新型コロナウィルス感染拡大がASEANとインドの製造業へ及ぼす影響【二輪四輪産業への影響が大きい】

2020/07/06

ジャカルタ

インドネシアの新型コロナウィルス感染拡大が製造業へ及ぼす影響が、ベトナム、タイ、インドと比較してどの程度なのかでしょうか?各国とも二輪四輪産業が受ける影響は大きい一方で、新しい生活様式に対応したライフスタイルの変化がもたらす特需にも期待を寄せています。

スナヤン競技場(Gelora Bung Karno)

インドネシアの政治・経済・社会

日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。

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全体像が見えにくいインドネシア駐在員の一時帰国と再入国予定の状況

インドネシア駐在員のSNSや個人ブログ等を見ると、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、帯同家族だけ一時帰国するケース、駐在員本人も後追いで一時帰国するケース、インドネシア残留組といろいろ分かれるのですが、本日のジェトロさんのウェビナーに参加して、全体像として現状はどうなのかという点が理解できました。

ジェトロのアンケート結果(362社)に基づく駐在員のインドネシア再入国時期

・6月:23%
・7~9月:42%
・10月以降:5%
・再入国の予定なし:2%
・未定:31%

一時帰国から本帰国への切り替えは少ないようです。

ジェトロのアンケート結果(362社)に基づインドネシアへ再入国を決める要因

1.感染者数増加が沈静化した時期
2.PSBB解除
3.インドネシアの入国規制の緩和
4.日本の渡航規制の緩和
5.医療環境の改善
6.業績安定化の見通しが立った時期

ということは沈静化しないとずれ込む可能性がある。

全体の50%の企業が駐在員を一時帰国させており、そのうち6割が9月までにインドネシアに再入国を予定しているが、その判断基準として最も重視するものは「感染者数増加が沈静化した時期」を挙げる企業が多いため、新規感染者が増え続ける現状からすると、再入国の時期がずれ込むことも考えられます。

「日本の渡航規制の緩和」を指標とする企業がそれほど多くなかったのは意外ですが、現在まで外務省から発表される感染症危険情報によるとインドネシアは「レベル3:渡航は止めてください。(渡航中止勧告)」の最大警戒レベルのままです。

コロナ禍の製造業の生産・操業状況

4月の自動車の前年比生産量が8割減、販売が9割減という衝撃のニュースがありましたが、自動車以外を含む製造業全体で見ても、通常時の5割未満の生産に落ち込んだ企業が50%を超えており、その傾向は一般消費者に近い大企業ほど顕著であるようです。

5月時点の通常比での生産量

  • 3割未満:36%
  • 3割以上5割未満:16%
  • 5割以上8割未満:20%
  • 8割程度:12%
  • 通常どおり:12%

生産量減に伴い、40%以上の企業で稼働時間が5割未満となり、ほとんどの企業が「国内・海外顧客からの注文量留保・減少・キャンセル」を理由として挙げており、「海外サプライヤーからの製品・部品・原材料などの納品遅延・停止」を挙げる企業が少なかったのは意外でした。

たまねぎの価格が5倍以上に跳ね上がったことが主婦の間で問題になったとはいえ、2002年~2003年にかけて発生したSARSの時に問題となったようなサプライチェーン停滞による部材の供給停止による製造ラインの停止という問題は、今回のCovid-19ではそれほど発生しなかったと言えるかと思います。

生産・操業縮小への対応としては、「在庫調整」や「稼働率の抑制あるいは向上」を挙げる企業がほとんどである一方で、「生産管理・運営管理への投資」や「自動化・省人化への投資」などのIT投資を挙げる企業が少ないながらもあったことが、弊社のような製造業システム開発会社にとっては救いでした。

また全体の80%近くの企業が在宅勤務を取り入れており、70%以上の企業は労働組合との賃金減額交渉を行っていないことから、近年薄れかけている日系企業の人を大事にする文化が、幸いにもインドネシアでは残っているのかもしれません。

コロナ禍での製造業の業績

製造業に限って言えば、全体の45%以上が5割以上の売上減少となっており、大企業ほど売上減の比率が高いのですが、非製造業の場合は逆に中小企業ほど売上減が大きくなっております。

PSBB施行後(2020年4月~6月)の日系企業全体(非製造業も含む)の前年同月比での売上変化

  • 50%以上減少:37%
  • 20%~50%未満減少:27%
  • 1%~20%未満減少:17%
  • 変化なし:12%

2020年2月末時点のキャッシュが平均月商の何か月分か、という質問に対する回答は、6ヶ月以上という超優良企業が17%、3ヶ月以上6ヶ月未満という優良企業が18%、1ヶ月以上3ヶ月未満という平均的な企業が39%、1ヶ月未満という厳しい状況の企業が15%ということで、追加的な資金手当てとしては銀行からの融資が受けにくい中小企業が多いだけあって、親会社からの親子ローンが多いようです。

