インドネシアで小さく起業する【自己資金でインドネシア人配偶者を株主としてローカルPT(PMDN)を設立】

インドネシアで小さく起業する動きが益々加速していく

インドネシアで起業したいという方と、メールでやり取りしたり、実際にお会いしたりするのですが、同じ東南アジアでも日本から近いセブ島のあるフィリピンでもなく、微笑みの国タイランドでもなく、わざわざ遠いインドネシアを選ばれるだけあって、インドネシア語学科を卒業されているとか、インドネシアに短期留学されていたとか、過去にインドネシアとなんらかの関わり合いのある方ばかりです。

業種はWEBシステム開発、WEBメディア運営、WEBマーケティングというWEBを主戦場としたICT(Information and Communication Technology)ビジネスが多く、というよりこれまで全部そうだったので、必然的に最近のインドネシアでのWEBビジネスのトレンドとか、インドネシア人のスマホユーザーの嗜好の変化とか、その人のビジネスモデルにかかわるような質問をされるのですが、残念ながら自分の専門外なので有益なアドバイスはできません。

ただインドネシアで仕事をするために必要な条件とか手続きなどの事務的な話であれば、バリ島で1社(Comanditaire Vennootschaap=CV)、ジャカルタで2社(Perseroan Terbatas=PT)法人設立した経験に基づいて参考情報程度のアドバイスができます。

ここでいう「小さく起業する」というのは、個人が脱サラして自己資金を元手に国内資本投資会社(Penanaman Modal Dalam Negeri=PMDN)を設立し、労務費やオフィス賃料などの固定費をなるべく抑えながら、仕入から売上までの一連の流れを回し、適切に毎月法人所得税や付加価値税などを納税するという意味です。

タイやベトナムの動きを見ても明らかですが、インドネシアの経済成長に伴い、内需としてのインドネシア人もしくはインドネシア在住者を対象としたビジネスを展開する主体として、日本の会社のインドネシア現法ではない、全くの個人が小さく起業していく動きが益々加速していくものと予測されます。

法人でなく個人事業主(フリーランス)として仕事ができるか?

インドネシア人配偶者個人をスポンサーとした家族帯同ビザ(Index C317)で外国人労働許可書(Ijin Mempekerjakan Tenaga Asing=IMTA)が取得できれば、インドネシアで外国人がフリーランスで仕事をする道が開けますが、残念ながら2019年2月現在、IMTAを申請できるのは資本金Rp.1Milyar以上の法人(Badan Hukum)のみです。

法人が外国人雇用計画書(Rencana Penggunaan Tenaga Kerja Asing=RPTKA)を労働移住省(Kementerian Tenaga Kerja dan Transmigrasi)に提出し承認をもらい、労働移住省からの推薦状(Rekomendasi TA.01)を申請し、承認されれば技能開発基金(Dana Pengembangan Keahilan Keterampilan=DPKK)の指定の口座へ1,200ドルを振り込むと、IMTAが取得できるという流れです。

余談ですがこの1,200ドルはインドネシアの税外収入(Penerimaan Negara Bukan Pajak =PNPB)となります。

よってインドネシア居住者となって小売店やカフェを開く場合でも、日本のような個人事業主という形認められず、設立した法人をスポンサーとして就労ビザ(Index C312)を取得する必要があります。

外国資本投資会社(PMA)にするかインドネシア国内資本投資会社(PMDN)にするか?


まずインドネシアで外国資本投資会社(Penanaman Modal Asing=PMA)を設立する場合の最低資本金はRp.10 Milyar(1円=Rp.130で計算して7,700万円)であり、当座預金に払い込む最低金額(最低払込資本金)が4分の1であったとしても2,000万円近くのキャッシュが必要になり、新卒入社の会社で経験を積んで独立起業しようとする20代後半のスタートアップが自己資金で用意できる金額ではありません。

インドネシアの銀行が外国人、しかも個人に開業資金として2,000万円融資してくれる可能性はゼロ、そもそも外国人には不動産所有権がないので融資を受けるための担保すらない状態なので、いっそのこと金利の低い日本で借りて金利の高いインドネシアの開業資金にすれば、安い金利で資金調達できて一石二鳥じゃないかと誰もが考えます。

