会計的視点から事象を読み解くというこということは、企業活動の背景に流れるモノの金額(数字)とキャッシュ(現金と当座預金)の動きが見えるということです。日商簿記検定の勉強は実務はもちろん日常生活の事情のコンテキストを理解するのに役立ちます。
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会計システム
インドネシアでキャッシュレス化が浸透し、銀行口座を通して行われた企業取引がすべてシステムに自動仕訳されることで日常的な記帳業務はなくなれば、人間がマニュアルで会計業務に絡む場面は少なくなることが予想されますが、頭の中に業務の基本を体系的に記憶することは重要だと考えます。
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「学生時代に何を勉強すべきか」というテーマ
僕の学生時代は国際社会に対応するための英語と、経済的センスを磨くための簿記会計を勉強しとけと言われていました。
近年人気上昇しているのは世界中どこでも仕事ができるWEBプログラミング、そして最近では人生遠回りするよりも経済的自由を身につけるために、学生時代にお金を稼ぐ方法(起業)を身につけるべき、という意見もあります。
英語が社会に出てから必要になるというのは当時でも周知の事実であり、インドネシアで仕事をしている現在でも、英語が上手いインドネシア人の中で英語が下手な日本人だと相当恥ずかしい思いをします。
プログラミングは、当時の任意選択科目コンピューターサイエンスの実習で、8インチのディスケット(その後フロッピーディスクと呼ばれるもの)を使ったFORTRUN77というプログラミング言語で、面白くもおかしくもないロジックを組まされて嫌気が差した思い出しか残っていませんが、今みたいにPCとインターネットが普及していれば、独学でいつでもどこでもタダでWEBサイト構築の勉強が出来ます。
英語とかプログラミングは、自分がそれを武器に格好良く仕事をする情景が目に浮かぶので、勉強するモチベーションも上がるというものですが、簿記会計については財務諸表が読めるようになるとか言われても、なんか薄暗い経理部の部屋でおっちゃんが夜遅くまで電卓たたいて金勘定しているドラマのシーンが脳裏に浮かび、それでどんだけ自分にとってメリットがあるのかイメージ湧かないと思います。
文系の人間は専攻がはっきりしないので、理系の人間に対して一種のコンプレックスがあり、特に僕の場合商学部のマクロ経済寄り、金融経済のゼミという特徴の掴みにくい専攻だったため、大学で学んだことの痕跡を残すという意味でも、バカのまま卒業する前にせめて簿記試験くらい受けておこうという程度の意識低い系でした。
背景に会社継続の制約とお金の流れがイメージできない話は胡散臭い
会社で経理部に配属されたり会計士を目指す人は別として、一般の人でも簿記会計を少し勉強していると、テレビやネットで目にするニュースを見聞きする際に、「この会社(人)何を売って儲けているんだろうか?」とか「どの勘定科目で処理するんだろう」くらいのことは意識するようになります。
フリーランスでも製造業でもサービス業でもすべての事業は最終的にお金で評価されますので、そこにいたるまでのすべての取引は会計仕訳に置き換えられ、P/L(損益計算書)とB/S(貸借対照表)に反映されるまでにはプロセスがあり、例えば下のようなネットでよく目にする何気ない言葉にも取引が発生しています。
- 毎月ン百万稼いでます
Dr.預金 Cr.売上 - ン億円の資金調達に成功(第三者割当増資のケース)
Dr.預金 Cr.資本金 - 東南アジア戦略の一角としてインドネシアへ進出(現法設立)。
Dr.預金 Cr.資本金 - ビットコインで億りました(売却したケース)。
Dr.預金 Cr.仮想通貨
Cr.売却益 - 世界中を旅しながらフリーランスとして生きています。
Dr.預金 Cr.売上 - 不労所得で好きなことだけやって生きてます(ブログでアフィリエイト)。
Dr.売掛金 Cr.売上 (確定時)
Dr.預金 Cr.売掛金 (振込時)
このように事業を立ち上げて売上が立ち、預金口座にキャッシュが増える一方で、事業を継続するためには常に費用がかかりますので、例えば資本金10,000の会社が毎月2,500の費用を計上できるのは4ヶ月間のみであり、資本金の源泉である預金(お金)がなくなる前、売上を立てないと資金がショートし会社は倒産します。
会社を設立した月に自分のお金が会社の資産(預金)に変わる。
- Dr. 預金(お金)10,000 Cr. 資本金 10,000
最初の数ヶ月はオフィスの備品を揃えたり商品の仕入を行ったり費用だけがかかる。
- Dr. 費用 2,500 Cr.預金(お金)2,500
翌月にようやく売上が立つ。
