OやインボイスなどのEDI(Electronic Data Interchange)化、タブレット入力やシーケンサからの自動計上による生産実績収集などです。

情報をデジタルネットワークに乗せるまでに発生しうる間違いは2種類あります。

  1. 紙に書いた情報をシステムに入力する際の転記間違い。⇒ペーパレス化
  2. システムへの入力間違い。⇒IoT化

1番目のペーパレス化は業務改善の一環として費用をかければ十分実現可能な課題であり、これによって転記間違いの可能性は完全に排除されることになりますが、2番目のシステムへの入力間違いの排除のためには、製造ラインのIoT化推進により人間による情報入力作業自体を完全になくす必要があります。

つまり業務システムのありかたという観点から見た場合に、インダストリー4.0によって製造業が実施する具体的改善策でインパクトが大きいのはペーパレス化とIoT化であり、このときに業務システム導入という仕事の内容も変わってくると考えられます。

  • いかに情報にアクセスし統合するか
    IoTにより業務改善に必要な情報はすばやく正確に収集されますので、これらの情報をいかに収集して一元化するか。システム間インターフェイスの開発が必要になります。
  • いかにすばやく正確に情報を収集するかより、どのように分析し見せるか
    生産実績もリアルタイムで自動収集され、棚卸しもRFIDタグ(Radio Frequency IDentifier)により一瞬のうちに正確に実施されるようになると、タイムリーで正確な情報はシステム上に存在する前提となり、データの見える化・共有化・体系化により、業務改善に有効活用されるためのシステムが必要となります。

そしてメーキング・インドネシア4.0によってインドネシアの製造業の高付加価値化と国際競争力強化を実現するには、自社工場内だけではなくサプライチェーン全体での信頼性、柔軟性、応答性という性能向上が必要になります。

この場合サプライチェーン上で経済活動を行う企業間でのシステム連携が求められるため、企業内の業務システムは一層サプライチェーン上流の仕入先、下流の顧客との関係を前提に設計・実装されることになると考えます。