ところがインドネシア中央銀行(Bank Indonesia)からすると、外国人に勝手に外貨を持ち込まれることで金利のコントロールが乱されてはたまらないので、国内の一般事業法人に対する外貨規制として、外貨建てオフショア債務(海外からの外貨借入)へのヘッジ義務という外貨規制がかけてあります。

具体的には「外貨建て流動資産-外貨建て流動負債」の20%を、コストのかかるデリバティブ(為替先物・通貨スワップ・オプション取引)でリスクヘッジしろ、ということなのですが、これは「金利政策に支障が出るから民間が勝手に海外から金を借りてくれるな」と言われているのと同意です。

銀行から融資が受けられないとなるとベンチャーキャピタル(VC)はどうか。

確かにインドネシアはe-Commerceブームではありますが、ICT関連のスタートアップをインキュベーションするビジネスエコシステムが本格的に形成されていくのはまだ先の話だと思いますし、そもそも個人レベルでベンチャーキャピタルから資金を引き出せるほどのイノベイティブなプロダクトを持っている人は僕のところに相談には来ませんのでw。

というわけでインドネシアで外国人が「小さく起業」するには、役員としてインドネシア人の奥さん(または旦那さん)とその家族1名を取締役(Direktur)と監査役(Komisaris)に据えて国内資本投資会社、要はローカルPTを設立するのが一番手っ取り早いです。

ローカルPTが外国人雇用計画書RPTKAを申請するためには、外国人一人当たり最低1Milyar(1円=Rp.130で計算して770万円)の法定資本金が必要であり、その4分の1の200万円を最低払込資本金として当座預金に振込めば済むことになり、これなら個人の貯金から十分捻出できる額です。

ただしPMDNの場合、外国人は役員にはなれるが株主にはなれないため、振込んだ最低払込資本金も、利益処分時の配当(Dividend)も、法的にはインドネシア人株主の所有となり、親族以外のインドネシア人を役員に据える場合は、乗っ取られないように何らかの契約書・念書・覚書を取り交わすことになります。

会社のオフィスをどこに借りるか?

法人の納税者番号(Nomor Pokok Wajib Pajak=NPWP)や会社登録証(Tanda Daftar Perusahaan=TDP)などの重要書類を申請するためには、会社の住所を管轄する地方政府(Pemerintahan Daerah)が発行する会社所在地証明書Domisili(Surat Keterangan Domisili Usaha/Perusahaan)が絶対必要なので、テナント物件を借りるときは建築許可証(Izin Mendirikan Bangunan=IMB)が法人の住所として商業利用(Komersial)可能なものかを確認する必要があります。

ジャカルタの中心部のオフィスビルに入っているRegusやForticeなどのサービスオフィス(またはCoworking Space)を利用するのが確実かつお手軽ですが、提供されるサービスのうち、ローコストではあるが物理的にスペースがなく共用スペースでの作業だけが可能なバーチャルオフィスを選択してしまうと、外国人雇用計画書RPTKAの承認が下りない可能性があるので、サービスオフィスを使う場合でも必ず物理的にスペースを借りたほうがよいと思います。

オフィスの場所は自宅からの通勤距離や取引先までの交通の便などを考慮して総合的に判断すると思いますが、ICTビジネスの場合は会社にとって生命線となるインドネシア人技術者の採用のしやすさが重要なファクターになります。

ジャカルタであれば圧倒的に利便性の高いスディルマン通りやタムリン通り沿いのジャカルタ中心部、もしくはビナ・ヌサンタラ大学(BINUS)やトリサクティ大学などの学生が多い西ジャカルタが優秀なICT人材を採用しやすいロケーションだと言えます。

経理業務と税務の問題をどうするか?

会計の知識はどこまで必要か?