- Dr. 預金(お金)8,000 Cr. 売上 8,000
つまり事業による売上は、資金がショートする前に当座預金にキャッシュを補充しなければならないという制約の下で繰り返されるのであり、上記のようなキラキラした事象の背景に、この基本的な会社継続の制約とお金の流れが具体的にイメージできないと、どこか胡散臭さが感じられます。
この感覚はおそらく銀行の融資担当者が融資を受けに来た人の話を聞いて、事業が継続可能なもので元本と金利を返済可能なものであるかどうかを審査する際に感じるものに近いのではないかと想像します。
不正なお金の流れにも必ず会計取引が発生している
外部監査によって有価証券報告書(投資家の投資判断の資料等にするため、事業年度ごとに会社の業績をまとめて国と証券取引所に提出する書類)の内容が適切であることを保証される上場企業が、億単位の金額を簿外で取引することは極めて難しいので、不正な取引が発覚する際にはもっともらしい別の勘定科目に付け替えられているのが普通です。
- 販売費及び一般管理費(販管費)への「付け替え」
⇒日産のCEO予備費から販売促進費として中東日産に流れたお金がオマーンの代理店をトンネルにしてゴーンさん保有の投資会社に流れる。 - 有償支給による「循環取引」
⇒東芝が液晶ディスプレイ製造を外注先へ有償支給する際に、売上を二重計上することによる水増し。 - セールスコミッション・コンサルタント料として「移転価格」
⇒日本債権信用銀行やオリンパスなど、タックスヘブンであるケイマン諸島の現地法人に移転価格し税金対策。
先日4月4日に日産の前会長カルロス・ゴーン容疑者が、中東オマーンに不正送金して会社に損害を与えたという会社法違反(特別背任)容疑で4度目の逮捕されました。
昨年2018年11月19日と12月10日の逮捕は役員報酬を総額50億円も過少申告したことにより日産の有価証券報告書が虚偽記載と判断されたことにより、金融商品取引法違反が適用されました。
金融商品取引法違反ではゴーンさん自身の不正を立証できるかどうかが争点でしたが、当然ながら日産のP/L上の販売管理費科目である役員報酬が過少に記載され、差額は別の販売管理費科目に付け替えられている可能性があります。
- Dr. 役員報酬 50億円 Cr. 当座預金 50億円
その後12月21日に個人の資産管理会社と新生銀行との間のスワップ契約の損失を日産に付け替えた容疑による特別背任で3回目の逮捕がされましたが、日産に損失の実害が発生したことを立証できず2019年3月6日に保釈されてしまいました。
ところが今回の会社法違反(特別背任)はもう完全に漆黒のクロ、日産から中東日産、オマーンの販売代理店SBAを経由してゴーンさん保有の投資会社に送金させた38億円以外にも、ゴーンさん個人の大型クルーザー購入費用や4人の子供のスタンフォード大学費用が、日産の会計上で架空の販管費として計上され、私的流用された疑いがあるそうです。
- Dr. 販売促進費 38億円 Cr.CEO予備費 38億円
「不適切会計」と記載される経済ニュースは、だいたい税逃れ・私的流用・粉飾の3種類のどれかが目的になっており、いずれも有価証券報告書の虚偽記載は免れないため、P/LとB/Sの数字もおかしくなったことにより一番被害を被るのは株主になります。
日産は自動車メーカーであり、自動車を生産するまでの材料費や労務費などのコストはすべて製造原価の中に納まっており、今回の事件はすべてCEO予備費(CEOリザーブ)というゴーンさんの裁量で支出できる準備金から販売管理費として計上されています。
つまりゴーンさんの4度目の逮捕によって日産のイメージダウンは免れないとはいえ、本業のモノ作りを行う製造現場には何の責任もないということは強調する必要があると思います。
(2020年1月追記)
カルロスゴーン被告は12月30日に日本を不法出国しレバノンに逃走しました。
タックスヘイブンと移転価格
僕が新卒で入社したのは旧長期信用銀行系のシステム会社でして、最初に配属されたのがAS/400上でRPG(Report Program Generator)とCL(Control Language)ベースで海外支店用システムを開発・運用する部門でした。
当時の海外支店一覧の中でロンドンとかニューヨークとか有名都市に混じって、ひときわ異色を放っていたのがケイマン支店であり、最初はナニコレという感じでした。
当時の先輩からは、ケイマン諸島というのは税金が優遇された特別区なので、日系の銀行はほとんど全部がケイマン諸島に支店を置いて節税している、と教えてもらいました。
その後僕自身はインドネシアに転職してしまい、その名前もすっかり忘れていたところに、2013年のオリンパスの損失隠し事件で、ケイマン諸島の会社買収がなんかおかしい、みたいな感じで突然懐かしい名前として自分の前に登場しました。
