消費者の新しい生活様式への移行に伴い、飲食店のビジネスモデルは立地や内装にこだわるよりも、郊外の土地にオープンエアのホールを設営したり、都心にデリバリーとドライブスルーの専門店を設置するなど、お客に衛生に対する不安を与えない健康プロトコル重視に転換します。 日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。 続きを見る
インドネシアの政治・経済・社会
消費者の新しい生活様式への移行に伴う飲食店ビジネスモデルの変化
6月に入りPSBB(大規模社会的制限)が段階的に解除され、独立店舗のワルンやレストランは6月8日から、モール内のレストランは6月15日から収容人数の50%までの入店を条件に、店内でのイートイン営業が再開されていますが、基本的にジャカルタのモールやBlok Mなどの歓楽街の飲食店は平日の少ない売上を土日祝日の売上でカバーするビジネスモデルを採用しているため、この制約条件下では経営が成り立たず、悲しいことにジャカルタの複数の日本食レストランが閉店を決断されています。
明日6月30日までは新しい生活様式(ニューノーマル)への適応期間(kondisi adaptasi kebiasaan baru)と位置付けられ、公共交通機関の収容人数制限が50%から70%と段階的に緩和されたように、7月以降には飲食店についても今月の適応期間の評価結果に基づき、収容人数制限が段階的緩和される可能性もありますが、ジャカルタの飲食店経営者の中には傷の浅いうちでの撤退を検討されているところもあるようです。
今後新規出店する飲食店としては、立地や内装にこだわるよりも、郊外の広い土地にオープンエアのホールを用意するとか、都心にデリバリーとドライブスルーの専門店を設置するとかいうように、お客に衛生に対する不安を与えないことを第一に考えたビジネスモデルが採用されるのではないでしょうか。
消費者が新しい生活様式へシフトすることにより、飲食店側のビジネスモデルにも予想される変化がいくつか考えられます。
- 6月19日に発令された保険大臣令(Keputusan Menteri Kesehatan Nomor HK.01.07/MENKES/382/2020)で提示された飲食店に対する健康プロトコル(protokol kesehatan Covid-19)に従い、飲食店の衛生状態を改善しお客の健康に配慮することを第一に考える。
- 贅沢で高価なものよりも、家計の収入と支出を考えた上での妥当な価格でより栄養価の高い食べ物を買うという消費者行動に配慮する。
- 素材の清潔さや安全性に考慮する。将来的にはインドネシアでも日本のように産地名や生産者名の表示が一般化していくことが考えられる。
- 消費者はブランドよりも安全性重視になるため、ブランド力に劣る新規参入業者にとっては、安全性のアピールによって商機が生まれる。
保険大臣令に基づく飲食店主・従業員・お客が遵守すべき健康プロトコル
6月19日に出された保険大臣令(Keputusan Menteri Kesehatan Nomor HK.01.07/MENKES/382/2020)の中で、新しい生活様式下の飲食店営業に対して以下の健康プロトコル(protokol kesehatan Covid-19)を提示していますが、新しい生活様式への適応期間である6月にMacDonaldやImperial Kitchenその他いくつかの店で食事をした限りでは、かなり厳格に順守されている印象を持ったのは、所轄の労働省(DISNAKER=Dinas Tenaga Kerja dan Transmigrasi)による抜き打ちチェックで違反が発覚した場合、営業停止が言い渡されるからだと思います。
プロトコルという言葉は日本ではIT業界の人間くらいしか使わないかもしれませんが、インドネシアでは「手順」という意味で頻繁に使用されます。
飲食店経営者に対するプロトコル
- Covid-19に関連する中央政府と地方政府の最新情報に注意する。【https://infection.infemerging.kemkes.go.id】【www.covid19.go.id】
- お客が簡単にアクセスできる入口またはその他の場所に、石鹸または消毒液を備えた手洗い設備を設置する。
- 入店者全員に石鹸または消毒液での手洗いを要求する。
