システムによる自動化が進んでも理解すべき会社業務の基本

会計システム

モノと金額とキャッシュの動きこそが業務の本質【システムによる自動化が進んでも理解すべき基本知識】


システム化が進んでも会社運営の仕組みの理解は必要

先日ジャカルタで会計事務所を営む友人から、日系企業のインドネシア人経理担当者向けの教室での簿記講座を始めると聞き、言われてみればインドネシアではTACや大原簿記学校みたいな会計の専門学校がないことに気づきました。

経理業務は標準化し易いため、バックオフィスの中でもシステム化しやすく、システムへの入力作業中心の業務の場合は、簿記知識が少ない人材でも務まるわけで、今後さらに完全自動化された時には、単なる入力オペレーターは真っ先に削減対象となり得るかもしれません。

システム化により社内業務が完全自動化された世界では、企業のバックオフィスには単なるオペレーターは必要なくなり、システムから出力された数値データを解析し事業戦略への提言ができる高度人材のみが残ると考えられます。

その高度人材にとって理解必須の知識こそが会社運営の仕組みであり、WHOから新型ウィルスによるパンデミック(世界的大流行)が宣言され、リーマンショック以上の経済危機が訪れようとする今のようなご時世にこそ、現場の業務と経営を俯瞰的に見ながら生き残るための的確な提言ができるものと考えます。

会社運営の仕組みとはモノ・金額・キャッシュの動き

会社は事業を行い利益を出すことが目的であり、インドネシアの現地法人は売上からロイヤルティとかセールスコミッションという名目で、日本本社の投資回収のための送金すると同時に、連結決算の対象としてグループ全体の利益に寄与しなければなりません。

この目的を達成するためにインドネシア現地法人は、仕入先からモノを調達し、従業員を雇用して生産(ソフトウェアの場合は開発、商社の場合は管理)を行い、製品として顧客に販売することで毎月の収益を上げ、最終的にキャッシュ(現預金)という形で回収します。

この調達したモノの価格や送料、開発・生産・管理にかかる従業員の給料が製品の原価(売上原価)であり、製品を販売するための営業マンの給料、キャンペーン費用が販売管理費です。

  • 売上-売上原価=売上総利益(粗利)
  • 売上総利益-販売管理費=営業利益

まずは製品を売って利益を上げるまでに、どの過程でどんな費用がかかったかを明確にするために、製品自体の売上原価(Cost Of Goods Sold)と、売るための営業にかかった販売管理費(Selling, General and Administrative expense)を明確に分けて考えなければなりません。

そして当月の販売管理費は必ず当月に発生した費用(期間原価)である一方で、当月の売上原価に含まれるモノは必ずしも当月に仕入れたモノではなく、当月に出荷(または消費)したモノであるということ。

さらに仕入とか生産(開発)とか売上という概念は、発生したタイミングで収益と費用という概念で計上される発生主義で認識されるため、現実の会社運営上での最も気になる資金繰りのために収入と支出の動きを見るにあたっては、金額の動きをキャッシュベースの現金主義に変換する必要があることです。

基本的な知識をもとに現実の事象を理解する事例

インドネシアで実際にあったお客さんとの会話の中で、会社運営の仕組みを理解していないと会話が発展しない事例を挙げます。

(某鉄鋼商社駐在員との会話から)

  • 事務所賃料と社員の給料を回収するには今月から3か月でどれだけ売上を上げれば会社は回るのか試算しろと本社から言われています。

一般の商店や飲食店の運営では、売上金額から商品や材料の仕入原価(変動費)を差し引いた粗利益(限界利益)で、まずは固定費を回収してトントンに乗せてから、利益を積み上げるという考え方をします。

これは売りと買いの差額である粗利で諸経費をまかなうという商売の基本形なので、感覚的に理解しやすい話です。

(某OA機器商社社長との会話から)

  • 固定費の支払いのために銀行から金を借りるのは不本意だが入金が少なく今月の給料が払えないので銀行に交渉に行ってくる。

本来固定費は粗利で消化すべきものなのに、P/L上で大きな利益が出ているにもかかわらず入金が少ないため社員の給料を払えず、背に腹は代えられず邦銀の融資担当者に電話するという場面です。

P/L上で発生する取引はすべて発生主義の原則で費用と収益として計上されるため、現預金がどれだけ入ったかはP/Lを現金主義で支出と収入に置き換え、営業活動によっていくら現預金が増えたかを知る必要があります。

(某切削部品メーカー社長との会話から)

  • 前月棚卸で材料を過剰計上してしまったためP/L上の利益が大幅黒字となり、今月になって正確な棚卸を行ったことでが逆に大幅赤字になって社長が真っ青になった。

商社のように固定費を粗利で消化するという考えとは異なり、固定費の種類が多い製造業では変動費に固定費を積み上げた売上原価と、製品を販売するためにかかった販売管理費をという意識が強くなります。

前月は(月初材料在庫+当月購入材料分ー月末過剰材料在庫=過少売上原価)ということで(売上ー過少売上原価=過剰利益)となり喜んでいたのもつかの間、今月は(月初過剰材料在庫+当月購入分ー月末材料在庫=過剰売上原価)となりP/Lが真っ赤となり、お怒りの電話をいただいたことがありますが、これはシステムの問題ではなく、棚卸で過剰計上してしまった運用上の問題です。

(某電器部品メーカー社長との会話から)

  • 今月稼働停止した機械の減価償却費を仕掛品に計上したところ、倉庫に仕掛品在庫がないことを外部監査で指摘されたので、製造原価外の販売管理費に振替えた。

製造費用は製造した月にしか発生しない費用である一方で、固定費である減価償却費は製造の有無にかかわらず発生するため(月初仕掛在庫+当月製造費用―月末仕掛在庫=製造原価)から金額があるにもかかわらずモノの動きが見当たらないケースです。

システムは発生主義の原則で自動的に取引を記帳していきますが、現場で流動するモノの動きと一致しないことは頻繁に起こるため、人間がその原因を分析し対処するに当たって原価の発生のプロセスを理解しておく必要があります。

ネットで調べる知識と頭の中に記憶すべき知識

スマホを開けばなんでも欲しい情報を検索できる時代に、なぜ会社運営の仕組みを理解して頭の中に記憶する必要があるかと言えば、上記のように現実の事象に基づいて創造的な話しをするために必要だからです。

これはリアルタイムの翻訳機が出来たら英語学習は不要になるのかという議論と同じで、その場での読み書きは翻訳機で出来たとしても、日本語と英語の変換という枠の中で生み出されるアイデアには限界があり、英語圏と日本語圏の思考方法の違いによる齟齬が発生するリスクは避けられません。

モノと金額とキャッシュの動きという会社運営の基本は業務知識の本質であり、断片的知識とは異なり、問題解決のために新しいアイデアを生み出す源泉となるものであり、逆に言うと検索できる断片的知識の暗記に時間を割くよりも、本質的知識を理解し頭の中に体系的に整理することは、システム化が進んだ将来も必要になると考えます。





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