今後の投資戦略への影響ですが、現地の需要や成長性が期待できる、収益拠点として重要な位置づけにあるという理由で、69%の企業が現状維持、12%の企業が拡張を考えており、縮小を検討している企業は15%に留まっていました。

並べてみた。
累計感染者数わずか355名(回復者340名)、死者0名、4月17日以降の新規感染は海外からの帰国者のみで市中感染0名のベトナム。累計感染者数3,190名(回復者3,071名)、死者58名、6月の感染者数ほぼ1桁台継続中のタイ。6月のPSBB緩和と7月のロックダウン緩和で、感染者が絶賛増加中のインドネシアとインド。

ベトナム - 日系企業数1,848社うち868社が製造業(2019年7月時点)

7月5日までの累計感染者数がわずか355名(回復者340名)、死者は未だに0名で、4月17日以降の新規感染は、海外からの帰国者のみで市中感染者数は0人というのは、3月22日に外国人の入国を停止し、4月1日から社会隔離措置を実施したベトナム政府の感染防止措置の初動の早さ、徹底した水際対策、情報開示、感染者が出た場合には徹底した追跡、検査、隔離、治療を行った成果です。

2020年1月~5月の新車販売台数は前年同期比34.5%減の8万3千台で、自動車生産台数は41.6%減の7万4千台と落ち込む一方で、スマホ、サーバー用の製品やパソコンやスマートフォン用の部品など、WFHで需要が増加した結果、第1四半期(1~3月)の電子・電機の生産の伸びは前年同期比14.3%成⾧しましたが、GDP成長率は第1四半期(1~3月)で3.82%増(推計値)にとどまり、リーマンショック以来、過去10年で最低の水準となりました。

タイ - 日系企業数5,444社うち2,346社が製造業(2017年5月時点)

7月5日までの累計感染者数は3,190名(回復者3,071名)、死亡者数は58名で、3月26日に非常事態宣言が発令され、外国人の入国は原則停止、夜間外出禁止措置等を実施した結果、6月の感染者数はほぼ1 桁台で推移したことを受けて、6月15日に夜間外出禁止が解除されました。

2020年5月のタイの新車販売台数は、前年同月比54%減の4万418台で、4月の自動車生産台数は前年同月比83.6%減の2万4,711台と落ち込み、コンピューター部品・HDD・電気制御盤などの電子・電機の生産はベトナムと同様に堅調ですが、2020年第1四半期のタイGDPはマイナス1.8%で6年ぶりのマイナス成長になりました。

インドネシア - 日系企業数1,489社うち871社が製造業(2019年11月時点)

7月5日までの累計感染者数は64,958名(回復者29,919名)、死亡者数は3,241名で、1日当たりの新規感染者数は1000名~1500名で右肩上がり中で、4月2日に外国人の入国は原則停止(KITAS保有者を除く)され、4月10日から大規模社会制限(PSBB)継続中だが6月から段階的解除されています。

4月の新車販売台数は9割減、生産台数は8割減、2020年の年間自動車出荷台数目標が108万台から60万台まで引き下げられるという厳しい状況ですが、Making Indonesia 4.0に合わせて生産管理・運営管理におけるデジタル技術の導入、自動化・省人化のための設備・システムの導入への投資を継続していくという企業もあります。

インド - 日系企業数1,441社うち720社が製造業(2018年10月時点)

7月5日までの累計感染者数は697,000名(回復者424,000名)、死亡者数は19,693名で、7月1日からのロックダウン緩和に伴って急激な感染者増が続いており、日系企業駐在員の8割が日本に一時帰国しています。

2020年4月の新車販売実績ゼロ、現状の自動車産業の稼働率はコロナ前の10%程度という惨状ですが、もともとコロナ禍前から自動車産業は不調が続いており、2019年度の乗用車販売は前年度比17.9%減の277万台であったところに、金融機関貸し渋り、自賠責保険料引き上げ、2020年4月の新環境規制(BS6)を見込んだ買い控え、コロナ禍によるロックダウンが重なりました。

ロックダウンの影響を受け、2020年4月~5月の失業率は23%台に上昇し、実質GDP成⾧率予測は-4.3%ですが、他国同様に電子機器市場は好調で、年平均成長率26.7%を記録しており、電子機器の約90%を輸入に依存するという輸入依存からの脱却を急いでいます。