会計システムの導入に際して、兎にも角にも勘定科目(Chart Of Account=COA)が必要です。
会計コンサルタントに記帳代行依頼していた会社は、これが自社コード体系を考え直すいい機会となるわけですが、旧コードと新コードのマッピングを明確にしておかないと、期首残の設定や試算表(Trial balance=T/B)の比較時に、科目残高の差異に悩むことになります。
また会計コンサルタントは多数の記帳代行を請け負っているので、作業効率を上げるために最大公約数的な記帳の仕方をします。
例えば日本からの材料輸入はFOB(Free On Board 本船渡し)取引なので、船上在庫を未着品(Goods-In-transit=GIT)として在庫管理している場合でも、会計コンサルタント側での記帳がそのとおりになされているとは限りません。
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会計システム
インドネシアでキャッシュレス化が浸透し、銀行口座を通して行われた企業取引がすべてシステムに自動仕訳されることで日常的な記帳業務はなくなれば、人間がマニュアルで会計業務に絡む場面は少なくなることが予想されますが、頭の中に業務の基本を体系的に記憶することは重要だと考えます。
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勘定科目の細分化
勘定科目は主科目3~4桁と補助科目3桁の組み合わせで構成されるパターンが多く、現預金(Cash Bank)については補助科目は現金なら通貨別、預金なら「銀行+通貨」別に分けるのはほぼお約束です。
元帳(General Ledger=G/L)には部門コード、取引先コード、通貨コードが付随しますので、債権(A/R)債務(A/P)科目を部門別・通貨別・取引先別のように細分化する必要はなく、グループ内外、国内国外など取引先の性格でグループ分けすることが多いです。
ただし導入する会計システムの機能として、損益計算書(P/L)メニューからは部門別管理帳票のテンプレートは持っているが、コストレポート用なので費用科目からしか金額を取得できない、といった制約がある場合は、収益科目である売上を取引先別に分けること考えられます。
会計ソフトはどれも似たり寄ったりと言われますが、上記のような機能的な制約がパッケージ独自の特徴と言われるのでしょう。
貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の貸借バランス
ちょっと脱線しますが、会計仕訳は何はともあれ開業した時点で始まり、個人資金を出資した時点で会社の資産となりB/Sに計上されます。
ここが個人のお金が会社の資産になる瞬間です。
例えばインドネシアで外国人が個人資金60juta出資して株式会社(PT)を設立する場合、インドネシア人の取締役(Direktur)と監査役(Komisaris)を株主として、会社設立証明書(AKTA Pendirian Perseroan Terbatas)に株主比率が登録された時点で会社の資産となり、設立時の貸借対照表(B/S=Nuraca)の資本金に組み込まれます。
- Dr. Bank 60,000,000 Cr. Capital 60,000,000
資本金は株主から払い込まれた法定資本金(Legal Capital)であり、資本準備金(Legal capital surplus)と利益剰余金(Retained earning=Earned surplus)を含めたものが純資産(Net Asset)になります。
当然ですが返済義務があるのが負債(Liabilities)で、ないのが純資産で、負債は返済期限1年を境に流動負債(Current Liabilities)と固定負債(Fixed Liabilities)に分けられます。
- 資産=負債+純資産
会社設立時はB/S上には資産と純資産だけしかありませんが、そのうち諸々の費用が発生するようになり、ついには初回の売上が発生すると、P/L科目が必要になり以下の式でバランスするようになります。
- 資産+費用=負債+純資産+収益
勘定科目の確定作業
で、勘定科目コードは資産(頭1)負債(頭2)純資産(頭3)まではお約束で、次に収益(頭4)がきて以降に主科目で費用(頭5~)が直接製造原価や間接製造原価、販売管理費などに細分化されます。
1. 貸倒引当金(Allowance for Doubtful)
流動資産損失額の償却のための科目であり、間接法で決算整理仕訳時にマイナス資産(頭1)として、B/S上売掛金の下に貸倒引当金を記載し、プラス費用(頭6)としてP/Lの販売費及び一般管理費に貸倒引当金繰入(Provision of allowance for doubtful)を記載します。
- Dr. 貸倒引当金繰入額(プラス費用) Cr. 貸倒引当金(マイナス資産)
2. 減価償却費(Depreciation)
有形固定資産償却のための科目であり、間接法で決算整理仕訳時にマイナス資産(頭1)として、B/S上有形固定資産(土地を除く)の下に減価償却費累計額を記載し、プラス費用(頭6)としてP/Lの販売費及び一般管理費に減価償却費を記載します。
- Dr. 備品減価償却費(プラス費用) Cr. 備品減価償却累計額(マイナス資産)
3. 無形固定資産減価償却(Amortization)
無形固定資産の償却のための科目であり、直接法で決算整理仕訳時に資産をマイナスし、プラス費用(頭6)としてP/Lの販売費及び一般管理費に無形固定資産償却を記載します。
- Dr.無形固定資産償却(プラス費用) Cr.ソフトウェア(資産)
4. 退職給与引当金(Estimated retirement)
将来発生する退職金のうち、当期に負担すべき金額を見積もり、当期の費用として計上するための引当金を管理します。決算整理仕訳時にプラス負債(頭2)としてB/Sの引当金(Allowance)に退職給与引当金を記載し、プラス費用(頭6)としてP/Lの販売費及び一般管理費に退職給与引当金繰入額を記載します。
- Dr. 退職給与引当金繰入額(プラス費用) Cr. 退職給与引当金(プラス負債)
5. 繰延資産(開発費・試験研究費)
費用として支出された金のうち、次期以降の負担となるべき分は、当期だけの費用とせずに一時的に資産と見なして繰り延べ、その費用の効果が期待される期間にわたり配分します。