- 従業員へのマスク着用の徹底。
- 従業員がCovid-19と感染防止方法を理解していることを確認する。
- 発熱、咳、鼻水、喉の痛み、息切れ、下痢の症状があるか、またはCovid-19の感染者との接触歴のある従業員および訪問者の立ち入りの禁止。
- 入口で体温チェックを行う。従業員または訪問者が37.3度(5分間隔で2回チェック)を超える場合、立ち入りを許可しない。
- 食品に直接触れるすべての従業員は、マスク、手袋またはトングを使用し、食品の準備、加工、提供時には衛生帽とエプロンを着用させる。
- 準備、加工、提供のプロセスで食品に直接触ることを最小限に抑える。
- 基本ビュッフェスタイルでの飲食提供は行わない。行う場合にはマスクと手袋を使用したサービス担当者がお客と1mの距離を置いた状態で取り分ける。すべての食器は、再度使用する前に洗浄および消毒する。
- 室内の換気を良くし日光が入るようにし、クーラーのフィルターを掃除する。
- キャッシュレス化を推進し、現金払いの場合は後で手を洗う。
- 洗浄剤および消毒剤を使用して、少なくとも1日2回(開店と閉店の直前に店内を洗浄および消毒することにより、レストラン全体が清潔で衛生的であることを確認する。
- レジ、食堂フロアなどのテーブルや椅子、ドアノブ、スイッチ、蛇口、水洗トイレのレバー、便座などの人々が頻繁に触れるものの表面を頻繁に消毒する(少なくとも1日に3回)。
- テーブルに置かれたカトラリー(スプーン、フォーク、ナイフ)は布かティッシュで覆う。
- カトラリーは袋に入れ替えたり、お客が着席するタイミングでテーブルに出す。
- 物理的距離(フィジカルディスタンシング)
- レジ前の床に1メートル以上の距離でサインを付けて行列待ちしてもらう。レジとお客との間はプラスチックまたはガラスで障壁を設ける。
- 椅子間の距離を少なくとも1メートルに設定し、互いに向かい合わないようにする。またはテーブルのゲスト間にパーティションを設置。
- スマホアプリを通したオンラインでのデリバリーサービス、お持ち帰りサービスの改善を行う。
従業員に対するプロトコル
- 発熱、咳、鼻水、喉の痛み、息切れなどの症状が発生した場合は自宅待機し、症状が続く場合は医療機関に相談し、職場のリーダーに報告する。
- 移動中や仕事中はマスクを着用する。
- 顔、目、鼻、口には触れない。
- 周囲の人から1m以上の距離を保つ。
- 作業するときは作業服を着用する。
- お祈りのためのカーペットやカトラリーなどの個人の所有物を他人と共用しない。
- 帰宅前、家族と接触する前にシャワーを浴びて着替える。
- 帰宅前、必要に応じてスマホ、眼鏡、バッグ、その他の所有物を消毒液で洗浄する。
- 帰宅後、家族と接触する前ににシャワーを浴びて着替え、スマホ、眼鏡、バッグ、その他の所有物を消毒液で洗浄する。
- バランスの取れた栄養の摂取、1日30分以上の運動、最低7時間の睡眠による十分な休息など、PHBS(Problem Solving for Better Hospital)を適用し疾患の危険因子を回避することにより持久力を高める。
お客に対するプロトコル
- 飲食店に行く前に健康状態を確認し、発熱、咳、鼻水、喉の痛み、息切れなどの症状がある場合は自宅待機し、症状が続く場合は医療機関に相談する。
- 移動中は常にマスクを着用し、他の人から距離を置き、顔に触れないようにしてください。顔に触れざるを得ない場合は、石鹸や消毒液で手を洗浄する。
- 帰宅後には家族と接触する前にシャワーを浴びて着替える。
- スマホ、メガネ、バッグなどを消毒液で洗浄する。
- バランスの取れた栄養の摂取、1日30分以上の運動、最低7時間の睡眠による十分な休息など、病気の危険因子の回避などのPHBS(Problem Solving for Better Hospital)を適用して持久力を高める。
全体的に見てPSBB期間中にも営業が許可されていたスーパーマーケットや薬局で行われていた手順を踏襲しているため、市民にとっては十分なリハーサル済みの内容と言えるわけで、少なくとも上記手順を遵守している限りにおいては感染の可能性は限りなく小さく、インドネシアの今後の感染者数の増加は市場やモスクなど3密を避けるにも限界がある場所で発生していくものと思われます。