不動産や金融資産で大損こいたら、その含み損は時価会計の原則で損失処理を行なうべきですが、僕がちょうどインドネシアに来た1997年に発生した山一證券の破綻の場合は、含み損のある不動産を簿価で連結対象外の関連会社に売却し、関連会社の損失に計上させるという典型的な「飛ばし」になります。
ただオリンパス事件は2013年最近の話であり、こんなベタな飛ばしは通用する時代じゃなくなっていましたので、実質無価値なペーパーカンパニーを過大な評価金額でM&Aして、損失穴埋めの裏金を捻出すると同時に、財テクの損失をM&Aの損失に「付け替え」という方法だったようです。
ケイマン諸島には、島内で事業を行わない会社は法人税を払わなくて良いという法律があり、がめつい海外企業からの出どころ不明の租税回避マネーを呼び込んで、会社設立、運営、送金手数料などなどで財政をまかなおうという、人口の少ない国だからなせる技を取っています。
こういうのをまさにランチェスター戦略と言うんでしょうけど、実際島の住民約5万人はほぼ無税で社会保障も充実している中で幸せに暮らしているそうです。
実際のところ、僕の前職の親会社である銀行のように、世界中の大企業がペーパーカンパニーを設立して、ケイマン支店をいろんな形で節税対策として利用しているようです。
株主の利益最大化という企業の目的には合致しているとはいえ、一般庶民の感覚からすれば自国に納税せずに庶民の税金でまかなわれる公共サービスにタダ乗りしているんじゃないの、と外野席からヤジの一つでも飛ばしてやりたいところです。
関係ないですが、僕がインドネシアに転職する数ヶ月前に、この銀行の系列会社である不動産リース会社でバブル崩壊による巨額不動産損失が発覚し、銀行から子会社出向してきていた当時のダンディな部長さんが、実はこの事件に深く関与していたということで、ニュースステーションに緊急出演するなど、随分会社内外でゴタゴタしていた時期でした。
結局はこの事件が引き金になって銀行自体が消滅することになりました・・・。
話がズレそうですが、日本で移転価格税制が導入されたのが1986年とのことで、僕が日本で働いていたのが1995年前後ですから、日本で発行した長期金融債の運用益を、海外支店とはいえども別事業会社であるケイマン支店に、コンサルタント料とか販売手数料とかいう名目で費用計上し安易に送金したら、間違いなく移転価格と見なされていたはずです。
勘定科目としてのロイヤルティと配当
会計システム導入時には、なにはともあれ勘定科目を準備していただく必要があるのですが、日本本社がインドネシア拠点から投資回収するための科目として、ロイヤルティ(Royalty)と配当(dividend)があります。
ロイヤルティは、製造費用科目の場合はProduction Royalty、販管費科目の場合はコミッション(Sales Commission)、配当は未払配当金(Dividend Payable)として負債科目にクラス分けされることが多いです。
このロイヤルティはインドネシア現地法人と日本本社間の関所みたいな科目であり、そこにはインドネシアの税務署という門番が二重三重にガードを固めており、最悪の場合は通行拒否(価格移転と判断され否認)されます。
うまく関所を抜けられた(日本本社に対する正当なロイヤルティとして認められた)としても、移転価格税制に基づきロイヤルティ金額を再計算された上で、PPh26という通行税(海外サービスに対する源泉税)20%を支払う必要があります。
ただ日本とインドネシアは租税協定がありますので、「海外支店間取引につき日本側で一定額納税しますからインドネシア側でも軽減税率を適用してください」と申告することができます。
そしてインドネシア側で源泉徴収票(Bukti potong PPh26)を発行してもらい、日本の税務署に提出することで「インドネシアで一定額は源泉済み」という証明をすることで二重課税は避けられます。
本来配当という形での投資回収が望ましいのでしょうが、インドネシアの税務署は企業が数年間連続して営業利益を出していない限り、配当へ計上を否認するというのが現状です。
移転価格と利益操作
先日、日本で開発されたパッケージソフトウェアをマレーシアの海外拠点から購入する際に「値引き販売は日本で価格移転と見なされかねないのでインドネシアだからと言って優遇は出来ません」と言われてしまいました。
価格移転とか利益操作という意図ではなく、好意で行なった値引き販売が、当局によって疑われてしまうというのは、なんとも切ないところです。
インドネシアでも「お友達価格」というのは非常に危険であり、「お得意さんだから今回は利益なしで提供します」というのは税務署から利益操作取引と見なされかねず、結局お互いの利益にならないため、やらないように気をつけています。