次期以降に成果が発生する費用なので当面B/Sの資産に置きます。
6. 経過勘定(未収収益・未払費用)
継続して役務(サービス)の提供を受けたり行ったりするため、時間の経過につれて収益または費用になるもののうち、現金の収支の時期と損益計算上の損益認識の時期がずれたものがある場合、これを処理するための勘定科目(B/S項目)です。
商品以外の掛(ツケ)である未収収益(Accrued Income)はB/S資産に、未払費用(Accrued Expense)はB/S負債に置く。
7. 製造原価と販管費
原価計算対象は製造原価(頭が5)のみであり、販管費(頭が6)は同名の費用項目が並ぶが原価計算対象外である。材料費と製造委託費(外注費)は生産管理モジュール内データから月次総平均で計算される。労務費・経費は実績作業時間に応じて配賦され、減価償却費は出来高に応じて配賦。
8. 税金
付加価値税(PPN)と国内サービス収益にかかる源泉所得税(PPh23)はIn(資産)とOut(負債)がセット、個人所得税(PPh21)は負債のみです。
PPN(Input-VAT-Prepaidを資産・Output-VAT Payableを負債)
購買時(In)
- Dr. Pch(仕入) 100 Cr. A/P(買掛金) 110
- Dr. Input-VAT Prepaid(資産) 10
販売時(Out)
- Dr. A/R(売掛金) 110 Cr. Sales 100
- Cr.Output-VAT Payable(負債) 10
PPh23(PPh23 Prepaidを資産・PPh23 Payableを負債)
A/R決済(自分の税金をお客が源泉徴収して払ってくれる権利)
- Dr. Bank 108 Cr. A/R(売掛金) 110
- Dr. PPh23 Prepaid(資産) 2
A/P決済(ベンダーの税金を自分が源泉徴収して払ってあげる義務)
- Dr. A/P (買掛金) 110 Cr. Bank 108
- Cr. PPh23 Payable(負債) 2
PPh21(W/H Tax21を負債)
給料支払い(従業員の税金を会社が源泉徴収して払ってあげる義務)
- Dr. Salary(基準内賃金) Cr. Bank
- Cr. PPh21 Payable(負債)
9. 貯蔵品(Supplies)
事務用消耗品は決算処理時の棚卸し時に販売費及び一般管理費化する。
購入時
- Dr. Supplies(貯蔵品) Cr. Cash
棚卸時
- Dr. Supplies Expense(消耗品費) Cr. Supplies(貯蔵品)
決算処理の目的(決算整理仕訳と利益計算)
1. 取引相手のいない科目の金額の修正
- Depreciation(間接法)
固定資産(Fixed Asset)のマイナス資産化(累計額)と売上原価化(製造)または販管費化(事務機器) - Amotization(直接法)
Intangible Fixed Assetの販管費化 - Allowance for Doubtful
A/Rのマイナス資産化と販管費化(繰入額) - Estimated retirement
A/Rのマイナス資産化と販管費化(繰入額) - SuppliesのStock Taking(貯蔵品の費用化)
貯蔵品の使った分を消耗品費(販管費)化する。
2. 売上原価(Cost Of Goods Sold)の算出
月中の在庫受入れは仕入勘定(費用)を用いる三分法では、月末において「月初在庫+仕入-月末在庫」で売上原価(費用)を算出する。
1. 期首製品在庫と期末製品在庫をコントラ勘定を使って差し替える。
- Dr.期首製品棚卸高 50 Cr.製品 50
- Dr.製品 30 Cr.期末製品棚卸高 30
2.製品製造原価(COGM)とともに売上原価(COGS)勘定に振替え当期売上原価を算出する。
- Dr.売上原価 50 Cr.期首製品棚卸高 50
- Dr.期末製品棚卸高 40 Cr.売上原価 40
- Dr.売上原価 30 製品製造原価 30
3. P/L科目(COGSも含む)をすべてIncome summary勘定に振替えて、Net incomeを計算
P/Lの当期純利益(期首から前月までの純利益累計、つまり当期純利益)をB/SのEARNED SURPLUS (PRE-MONTH)に振替え、これを起業年から前年までの純利益累計であるRetained Earning(繰越利益剰余金)に振替える。
当期純利益を算出する前に売上総利益をNet Income勘定で算出する。Net Income勘定から算出された売上総利益はP/L上で販管費を差し引かれ経常利益となる。
- 売上総利益>営業利益>経常利益>税引前利益>税引後利益(当期純利益)
発生主義による損益認識(出荷基準と検収基準)
国際会計基準(IFRS)的には発生主義(Accrual Basis)による費用認識(Expense Recognition)が基本であり、発生主義で収益が認識される基準には出荷基準と検収基準があります。
損益認識のタイミングで、現金または現金同等物(売掛金、手形などの貨幣性資産)の獲得をもって損益認識する方法をRealization Basis(実現主義)と呼ぶことがあります。
継続記録法(検収基準)
入荷時
- Dr. Inventories 100 Cr. A/P Accrued 100
インボイス到着時
- Dr. A/P Accrued 100 Cr. A/P 100
出荷時
- Dr. Shipment clearing 100 Cr. Inventories 100
検収基準で客先での検収完了後に売上を計上。
インボイス発行時
- Dr. A/R 120 Cr. Sales 120
- Dr. COGS 100 Cr. Shipment clearing 100
継続記録法(出荷基準)
入荷時
- Dr. Inventories 100 Cr. A/P Accrued 100
インボイス到着時
- Dr. A/P Accrued 100 Cr. A/P 100
実現主義に基づき出荷基準でSales計上。
出荷時
- Dr. A/R Accrued 120 Cr.Sales 120
- Dr. COGS 100 Cr. Inentories 100
インボイス発行時
- Dr. A/R 120 Cr. A/R Accrued 120