自分は一応日商簿記2級保持者であり、会計システムを扱ってきた経験もあるため、経理業務の大枠の流れは理解できますが、オフィスにあるホワイトボードやコーヒーメーカーの固定資産償却の方法や、円建てインボイスに対する支払いをルピア口座から行う際の、為替差損益の処理の仕方はよく分かりません。

結論から言って「小さく起業」した当初にプロダクト営業とマーケティングを行いながら、慣れない経理業務と税務をこなすのは負荷的に厳しく、また経理担当者を一人雇って固定費を増やすのもリスクが高いので、記帳代行会社に外注するほうが「小さい起業」に適していると言えますが、業務の流れやおおよその税金の種類や意味を理解しておいたほうがいいかと思います。

スタートアップ時は法人所得税ではなく分離課税PPh4(2)を適用

スタートアップ当初の法人所得税として、経営成績である利益に対してかかる法人所得税制(Normal Corporate Income Tax Scheme)ではなく、事業主に対して一律公平にかかる事業税のような制度、外形標準課税PP23(Final Corporate Income Tax Scheme=Pro forma perpajakan standar)が適用できるので、会計の知識がなくてもP/LやB/Sを作成しなくとも、課税額を計算をして納税が可能なので、会社の運営は普通に回ります。

要は単純に売上の0.5%を分離課税として納税するだけなのですが、このPP 23 Tahun 2018が自社に適用できるための条件として、年間売上4.8Miliyar以下である必要があり、適用可能期間は3年間のみで、それ以降は強制的に税引前利益に対して該当する法人所得税率が適用されます。

売上に対する0.5%という数字は決して高い税率ではありませんが、別に税務署が親切心から低い税率で保護してあげようというものではなく、スタートアップなんてどうせ最初は赤字だろうから、全く徴税できないよりも幾ばくかでもとってやろうという、起業家保護と税収確保の妥協の結果が0.5%という数字なのです。

付加価値税PPNまたはレストラン税PB1

付加価値税VAT(Pajak Pertambahan Nilai=PPN)は、本業の売上(Sales)やサービス収入(Fees Earned)に乗せた10%から、仕入時に乗せて払った10%を控除した差額を納税する消費税のような税金であり、日系企業と取引をするのであればVAT課税事業者(Pengusaha Kena Pajak=PKP)としての登録は必須であり、未登録だと取引させてもらえないケースが多いと思われます。

  1. お客さんからPOをいただく。
  2. 自社からお客さんへのインボイスを作成する。
  3. Faktur Pajakをオンラインシステムから発行する。
  4. インボイスとFaktur Pajakを印刷し、作業完了報告書(またはDelivery Note)の原本と3点セットを発送する。
  5. 翌月初にオンラインシステムのSPT Masa PPNで、売り(PPN-Out)と買い(PPN-In)の差額を計算して納税する。
  6. オンラインシステムから税務署に納税完了報告を行う。この際納税時に受け取った領収書(Bukti Penerimaan Negara)に記載してある領収書番号(Nomor Transaksi Penerimaan Negara=NTPN)が必要になる。

インボイスに乗せる付加価値税PPNがAPBN国家予算(Anggaran Penerimaan dan Belanja Negara) に入る中央税(Pajak Pusat)であるのに対して、飲食店を経営する場合のお勘定に対して乗せるPB1(Pajak Pembangunan Satu)10%は地方政府(Pemerintah Daerah)でAPBD自治体予算(Anggaran Pendapatan dan Belanja Daerah)に入る地方税Pajak Daerahになります。

国内サービスにかかる所得税PPh23

ICT企業がサービスを提供し顧客にインボイスを発行すると、顧客は国内サービスにかかる源泉所得税PPh23の2%分を控除して支払らった上で、源泉徴収証(Bukti Pemotongan PPh Pasal23)を郵送してきます。

国内サービスにかかる所得税PPh23は源泉税ですから、サービスを受けた顧客側に源泉徴収義務が発生し、顧客側の総合課税(Non-Final Tax)計算時に繰り入れるため、サービスを提供した自社側での税務処理は発生しませんが、会社の当座預金口座にはインボイス金額から2%差し引かれた金額が入金されているわけですから、差額はPPh23として費用計上しないと、実際の銀行口座残高と会計上の当座預金残高が一致しなくなります。

賃貸収入に対してかかる源泉所得税PPh4(2)

オフィスの賃料やセミナー開催のための借りた会議室の利用料など、賃貸収入に対して借りる側である自社が、貸す側であるオーナーの賃貸収入に対してかかる分離課税10%を源泉して納税する必要があります。

分離課税Final TaxであるPPh4(2)が登場するのは外形標準課税PP23と、この賃貸収入に対する源泉所得税の2つくらいです。

社員を雇うということ

インドネシアで自己資金を元手として「小さく起業」した時点で、2人の株主兼役員と日本人である自分の3人が居ると思いますが、それ以外の人を社員として雇用する場合は、会社と社員との間で雇用契約書を交わします。

当たり前ですが、社員かどうかはあくまで個人と会社の間での契約になりますので、お役所に「社員雇いました」と報告する義務はありません。

正社員(Karyawan Tetap)として人を雇うと、毎月末に給料を支払い、レバラン休み前にレバラン手当(Tunjangan Hari Raya=THR)を支払ったりする以外にも、以下の義務が発生します。

  • 個人所得税PPH21の源泉徴収と納税
  • 社会保険(Badan Penyelenggara Jaminan Sosial=BPJS)加入手続き

日本と同じくインドネシアでも一旦正社員として雇用したら、解雇するのは非常に大変であり、僕は以前バリ島で輸出の会社をやっていた時に、不景気のため4人の社員のうち2人を強引に辞めてもらった後、一族郎党で押しかけられ手切れ金を請求されたトラウマがあります。

今年は4月に大統領選挙があり、アメリカと中国の冷戦の可能性、ベネズエラ内戦のリスクなど、インドネシア経済にも影響を及ぼすファクターが多く、景気低迷時に最初に影響を受けるのが「小さく起業した会社」であるため、極力固定費は抑えて不測の事態に備えておくべきだと考えます。

移動のための社用車を購入するかどうか?


世界最悪の渋滞都市と言われるジャカルタも、渋滞解消に向けた未来は明るく、今年開通予定のMRT(Mass Rapid Transit)による移動手段の分散、ERP(Electronic Road Pricing)導入による車通勤者の減少が期待でき、Grab CarやGo-Carなどタクシー以外の交通手段が広がることで、ジャカルタ市内の移動をメインとするビジネスであれば社用車は不要でしょう。

社用車は買うか、借りるか、リースするかの3択になりますが、「小さく起業」したばかりのローカルPTにリースの審査が下りる可能性は極めて低いので、買って固定資産に計上するか、レンタルして毎月の費用計上するかのどちらかになります。

購入して自社の固定資産とすることは、収益に対して所定の税率を掛けて法人所得税税額を算出する会社の場合は、減価償却費として毎月費用計上することで課税所得を圧縮する意味があります。

また通常は償却期間終了後も引き続き車として使えるし、中古車市場の規模が厚いインドネシアでは高値で売却可能であり、何よりも仕事以外に土日は家庭用車として使えるというメリットがあります。

しかし定期保守メンテナンス費用に加えて、保険料、パンクや故障などの予測できない費用など、維持するためのランニングコストがかかります。

一方でレンタカーの場合は、購入に伴う一時的な大きなキャッシュの減少を発生させずに済み、維持コストなしで常時整備の行き届いた状態のよい車を利用できるメリットがありますが、長期的な金額計算だけで言えばレンタカーのほうが割高になります。

例えばBekasiのレンタカー会社で、1日(12時間)ドライバー付きで車をレンタルする場合、ガソリン代別でAvanzaなら45万ルピア、Inovaなら60万ルピアかかり、ドライバーによっては食事代Uang Makanとして5万ルピア請求されます。

社用車に関するもろもろの事務作業に時間をとられるわずらわしさを考えた場合、車はレンタルにして本業のプロダクト営業とマーケティングに集中したほうが、生産性が高いと言えるかもしれません。